総集編 セパレート・ファンファーレその13
ついに諸悪の根源、国王ストーリアと邂逅した紗友理たち。
各々が全力を出して応戦する中、ストーリアは笑いながらそれをいなしていく。
そして動きを止め、再び笑う。
「判断を誤ったね、先に召喚士を倒しておくべきだった」
「召喚士……?」
ストーリアは指を鳴らし、どこからともなく現れた召喚士たちに合図を送る。
刹那、足元の魔法陣が眩く輝きだし、床を突き破るように巨大な龍が召喚される。
まるで見計らっていたかのように、ストーリアは龍が召喚された瞬間に魔法陣の中に飛び込み、わざと自分から龍に喰われて消えた。
「ダメだ、奴は死なせない! 生きさせて罪を償わせないとッ!」
「そうだ、そうでもしねェと私の気が収まらねェ!!」
「無茶言わないでくださいサユリ様、アーチェ様! でないと死にますよ!」
「すまないべルア、君の両親を……私は救えなかった……」
おそらく大精霊であろうソレが召喚されたことで、隣の部屋で見た生贄たちは消滅してしまう。
凪咲とヘルスアがその様子を見て悲鳴を上げる中、紗友理は悔しそうに声を漏らすことしかできなかった。
・・・・・
王邸を突き破るように召喚された大精霊は、全ての精霊の中で最も[龍]に近い存在だ。
あまりに大きすぎるそいつを見て、アストロ・シェルタにいたベルアは飛び出した。
『正気か小娘! たしかにあの鍛冶師は危うくなった時にのみ出撃するようにと言ったが、あれは危険うんぬんの話では無い!』
「私が行かなきゃ誰が行くの。私がやらなきゃ誰がやるの。あんた言ってたわよね、見たことないことを見たいって! 私が見せたげる。だから力貸しなさい!」
『ぴゅい!』
「フェニはいい子ね本当に。ほらあんたも」
『……死ぬようなことがあれば無理やりにでも引き戻すからな』
・・・・・
あまりに巨大な大精霊に呆気を取られていた凪咲だったが、魔物嫌いのカリンがあげた悲鳴で彼女は我を取り戻した。
「あ、ああ……いやぁぁぁ!!!」
「はっ、みんな大丈夫……?」
まるで生気の無い凪咲は、地下の壁に手を付きながら弱々しい声でそう言った。
「ニンナが気絶、カリンがトラウマで行動不能だ。アーチェは?」
「私を誰だと思ってやがる、化け物は死ぬほど見てきたぜ……」
行動不能の仲間たちを担ぎ上げて地下を出て、一行は一度王邸から距離を置いた。
道中、生活の賢者オーケアたちと合流し、仲間たちに死者が出ていないことを確認した。
仲間たちの安全確認を行なっている間、トカゲのような姿の大精霊は王都で最も高い時計塔に登り、ぼうっと空を眺めていた。
「先ほど召喚士を尋問してきたが、どうやら不完全な状態で召喚したことで、大精霊の意識が朦朧としているらしい。言うなれば[寝起き]だな」
「じゃあ完全に目を覚ます前になんとかしなきゃね!」
なんとかしなきゃとはいうが、大精霊の表面は硬い鱗に覆われており矢はおろか剣すらまともに通らない。
どうしたものかと頭を悩ませる皆の元へ、アストロ・シェルタから不死鳥の背中に乗って飛んできたベルアが合流する。
ベルアが所有する輪廻竜曰く『彼奴の体力をある程度まで減らすことが出来れば、輪廻の力を使って大精霊を召喚前の時間まで戻し、生贄として使われた人間たちを復活させられる』らしい。
「テュポーンがこの作戦の鍵、か。……よし皆聞いてくれ。大精霊の背中の上にエネルギーを蓄積する器官を見つけた。ラクダが水分をこぶに収納しているように、おそらく大精霊もその器官にエネルギーを格納していると思われる」
作戦説明を行う紗友理に、狩猟の賢者アーチェは弓の手入れをしながら。
「要は背中に乗り込んでその格納器官をぶっ潰せばいいんだろ?」
「ただ数が多すぎる、ベルアを動員させて四人だとしても時間がかかるんだ。どれだけの硬さかも分からない、せめてニンナとカリンがいれば……」
ここに来て人員不足か畜生、そう思い悩んでいたその時だった。
「ん? 雨……」
凪咲の鼻先にポツンと一雫の雨が落ちてきた。一同は同時に空を見上げ、そこには先ほどまで晴れていたのにも関わらず巨大な黒雲があった。
変な雲だな、そう言おうとしたその瞬間。
「な、何あれ!!」
空から鯨を模した水の塊が落ちてきて、王都に降り注いだ。
「突然の訪問申し訳ありません。広域通話道具より救援要請を賜り、早急に来た次第です」
黒服の中に柔道服のようなものを着た女性と、その召使いであろう少女だった。
柔道服の女性はもちろん、召使いからも凄まじい強さを持っていることを目の当たりにするだけで伝わってくる。
「この方は海国ウォルロ・マリンを治める王、泡沫王シノノメ様。わたくしはシノノメ様の付き添い人をさせて頂いておりますスイレンと申します」
「王様……? お、王様だって! やっぱり私たちの声は届いていたんだ!」
凪咲は手をあげてバンザイのまま喜んだ。
言うまでも無く強力な助っ人だ、願わくばではあったが本当にあの通話道具が届いていたとは。
スイレンと名乗った少女は、腰に刺した二本の刀に手を載せるとそのぱっつんヘアを揺らしながら告げた。
「先方の脅威、大精霊を討伐するため助力します」
「ちょうど人の手が足りなかったところよ、良い時に来たわね!」
「こらベルアっ、あまり無礼の無いように頼むぞ」
「さっきからこっちの人話してないけど大丈夫かな、どこか体調でも悪いの?」
言ったそばから凪咲が間抜けそうな声でそんなことを言う。
「シノノメ様は極度の人見知りなのです。こうして瞳を閉じ、周囲にぷかぷかと水の泡を浮かべることで精神統一をしているように見せるのです」
「だ、誰が人見知りだ。私は至って平常心でいるぞ!」
「そう言いながら足を震わせているのはどこのどなたでしょう。そんなことよりすぐに作戦に取り掛かりましょう。失礼ではありますが先程の作戦、全て聞かせて頂きました」
「そのほうが説明が省けて助かる。君達の力の強さは聞かなくてもわかるよ」
王一人増えるだけでここまで安心感が増すとは思わなかった。
あんな化け物にだってさえ勝てるような気がしてくるのだから。
「目標は背中の格納器官、初対面ではあるが背中を預けることにするよ!」
紗友里たちは増援の二人に背中を預け、召喚された大精霊へ挑むのであった。




