総集編 エーテル・カンタービレその17
「その者共を捕らえよッ! ここは帝国連合国最重要地点である、人外種などがその汚らしい足でズケズケと入っていい場所では無い!」
「うるさいですよこの青ヘルメット! フレデリカさんは人外種じゃありません、フレデリカさんです!」
アルトリアがチカコに拐われてから数分、フレデリカ達は先へ進むことにしたが、兵隊に見つかってしまった。
狭い廊下で激戦を行う中、六花、フレデリカは相変わらず口論をしながらアルトリアを信じて先へ進み続ける。
道中、別の場所で戦闘を行なっていたアリス&マル姉と合流を果たし、四人は更に地下深くへと向かう。
地下二階への階段を降りると、そこは薄暗く僅かな照明のみが置かれていた廊下だった。
その対角線上にあるのは、重く閉ざされた扉。
「フレデリカのパワーがあればあんな壁くらい楽勝だ、もう少し……もう少しでエーテルと出会えるんだ」
息を切らしながら歩みを進めるマル姉の言葉に、青年の声が飛んでくる。
「残念だがそれは叶わねえな」
「この声……間違いありません! カザキです!」
「おうおう、彼がリッカの言っていた例の腕銃の青年か!」
影から姿を現したのは、六花の言う通り腕銃の青年カザキだった。
「そこを通してください! ボクたちはエーテルさんを今すぐにでも救い出さないといけないんです!」
「なら尚更無理なお願いだな、俺は……いや。俺達はエーテルを渡すなと命令されたんだよ」
「命令された……?」
「あなたはリーダーじゃないのですか? この攻撃はあなたよりも上の存在から指示されているのですか!?」
「応える義理はないね。意思の相違ってなりゃやることはひとつしかないだろ」
腕銃を構えるカザキに対し、反射的にフレデリカも大剣を構える。
「やはりやるしか……!」
「待ってくださいフレデリカさん、まだです。今戦ったとしても勝率は低いと思います。カザキに有効な能力を持った人……静紅さんを待つべきです」
こんなチンピラのようなカザキでも、腕銃の強さは本物だ。
フレデリカが剣で斬るよりも、彼女が蜂の巣にされる方が早いだろう。
「確かにお師匠様の能力なら銃弾を捉えて、進路を変更して無力化することも可能でしょう……けどそれまで待ってくれればいいんですが」
カザキの仲間の増援が来ないという保証も無い、カザキ一人なら適当に会話をして時間を稼げるが、複数人なら無理だ。
「……いや、待ってください。あります、この状況を打開する唯一の手段が!」
六花には策があった。
それが得策では無いかもしれない、ここで使うべきじゃないかもしれない。
そうだとしても、今この状況を変えられるのは六花のこの策だけだ。
・・・・・
「[魔法札]にルカとルナの魔法を入れたいって?」
ある日、王邸の扉を叩いたのは六花本人だった。
曰く、必要になった時に使えるよう[ルカとルナの魔法を魔法札に収めておきたい]らしい。
魔法札というのは魔道具の一種で、札に向かって魔法を放てば一度に限り、いつでもどこでも誰にでもその魔法が使える強力な魔道具だ。
やってきた六花に対して、紗友里は真面目な顔で言った。
「それは構わないが、くれぐれも扱いには注意して欲しい。ルカとルナの魔法は強力故に[責任]が生じる」
「責任?」
「それと信用もだね。もちろん私は六花を信用しているよ、けれど世界連盟の人が六花を信用しているとは限らない」
紗友里は諭すように続ける。
「二人の魔法は、言わば私たちの世界で言うところの[核兵器]だ。その行使は世界からの責任と信頼の上に成り立ってるんだよ」
・・・・・
「サユリさんの言ってた通り、たしかにこの力には責任が問われる……責任、信頼、そして覚悟が必要です」
──────ルカさんとルナさんはいつもこの重圧を感じながら魔法を使っているんだ。
「アリスさん、磁力を使ってこれを敵にぶつけてください」
「分かった」
カザキをSにし、魔法札をNに。磁力の性質により、魔法札はカザキへと飛んでいく。
「クソ、魔道具かッ!」
カザキは避けようとするも、そもそも磁力で飛んでいるため魔法札は追従する。
「魔法札・火属性魔法・火龍!!」
