総集編 エーテル・カンタービレその2
新たなアテナの武器、双概銃壁アイギスをポカから受け取りその盾の強大さに揺れる一同。
その後、ポカに案内されてとある研究施設にやってきた私たちは、そこでとある少女と出会う。
「ベルア。神託を使役する唯一の存在とでも言おうかしら」
「ベルアさん! 私のこと覚えていますか? 王邸で二年間働いていたフレデリカです!」
「げっ、でかい世話役……なんであんたがここにいるのよ! ああもう、格好つけて自己紹介した意味がないじゃない、それに恥ずかしいし」
どうやらベルアとフレデリカは、彼女がメイド時代の時の知り合いらしい。
後から聞いた話だが、紗友理とポカ、そしてベルアは八年前の王都決戦で共に背中を預けあった仲のようだ。
アストロ・シェルタで国中を渡り歩き、そこで様々な経験を積んでいき最終的には紗友理に[仲間]を教えた本当の仲間。
「なんだ、やっぱガキじゃねえか」
「よし燃やす! あんた覚えときなさいよ!」
「ひいいいい!!」
突然髪を真っ赤にして蜜柑の胸ぐらを掴むベルアに、彼女のことを知らない数名は驚く。
「髪が燃えるように赤くなってます……それにこの反応は……ベルアさん、あなたは一体……」
能力でベルアの情報を見たのだろう、驚いた六花はベルアに尋ねる。
「さっきも言った通り、私は神託と力を共有しているの。不死鳥のフェニックス、輪廻竜のテュポーンの二匹ね」
案内役のポカは静紅の方へ振り返ると、苦笑いしながら説明してくれた。
「おかしな話だけど、不死鳥の力を使うときは髪が燃えて、輪廻竜の力を使うときは青くなるんだ」
不死と輪廻の二つの力を持つ少女、か。こりゃまた凄い子と出会っちゃったよ。
・・・・・・
時は数日前。場所、帝国領域南部北域に位置する巨大な近代都市アドウェル。
筒型のガラス水槽に浮かぶ奇妙な生物が一つ。
「……」
水槽の付近に置かれた説明文には、生物の名前と性質が記されていた。
「カセドラル……」
歪な形をして、謎の液体に包まれたその生物はようやく胎児となったばかりだった。
「こいつが世に出回った時、それこそ世界の終わりね」
今のうちに殺しておきたいが、そうすると警備システムが作動してこちらが殺されてしまう。今回の作戦はあくまで状況把握、全てはそれからだ。
背中に光線銃を携えた青髪の若い女性は皮肉混じりにそう呟くと次の場所へ向かう。
「ここに必ず情報があるはず……」
空中に浮かんだモニターに手をかざし、事前に調べておいたパスワードを入力していく。
彼女の真なる目的は先程の化け物なんかではない。
「……!?」
しかしそのとき、モニターの操作を誤ったためか研究所内にけたたましい警報音が鳴り響いた。
驚いた女性は接続されたデータだけポッケにしまうと急いで施設からの脱出を試みる、が。
『グギギギ、シン、ニュウシャ!!』
屋外から脱出したとき、目の前に見上げるほど巨大なロボットが現れた。
二足歩行で機関銃が取り付けられた左右の前脚、そして一番の特徴は[無人]だということ。
「あなたの登場で推測が確信に変わったわ。重要な情報があるから、ここまで巨大な警備型[ムジン]を配置しているのね」
女性は背中の光線銃を両手で持つと、戦闘態勢に入る。
「車輪付きの脚に、装弾数千を超える機関銃……でも私には敵わないかも」
光線銃の引き金に指をかけると、女性は頭に巻いた赤いバンダナの下でニヤリと笑みを浮かべた。
そして姿勢を低くして地面に触れる。
『グギギ、キエ、タ?』
機械でも動揺はするらしく、予想外の現状をみて次の手を考える。
「上」
『ア??』
先程地面に手をついていたはずの女性は、いつの間にか機械の頭上に居た。
機械でも予測不能、探知不能の奇抜な動きをする彼女の戦闘スタイルは、自慢ではないが知り合いの中で最強と言われている。
「ばーーーーか」
機械の脳である部分に着地した彼女は、遂に引き金を引いてその銃口から光の銃弾を発射する。
途端、機械は悲痛な機械音とともに内側から爆散を起こした。
上手く地面に着地した女性は、首から提げたブレスレットを開く。そこには幼い彼女と、彼女の妹であろう人物が仲良く笑っている写真が貼られていた。
「待っててね[エーテル]、お姉ちゃんが必ずあなたを助けてあげるからね」
あの子を助けるためなら、彼女は自分の命さえも投げ出すだろう。
機械に拘束され、コードとパイプに繋がれたあの監獄から愛する妹を救うため、女性は若いながらも命をかけた一手に出る。
[エーテル]が人間らしく、そして以前のように笑えるように。
ただそれだけ、ただこれだけの小さな願いを胸に。
