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総集編 エーテル・カンタービレその7


 工場爆破の容疑にかけられたベルアと、近くにいた結芽子と蜜柑は牢獄にぶち込まれた。


 それを静紅たちが知ったのは、1時間程度経過したあとだった。


 一行は無論助けに向かうことになるが、全員で向かえばもし全滅した時に詰むので、四人にメンバーを絞ることになった。


 一人目は静紅。魔法人形は脱獄に色々と使えそうだからだ。


 二人目はフレデリカ。立花とどちらが向かうか言い合いになったが、なんとか権利をつかみ取れたらしい。


 三人目はアルトリア。彼女の能力は探索、追跡に特化しているので必須だ。


 そして四人目はアリスだ。土地勘と国の知識要員だけでなく、アリスも実は戦える。


 というわけで四人はベルアたちの奪還のため、ここから一番近くの牢獄へ向かうのであった。



・・・・・



 時を同じくして、ベルアと結芽子、蜜柑が牢獄に捕まったという情報を仕入れた腕銃の青年カザキ一行は、戦闘の準備を進めていた。


 カザキたちの半龍族人身売買計画は、静紅らによって悉く失敗した。


 その影響で、カザキは静紅に強い恨みを持っている。


 また出会う時が来たら、今度こそ一発殴ってやるというくらいだ。


「よしマスラ、準備しろ。チカコは待機な」


「あいっす!」


「うえー、私も行きたい!」


「お前まで来たら基地はどうすんだよ、残れ」


 カザキは椅子から立ち上がると、その修理したての腕銃を掲げた。


「正義感に溢れたあの馬鹿が絶望する姿。俺はそれが見てェ……これは楽しくなりそうだ」



・・・・・



 静紅、フレデリカ、アルトリア、アリスの四人はルファス区域にある牢獄に無事潜入。


 看守に紛れられるようロッカーから制服を奪い、ベルアたちの牢獄を探す。


「スキンヘッドにスキンヘッド、たまにトサカがいるくらいだねー」


「やめなよ、変に挑発したら何されるか分からない」


 人を見た目で判断するのはよくないが、罪を犯す人間や盗賊団はだいたいスキンヘッドかトサカだ。


 むさ苦しい男たちの咆哮をくぐり抜け、静紅たちは廊下を進んでいく。


「アリスは私と出会う前は何をしてたの?」

 

「今それ聞くの!?」


「三人を見つけるまでは暇じゃん、それにアリスのことはできる限り知っておきたいし」


「……。はあ……どうしてそこまで緊張感が無いわけ? 頭のネジ一本飛んでる?」


「最後のは余計!! 緊張がないっていうより、緊張する必要が無いって感じかな。怯える必要も、抱え込む必要も無いんだよ、緊張って一種の負の感情でしょ?」


 イナベラもジャンヌも変に緊張していなかった。堂々としていた。


 堂々としているのは彼女らを堂々たらしめる実力あってのものかもしれないが、形だけでも静紅は彼女らの真似をしていたいのだ。


「……間違ってないとは思うけど……うーん」


「ね、だから教えてよ! アリスのこれまでをさ」


 彼女は少し考えた後、渋々と自分の過去について語り出すのであった。


 アリスの懐中時計に貼られた写真には、とある姉妹の顔が写っている。


 言わずもがなマル姉とアリス、そして例のエーテルという少女だった。


 大人びた顔をしているが元気よくポーズをとるマル姉。


 そんなマル姉に苦笑いしながらありきたりなピースをするアリス。


 そして姉達を尊敬し、愛していると言わんかのように年相応の明るい笑顔のエーテルだ。


 エーテルの顔は初めて見たが、二人の顔とよく似ていたのですぐにわかった。


「みんな可愛いね」


「お姉さんが言うと幼女愛好者みたいになるよ」


「は、はあっ!? 別にロリコンじゃないもん、可愛いって思った子がみんなロリなだけだもん!」


「エーテルは私の妹だからね、可愛いのは無理もないか」


 写真のエーテルを優しく撫でるアリスには、どこか寂しそうで儚いものを感じる。


「私たち姉妹は今と変わらないルファス区域のあの家で暮らしてた。両親の経営する酒屋と民家が合わさったような家でね」


 アリスは再び服の中にネックレスをしまうと廊下の向こうへ歩き出す。


「昔から廃材だらけの場所だったけど今ほどじゃなかった。家の近所の空き地でよく走り回ってたっけ。ルファス区域の看板娘だなんて言われたりもしてた」


 彼女の話す情景を、静紅が想像するのは容易なことだった。


「青髪三姉妹なんて言われてたのも三年前までだった。エーテルは生まれつきとある能力を持っている珍しい子で、その内容が悪かったんだと思う。上流階級の人間に目をつけられたエーテルは……誘拐された」


「能力の内容が悪かった? それってどんな能力だったの?」


「[対象に自分の生命力を分け与える]って内容。名称は【聖水力エーテル】」


「自分の生命力を与える……それはどういう効果があるの? 不死身になったりする?」


「不死身は無いかもだけど、長生きはすると思う。疲労困憊でも一気に元気になったり……あとは木の苗に能力を使ったら一晩で立派な木になったこともある」


 何それ凄い。


「でもひとつ難点があったんだ。生命力を与えるこの能力は、簡単に言えば寿命や血を与えているのと変わらない。与えれば与えるほど、エーテルに負荷がかかるってこと」


「[酷使]したらどうなるの?」


「後遺症は間違いなく残ると思う、最悪の場合生命力の与えすぎでエーテルがからっぽになって死ぬ」


「死ぬ……」


「まあ最悪の場合だからね。……それでも不安なんだ、上流階級の人間というのはいつの時代も貪欲なもの。エーテルの力を欲した悪人が、無理にエーテルの能力を使用してるんじゃないかってね」



・・・・・



「開きなさいよ、この!」


 牢獄に連れてこられてから数時間経過した今でも、ベルアは必死に牢を破壊しようと試みていた。


「きっと無駄だぜ、腐らせることも燃やすことも出来なかったんだ。お前の力で曲がるほど、鉄は柔らかくねえよ」


「せめて何か出せたらな……ここに来てから能力が全く機能しないんや」


「大丈夫だろ、きっと静紅が助けてくれる。俺はそれが来るまで寝るぞー」


 大きな欠伸をして寝転ぶ蜜柑に、ベルアは遂に堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減にしなさいよ! ここは牢獄で、これからどうなるか分からないのよ!? 早くここから出ないと!」


「これからどうなるか分かんねえんだろ? 無事かもしれないじゃん」


 腹を掻きながらそんなことを言う蜜柑。そんな彼女にベルアは怒りを忘れ呆然としていた。


「仲間が大切だの友達が大切だの言うんならさ、信じろよ。少なくとも俺は静紅が助けに来てくれるって信じてるぜ」


「とかカッコつけとるけど、実は内心焦ってるんやで」


「それ言うのは反則だろ結芽子お!」


─────助けに来てくれるって信じてるぜ。


 その言葉を聞いたベルアは静かに座ってその時を待つのであった。


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