六花が唱えた瞬間、魔法札が光ったと思えば中からルカとルナの魔法が飛び出してきた。
龍を模した火炎は狭い通路を駆けて、カザキ目掛けて一直線。
「くっ……相殺しろ、[噴火風龍]ッ!」
カザキが手をかざすと、そこから大きな口を開けた龍が出てきた。
龍を模した何かでは無い、龍そのものが出てきたのだ。
「凄まじい破壊力……ここに居てはダメです、逃げましょう!」
「いやだ! エーテルがもうすぐそこなのに!」
「死んでしまっては意味が無いでしょう!?」
抵抗するアリスを抱き抱えるフレデリカは、能力を使ってカザキの心情を読む。
─────この建物ごと破壊しようとしている? でもそんなことしたらエーテルを守れという命令に背くことになる。一体何を……。
「リッカさん、地上へ行きましょう!」
──────地下のこんなに深いところで龍を発生させるなんて! そんなことすればこの巨大な塔は足元から崩壊して、ここはぺしゃんこに潰れて……。
「居ない!? 彼が居ません!」
先程までいたカザキが、既に姿を消していた。
物陰に隠れても意味は無いだろうし、エーテルが補完されている部屋の目の前に抜け道があったとも考えられない。
「恐らく瞬間移動の類! くそ、カザキは自分だけ逃げたらしい!」
ここも直ぐに落ちる、彼女たちは急いで地上へ急ぎ、なんとか塔からの脱出を試みるのであった。
・・・・・
「兵隊の皆さんは……無事でしょうか」
「少なくとも無傷じゃないと思うよ、あの様子じゃ」
地下の柱を失った煙炉塔は落ち、倒壊はしなかったものの先程までいた地下二階はぺしゃんこに潰れてしまっていた。
「もう少しだったのに……ッ!」
歯を食いしばるアリスに、一同の表情は曇る。
「おーーーい! みんな大丈夫だった?」
そこへ飛んできたのはスケートボードに乗った静紅だった。
静紅は暗いムードの一行を見て、どうしたのかと駆け寄ってくる。
静紅は六花から諸々の説明を受けて状況を把握する。
「エーテルの監禁されている部屋までもうすぐだったのに……」
「落ち込む気持ちも分かるけど、今はそんな時間はないよ……」
「そうだ、アルトリアが行方不明なんです! お師匠様はどこへ行ったかご存知ですか?」
親友の無事を祈るフレデリカに、私は落ち着いた声で伝える。
「アルトリアならベルアが見つけて合流済みだよ、今頃エーテルの安否を確認してるんじゃない?」
あの崩壊の中、エーテルが助かる確率はかなり薄い。しかし誰もそれは口にしなかった。
「エーテルちゃんは無事だよ」
「今度は何!?」
そこへ現れたのは、白衣の女性とぬいぐるみを持った少女、そして足に車輪が取り付けられた少女だった。
「気をつけてください! 彼女達は瞬間移動を行います!」
アルトリアを誘拐した時もそうだ、突然現れて、突然消える。
恐らくカザキがあの地下から脱出できたのも彼女らの能力があったからだろう。
「チカコ……」
「そんなに睨まなくてもいいじゃん、私たちがエーテルを助けないと死んでたんだよ? むしろ感謝されるくらいのことをしたはずだよ」
「そもそもカザキが龍を発生させなければ崩壊はしなかったはず。エーテルはどこ!」
「今は仲間の腕の中さ。気を失っているからとても扱いやすくてさー」
チカコの言葉に苛立ちを感じたアリスは、腰のナイフを抜くと目にも止まらぬ速さで斬りつける。
「エーテルを……返せえええええ!!」
「エーテルちゃんは誰のものでもない。彼女のおかげでみんなが助かるんだ、これほどまで名誉なことは無い」
既のところでチカコはアリスの腕を掴み、抵抗する。
「エーテルが苦しんでまで作る未来に、未練なんて無い! 私はエーテルを助けるためならなんだってする!」
「私たちだってそうだよ、エーテルを守るためなら手段を選ばない。意見が違えば武力を行使するだけだよ」
チカコは白衣を脱ぎ捨てると、悲しい表情で手首を握る。
「私たちの先祖も、その先祖もそうしてきたじゃないか」
チカコは周囲に複数の[ムジン]を配置して、続ける。
「過ちは繰り返される。それはいけないことだと分かっていても、こうするしかないんだね」
「過ちは繰り返される。それはいけない事だと分かっていても、こうするしかないんだね」