これはとある一つの姉妹と世界を牛耳る帝国の物語────────。
・・・・・
翌日、静紅と六花は二人で再びベルアのもとに訪れた。
ポカはどうやら忙しいらしく、アルトリアの剣を修繕してからすぐに一行の前から去っていった。
「これでよしっと。はい、今月の分ね」
朝早く出発したつもりだったが、もう既にベルアは机の前で作業をしていた。
「はい、たしかに。毎度ありがとうございます」
配達員だろうか、若い男性は帽子を脱いで一礼するとベルアから荷物を受け取って竜車に積んだ。
「あれはなに?」
ベルアのテーブルに視線を落としながら問う。
「細胞研究のための薬液よ。リンの力を濃縮して、液体化したものを小瓶に詰めて売ってるの」
「輪廻竜の力を……それは本当にいい事なのでしょうか」
六花は思い詰まったような表情で呟いた。
輪廻竜の力は[対象の時間を巻き戻す]というもの。
言えば、自然の摂理を根幹から揺るがす力だ。
ベルア自らの手で力を使うのは問題無いが、目の届かないところで神託と呼ばれた偉大な力を使うのはどうなのだろう。
「リンは構わないって言ってるけれど……たしかに厄介なことにはなりそうね。とはいえ研究の費用の大部分はこの薬液だし」
「旧王都の研究の費用なら紗友里が出してくれそうだけど、聞いてみたら?」
「あいつの力を借りるのは性にあわないわ、なんというか……そう! 私は大人だから!」
誰かの力を借りるのは問題ないらしいが、王様になった紗友里の力を借りるのはプライドが認めないらしい。
「とりあえず薬液が何に使われているのか、足を運んで見てみるのはどうでしょう? 悪いことに使われていては、今後の研究にも響くと思いますよ」
「そうね、悪用されていたら公になる前に受注しないようにしないと。思い立ったが吉日、今から行くわよ! あんたたちもついてきなさい!」
「うええ!? い、今からですか!?」
静紅と六花の手首を掴んだベルアは、勢いよく走り出すと研究施設中に散らばっていた一同を集合させた。
薬液が使われているのは帝国付近の都市らしい。この世界の近代都市というものを静紅は知らない。
帝国までは遠く、移動手段はどうしようかと悩んでいると、突然背後から声をかけられた。
「私の能力、貸してあげるよ。シズクチャン」
そこには血生臭い匂いのする少女、狂愛心の成れの果てフォルエメが居た。
一同は驚き、戦闘態勢をとるが少女に敵意はないらしい。
フォルエメの能力は、黒いワープホールを生み出すという能力だ。
確かに今の状況じゃ、彼女の能力は喉から手が出るほど貸してもらいたいが。
「そんなの信じられるわけありません、あなたはお師匠様を殺そうとしました。過去の過ちは消えませんよ」
警戒するフレデリカに反論するように、また一つ誰かの声が聞こえてきた。
「彼女の言っていることは本当よ。私が保証するわ」
「ペルソナ……」
腰まで伸びた桃色髪の女性を見たフォルエメは、突然態度を変えて彼女の方へトコトコと歩いて行った。
「目的地まで五日のところをフォルエメの力を借りれば一瞬で到着よ。借りない手は無いでしょう? さあ、これ以上抵抗するなら強制送還よ」
静紅とベルアはペルソナに手首を掴まれると、彼女の謎の怪力によって軽々と持ち上げられ、フォルエメの出現させたワープホールに投げ込まれる。
「ちょっと、離しなさいよこのバカああああああああああ!!」
「あえ!? うわあああああああああ!!!!」
「あ、静紅さーーん!!」「待ってくださいお師匠様!」
放り込まれた静紅を本能的に追いかけるように、六花とフレデリカもワープホールに飛び込んできた。
「私たちも行くで!」
「みんなをおいて置けないからね!」
「ったく仕方ねえなあ!」
その後、三人もワープホールへ飛び込んでいった。
その場に残ったペルソナとフォルエメは、沈黙するその場所に佇む。
「これでよかったんだよねェ?」
「ええ。あなたも成れの果てなら、できる限りは協力しなさい」
「計画とか全く知らないけどさァ、私の好きなことは消えないようにしてね?」
「全ては[オペレーション・リアリティ]の後に決まる。この世界の住民と外の世界の住民の関係性の研究。全てが終わったそのときに、あなたの好きなことが残っているといいわね」
成れの果てたちが掲げる最終計画目標、オペレーション・リアリティー。
「サユリが転移した時から開始されたこの計画は、シズクの発生によって佳境を越えた。まだ研究資料は不十分よ。資料が集まるまでは、楽しい人生を送ってもらうとしましょう」
「ふうん、変なの」
目の前に起こる大惨事の裏で、まだ影に潜む新たな大惨事も静かに力を蓄えていて……。




