総集編 聖夜に響く賛美歌をその1
静紅たちが住む国、ヴァイシュ・ガーデンにも冬がやってきた。
雪の降る王都で偶然静紅は双子メイドの片割れルカと出会い、家に招くことになった。
二人が家に帰ると、家族たちが何やら言い争いをしている。
「クリスマスといえばサンタだろ!」
「いーや、赤鼻のトナカイに決まっとるやろ!」
「クリスマスツリーが妥当です!」
蜜柑だけが騒いでいると思ったが、どうやら結芽子と六花も大声を出していた。
どうやら家でクリスマス会を開きたいらしいのだが、予算の関係上、一つしか[クリスマスらしいもの]を準備できないようだ。
日本出身の三人は盛り上がっていたが、反対に異世界人のフレデリカとアルトリアは頭の上にハテナを浮かべていた。
「クリスマスを知らないの? サンタもクリスマスツリーも知らない?」
「「知らなーい」」
「ならせっかくだし、今年は街中でクリスマスパーティを開かない? 紗友里も協力してくれるだろうし! 王都中を飾り付けして、みんなでクリスマスを祝うんだよ、きっと楽しいから!」
「街全体をお祭りムードするのですね! くりすますが何か分からないけれど、幸せな思い出が作れそうです!」
こうして静紅たちの王都クリスマス化計画は始まったのであった。
・・・・・
王都でクリスマスをしたいという旨を紗友理に話すと、案の定彼女も乗ってくれた。
何より紗友理の付き添い人である凪咲が喜んでおり、イベント好きの凪咲にとって約八年ぶりのクリスマスなので「絶対成功させよう!」と意気込んでいた。
紗友理からの許可を受け取ったので、どんなことをしようかと考えながら静紅は勤務先のリーエル魔道具専門店を訪れた。
「はぅあ!? ど、どうして魔法絹がこんな大量に!?」
「つってもなァ……今更取り消しすることは出来ねぇよ店主さん。どうしたもんかな……」
そこには魔力の繊維で編まれた布[魔法絹]に埋もれて泣きわめくリーエルの姿があった。
「な、何この量! リーエルあなたまたやらかしたの?」
「うええええん……ずびばぜん……」
足の踏み場もないほど魔法絹が店の中を占領している光景に、静紅は口を開けるしか無かった。
「というか布をこんなに注文して、店の財産はどうなったの?」
静紅の問いに魔法絹を郵送してきたのであろう、男性の竜車乗りが「うーん」苦笑しながら言った。
「魔法絹なんて安くは無いし、軽く見積っても純金貨十五枚ってところだろうな……払えそうか?」
さすがに高すぎる額に竜車乗りも心配そうに投げかける。
ただ責任者のリーエルは泣きわめくだけだ。
勤務先のことを言うのはあれだが、この店にそんな大金は無い。
「シズクさーん、払えますか……?」
「何で私が払わないといけないの!? ええ……私だってそんなお金持ってないよ……」
そのとき、静紅に電撃が走った。
「あそうだ! ねえ、魔法絹の加工って比較的簡単だったよね?」
「ええまあ、でもそれがどうかしましたか?」
魔力の繊維で編まれた魔法絹は、裁つときに念じた形に簡単に裁てるので加工は便利だ。
「魔法絹で生まれた大赤字を、魔法絹で取り返すんだよ!」
静紅とリーエルは持ち金の大半を使って魔法絹を全て購入した。
「まいど。じゃあな店主さん、今後ともごひいきに」
そう言うと竜車乗りはニッと笑って竜車を走らせた。
「ありがとうございますマドンさん!」
そういえばリーエルが魔道具を仕入れるところを初めて見たな。
「マドンって?」
「ここから少し行ったところにあるグロールという街の竜車旅団の団長さんです。娘さんも竜車乗りをしてて、うちのお得意先なんですよ」
竜車旅団とかあるのか。タクシー会社みたいなものかな?
「へえ! 父親のかっこいい姿を見て娘ちゃんも竜車乗りになったって感じかなあ」
「それはそうとシズクさん、こんな大量の魔法絹をどうするって言うんですか?」
「もうすぐクリスマスっていうキリスト……は知らないか。まあサンタクロースっていうおじさんがプレゼントを配るイベントがやってくるんだ。その準備を私が任されたんだけどね」
「ああ、クリスマスですね! ……あれ、なんで私知ってるんでしょう。まあいいです、それと魔法絹にどんな関係が?」
魔法絹は想像しながら裁てば誰でも綺麗な生地ができることに定評がある。
つまり『バカでも』できる作業だ。
「明後日までには試作品を一着持ってくるよ、きっと気にいる」
・・・・・・
「うわあああああん、なんで俺たちがやらなきゃなんねーんだよ!」
「静紅ちゃん酷いわあ……私らが不器用なこと知っとるやろ?」
その日の夜、泣きながら裁ちバサミを動かす蜜柑と結芽子の姿があった。
「ふふ、その魔法絹、バカでも綺麗にできるみたいだよ」
「おいそりゃどういうことだ!」
「えへへ、言わなーい」
魔法絹で仕立てたクリスマスの衣装を大量生産して、それを売れば赤字を取り戻せるかもしれない。
というわけで二人には馬車馬のように働いてもらおう。
・・・・・
紗友理の影響力をうまく利用して国民にクリスマスという行事を広げ、街は一丸となってクリスマスの準備を進めていた。
クリスマスの衣装を発注ミスした魔法絹で作ることで、あっという間に赤字は黒字に変わり、店は大盛況となった。
衣装作りに役割分担、お菓子作りとツリーづくり。
気分は高校の文化祭だ。