その寂しい表情の裏側に何があるのか、今の静紅たちには分からない。
「みんなはムジンを相手して! 私はチカコを─────」
気がついた時にはもう遅かった。
景色は一瞬にして移り変わり、静紅は困惑する。
みんなが居ない、崩壊していた煙炉塔もない。
ここは……どこなんだろう。
「私もいつかは正義感にかられて誰かを救おうって志したっけ」
「チカコ……!」
「良い人で居たいという気持ちも、世界平和なんて掲げる大義名分も、もうとっくに捨てちゃった」
ぎこちない笑みでそう言ったチカコは、壁から離れるとゆっくりとこちらに歩いてくる。
「静紅ちゃんはさ、エーテルを助けたいって思ってるんでしょ」
「……そうだよ」
「エーテルを助けてどうするの? これまでエーテルの力で補ってきた電力は?」
エーテルを救うことで、今まで補っていた電力が補えなくなってしまう。
エーテルの力を使っての発電量は、全体の大半を占める。
それを突然取り除けば、アドウェルの国民は混乱に陥るだろう。
「エーテルは今やこの街の、都市の、そして帝国の土台なんだよ」
「だからって小さな少女一人を犠牲にするのは間違ってる! 何か別の方法があるはずなんだよ!」
「若いね」
「え?」
「─────世界の残酷さを知らぬ幼鳥よ、荒野を飛翔し現実を知りなさい。私の古い友人から言われた言葉だよ。今の静紅ちゃんにぴったりな言葉だね」
打ちのめされ、現実を叩きつけられた過去の記憶がチカコの脳裏に過ぎる。
「ちっ、こんな時に……とにかく! 静紅ちゃんは表面上の正義感だけで行動してるけれど、それに対する代償のことも少しは考えてって話!」
「あなたに……何があったの」
私はチカコに手を伸ばす。
「近づかないで」
能力を使用し、手の中に電磁爆弾を生み出すチカコ。
まるで心を閉ざした子供のように、高い壁を築き上げた彼女はこちらを睨む。
「近づいたら爆破する」
「なんで……どうして……」
「同情はいらない! このまま静紅ちゃんはここで私と全てが終わるまでここで─────!」
「……どうして泣いてるの……?」
「え……」
チカコは静かに両目から涙を流していた。
・・・・・
──────ごめんね。
──────なんでお前が……生き残ったんだよ……!
──────よろしくね、チカコ!
──────あの屋敷には宝物があって、それを手にした人は何でも願いが叶えられるんだって!
──────私ね、夢があるんだ。
──────世界の残酷さを知らぬ幼鳥よ、荒野を飛翔し現実を知りなさい。
「コ…………チカ……チカコ!!」
「ッ……!!」
彼女が気がついたのは、涙を流し始めてから数秒後のことだった。
静紅に向けられた電磁爆弾も地面に落ち、チカコは心ここに在らず状態だったらしい。
「……なんでもない、あることを思い出しただけ」
「涙を出すほどのこと?」
「……行きなよ、エーテルを助けるんでしょ」
彼女が何を言っているのか、よく分かっていなかった。
しかし彼女の目を見れば何となくだが分かった気がした。
戦意を喪失していたのだ。
「この世界に来た頃、夢を掲げた少女がいた。それに並んで、夢の打ち砕いた人がいた。今この状況を見れば、私が後者の立場……だよね。あんなに恨んた人と、変わらないことをしていた……」
チカコは振り向き、静紅を煙炉塔へ向かわせる。
そう言うチカコの背中が、やけに悲しそうに見えた。
・・・・・
「多勢に無勢とはまさにこのことですね……ほんっとにもう……!」
裏に潜んでいたカザキの部下達が六花たちを取り囲む。
「俺たちがここで取り囲んでいること自体に意味がある、何もしなくていい」
部下の中の誰かがそう言うが、フレデリカは目を丸くして慌てている。
「とは言ってますが……絶対何かしてくるでしょあれ!」
「いいえ、もう大丈夫です」
「え?」
空を見上げながら平然としている六花。
フレデリカもそれに釣られて空を見る。
「ボクたちの中で一番勇敢な子が、空から降ってきますから」
六花の勝利を確信した顔は、フレデリカ曰く今まで見た彼女の顔の中で最も────。
「喰らいなさい、不死鳥光爆撃ッ!!」
──────美しかったという。
うわーん! 総集編が終わりません!




