第5-7頁 あの人に届きますように
ハームウルフからの襲撃を受けた悪キノコタン領地。
戦うことの出来ないキノコタン達の避難が完了するまで、六花はその場で魔物と戦わなくてはならない。
あまりの強さに死を確信した六花だったが……
・・・・・
「ふふ、六花さんかなりピンチそうですねぇ」
青空の花園でティーカップを口に運ぶ少女。
場面は移り変わり世界のどこかにある花園だ。鳥のさえずりは聞こえず、あるのは地平線まで広がる美しく咲く花のみ。
「どうするの?助ける?」
少し偉そうに桃色髪の女性は、水色髪の少女に問う。
数秒悩んだ末、少女は口を開いた。
「いたぶられる女の子と言うのも私、大好きなんですが、せっかくの研究対象ですし…ちょっとだけ」
その瞬間、少女の手のひらが眩いほどに光り、やがて小さな薄金色の光る玉が生成された。
その玉は水晶をすり抜けて、巨大な狼に拘束されたある一人の少女の胸に落ちる。
・・・・・
ぽちゃん…。
六花の胸の上に一滴の金の滴が、天からの水滴が静かに落ちる。
その瞬間から、世界は静寂に満ちる。
夜のとばりを打ち払うかの如く、天からあたたかい光が降り注いだ。
瞬間、異様な光景を目の当たりにした巨大なハームウルフは怯え、六花の身体から手を離す。
六花が目を開くと、ハームウルフは六花から慌てて距離をとる。
その六花の目はいつもの目とは違い、金色に輝き、六花本人が動く度、その場に軌跡を残す。
「退いてください」
その六花の声は、とても落ち着いていて、神秘に包まれたような声だった。
その声にはさすがのハームウルフも身震いを覚える。
「……」
六花は自分の人差し指をハームウルフに向けて片目を閉じる。
ゆっくり長く深呼吸をして、指先に意識を集中させる。やがて指先に丸い光の玉が出現した。
「聖属性魔法・電磁砲……ッ!!」
その瞬間、六花の指から太い光の筋が発射された。電磁波や激風を纏った黄白の熱光線。
その光はハームウルフを飲み込み、断末魔と僅かな電撃を残して消えていってしまった。
「うっ……あれ、意識が……き、え……」
地面に倒れた六花の目の前には、胸に穴が空いた巨大なハームウルフが屍となって静かに佇んでいた。
・・・・・
死後の世界の椅子に座る少女は、六花の様子を観察している。
「あらら、六花さんはちょっと無理でしたか…ま、これからどんどん慣らしていけばいいですよね。期待してますよ…六花さん」
そう呟くと、少女は六花から不思議な力を引き抜くのであった。
・・・・・
寒い、冷たい、暗い、悲しい、寂しい。
六花はただ真っ暗な視界の中、消えゆく意識をなんとか保とうとしたが、それは叶わない。
・・・・・
「ぶ……。丈夫……!? 六花! しっかりしてよ。目を覚まして!」
声が聞こえる……。この声はボクの大好きな人の声だ。
もう一度会いたい、その人に。
あの人の顔をもう一度みたい。
笑顔が素敵な、ボクを心から愛してくれるあの人に。
その人を心配させないためにも、出来るだけ早く……。
戻らないと。




