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総集編 101頁〜200頁までの軌跡 その5

割り込み投稿 (話と話の間にぶち込んで投稿するやつ) をすると予約投稿が出来ないので、この時間の投稿になります!


用事で6時に投稿が出来ないので!

第10章[アングリフ・ボレロ]


中央図書館占拠作戦編・中編


第168頁〜178頁



 その後、静紅とスズメの二人は明日の作戦に向けて各々出来ることの共有をするため教会の庭に出た。


「前に言ったかもしれないけれど、わたしの能力は物を浮かせて自由に操作することが出来る能力よ」


 二人の能力は全く同じ能力だった。


 しかし転移者と異世界人では能力の強さが違う。静紅の方が同時に操作できる数や精度が高い。


「じゃあスズメを弟子にしてあげよう!」


「はあ!? 誰があんたの弟子になんか……」


 二人は庭で能力の特訓や取り扱い方法の共有などをした。


 その時だった。


 教会の監視塔からけたたましい鐘の音が響いてきた。


「緊急、緊急! 入口前に数体の人造人間ホムンクルスが出現! 繰り返す─────」


「ホムンクルス!?」


 ホムンクルスといえば国王クリュエルが生み出す[化け物]の名前だ。ということはクリュエルもこの教会の付近にいることになる。


「……来た、奴らが。クリュエルが!」


 専用武器である短剣を握りしめたスズメは、取り乱したようにクリュエルの名を叫ぶと騒ぎの方へ駆け出した。


「ちょ、ちょっと待ちなよスズメ! 落ち着きなよ!」


「わたしは教会の防人よ、わたしが行かなきゃ誰が行くの! それにクリュエルは両親のかたきよ、わたしが倒す!」


 スズメの両親は教会には居ない。その理由は簡単で、もうこの世にいないからだ。


 スズメの住んでいた街に突然やってきたクリュエルに殺されたからだ。


 スズメの右腕に巻き付けられている赤い布は、そのとき両親が着ていた赤い服の一部だということを明かした。


 走って騒ぎの方へ駆けつけようとするスズメ。前方に高い塀があったので乗り越えようとした時─────。


『あァ……がァァ……』


 コンクリートよりも堅い魔法で作られた塀が、いとも簡単に突破されてそこから沢山の人造人間ホムンクルスがなだれ込んできた。


 ホムンクルスの姿を初めて見た静紅は、その恐ろしい容姿に思わず悲鳴を上げた。


 肉片を繋ぎ合わせたような身体をベースに目がいくつもある個体、腕が複数あったり、脚から棘が生えている個体もいる。


 それは、異世界目線でも、この世のものとは思えないような化け物。そう感じた。


 うすだいだいの肉片が日本人の肌の色に似ているからか、見ているだけでも惨い気持ちになってくる。


 泥ねんどのように塀や監視塔を破壊し、歩く度に大きな足跡を残すホムンクルスを前に、先程まで闘志に燃えていたスズメも顔を真っ青にした。


 静紅よりも遥かにスズメの方がホムンクルスに近い。


 破壊力が高い魔物は移動速度が遅いというのが鉄則だが、ホムンクルスはそのどちらもずば抜けていた。


 スズメを助けるため、静紅は[奥の手]を使用した。


 危険な時は使うといいとルリから教えられた呪文だ。効果は[ルリを強制召喚]するというもの。


「ルリ、あなたの魔法ならなんとか出来るでしょ! 私も出来る限りのことはするから!」


「ぎゃああ!? キモ! 何なのだあの化け物は!」


 そうこうしている間にもスズメには危機が迫っている。


 ルリは化け物は駆除しないといけない、という本能的危機によって咄嗟に魔法を使った。


 ルリの魔法によってホムンクルスは全滅し、スズメを危機から救った……わけであるが、その代わりに教会の塀や塔を跡形もなく吹き飛ばしてしまうのであった。


「助けてとは言ったけど……建物ごと破壊するのは違くない?」


「うぅ……ぐうの音も出ないのだ」


 ともあれ誰も怪我しなくて済んだのだ。それだけで万々歳だろう。



・・・・・



 土煙が止み、奥から黒い灰で汚れたスズメがふらふらとやってきた。


「今のは誰が……?」


「はいはいはーい、我だ。我の魔法なのだ!」


 自慢げに手を上げるルリに、スズメはもう一度ナイフを握り直した。


「ばっかじゃないのこの年中パジャマ! わたしが怪我したらどうするの、馬鹿なの? 死ぬの!?」


 慌てて魔法陣を編んだとはいえ、ルリの魔法は天を穿ち地を抉る威力を持つ。


 その爆心地でよくスズメは無傷でいられたものだ。


「シズ、あと一発だけ撃てる分の魔力が残っている。たった今使用用途が決まったところだ」


「あらあら、その用途ってものを聞かせてもらおうかしら? まさかわたしに撃とうなんて馬鹿なことは考えてないわよね?」


「なんだとこのチビ! やるか?」


「あんたもチビでしょバカ!」


「バカしか言えないのかこのバカ!」


「バカって言う方がバカなのよばーか!」


 ポコスカと殴り喧嘩を始めるルリとスズメ。そこへ背筋も凍るような声が飛んできた。


「ん……、どうして私の[子供達]が一掃されたのか分かりませんが、とりあえずあなた達の基地を見つけられました」


「クリュエル……!!」


 ホムンクルスが突破した塀の向こうには、妖しく佇む残忍姫オスカー・クリュエルの姿があった。


「ホムンクルスに襲わせて……一体何がしたいの!」


「そうですね……宣戦布告。とでも言いましょうか」


 再びホムンクルスを生み出すクリュエルを撃退するため、即席ではあるが静紅は作戦を二人に伝えた。


 先程の倍くらいの量のホムンクルスを前に、ルリは泣き目になりながらも魔法陣を編んでいく。


「スズメ、息を合わせるよ!」


「あんたが合わせなさい、わたしは自分のタイミングで行く!」


 ルリの乗った木の板を、静紅とスズメは全力で打ち上げた。


 空に打ち上げられたルリは背中から翼を生やし、気合を入れる。


「龍化四割! 喰らえホムンクルス、瞬間魔分子破裂エレメンタル・リベンジッ!」


 ルリの魔法によってホムンクルスは全滅し、クリュエルは口を歪ませた。


「これがわたし達の力よ! 分かったなら引き返しなさい!」


「ええ、そうさせていただきます。言ったはずです、これは宣戦布告だと」


 そういうとクリュエルは土煙の向こうへ消えていくのだった……。


 魔力切れで地面に倒れ込むルリを部屋に運ぶ静紅はホムンクルスの脅威とクリュエルの強大さに危機を感じるのだった。



・・・・・



 静紅たちがクリュエルの相手をする間、反対側の門でも戦いが起きていた。


 本能で危険を察知したルナは紗友里とジャンヌと迎え撃つことにした。


 そこへやってきたのは数体のホムンクルスを引き連れた銃士ソルーナだった。


 彼女は火薬銃の名士で、その二丁の銀の火薬銃を見て恐れない人はいないという。


 先鋒のジャンヌ・ダルクは能力[敵対する生物の動きを止める]を使用するが、ホムンクルスには通用しない。


 思考を持たないホムンクルスには敵対心も敵意も無かった。


 能力が通用しないホムンクルスに慌てるジャンヌは、そのまま高速で進軍するホムンクルスから重い一撃をくらった。


「あがっ!?」


「ジャンヌッ!」


 一撃で意識を失うジャンヌを避難させ、紗友里とルナは応戦する。


 ───────が。


「だめ、ホムンクルスが強すぎて……ルナの妨害魔法が効かない」

 

 ルナは敵の強大さと、自分の非力さを知ってしまい戦意を失いかけていた。


「ルナの能力は単純な魔力向上……。でも発動するのは姉さんと手を繋いでいる時だけ」


 思い返せば、ルカとルナが魔法を使う時は必ず二人が手を繋いでいた。双子姉妹故の能力でとても強力だが、代わりに欠点も大きい。


 ルカとルナが離れ離れになると、真の力どころか並の程度の魔力しか使えなくなるのだ。


 王都で一番の魔法使いと呼ばれていたルナは、少なからず自分に自信を持っていた。


「ルナがすごかったのは……姉さんのおかげ? ルナは姉さんがいないと……何も出来ないんだ……」


 混乱に陥るルナを、紗友里はすぐに見抜いて休ませる。


「この状態で戦うのは危険すぎる。ルナも休むといい、ここは私が引き受ける」


 結局、紗友里単身での戦闘になってしまった。


「貴様一人で何が出来る?」


「言っておくが私は一国の王だ。簡単には倒されないよ」

 

 火薬銃から放たれた弾丸が紗友里の頬を掠め、鮮血の擦り傷をいれる。


 しかし紗友里は異世界の王。自分の国は自ら守れ、の考え方のもと王はその国最強の人物でなければいけない。


 全身全霊の紗友里には、流石のソルーナもかなわず撤退を余儀なくされた。


 突如襲撃してきたホムンクルスは、同様に突如姿を消してしまった。


「引いてくれた……か。さあルナ、ジャンヌをベッドへ連れていこう。手伝ってくれるかい?」


「……ん」


 自分の非力さに打ちひしがれたルナは、顔を下に向けたまま小さな声で返答した。



・・・・・



 その後、静紅はルリを部屋に寝かせ、スズメに連れられて教会の最奥の部屋に向かった。


 最奥の部屋への入口は、普通なら絶対に分からないよう仕掛けを解かないと出現しない扉だった。


「すずめ、だいじょーぶ?」「ここ、ちがでてるよ」


 暗い部屋から飛び出してきたのは、教会で生活する幼い子供達だった。


 足に抱きついてくる元気な幼児たちを見て安心したのか、スズメは大きく息をついた。


「こんなの傷のうちにも入らないわ。あんたたちが無事で本当に良かった」


 3人の幼児の頬にキスをするベルアの姿は、紛れもない母親のソレだった。


「静紅、無事だったんだね。良かった」


「紗友里! 銃声とか聞こえてきたけど大丈夫……って怪我してるじゃん!」


 紗友里は頬を怪我していた。その後ろにはルナも立っている。ルナは暗い顔をしているが、この部屋自体が暗いので静紅が気付くことは無い。


「ジャンヌはホムンクルスの攻撃を受けて気絶してしまった。命に別状は無いらしいが……。すまない、私という者がいながら」


「謝らなくていいよ。命に別状が無いんだったら、不幸中の幸いだって考えよ? それに紗友里だったからこそ最小限の被害に抑えられたんだと思うよ」


 その後、一同は要請したはずの救援が到着するのが遅いのを心配する。


「荷物運びのためにフレデリカと結芽子もこっちに来ると思うから、他人事じゃないんだよね……」


 静紅の不安を、この国を覆う黒雲が体現していた。





今回も読んでいただきありがとです!



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