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総集編 セパレート・ファンファーレその8


 この国の王になると胸に誓った翌日。


 紗友理は騎士団長とカリンに王政の陰謀について話し、有事の際は協力してもらうことを約束させた。


 とはいえ立場は対等で、何よりカリンは友人だ。


「騎士の仕事があるので私は一緒に行けませんが、決戦の時は必ず駆けつけますからね」


「ああ、グリムニルの戦力は頼りにしている。もちろん、君の戦力もね」


「対人戦は私の専売特許ですから」


 ドーンと胸を張るカリンに微笑み、一行は城塞都市グリムニルを後にする。


 人口のほとんどが騎士である城塞都市グリムニルと協力体制を確保した紗友理たちだが、それでも国王と六賢に対する戦力としては心許ない。


「水浴びに行きましょう」


「え?」


 一行はここまでの旅の疲れを癒すため、近辺で最も澄んだ湖がある村へ向かうのであった。



・・・・・



 湖の村は予想以上の田舎で、そこで一つの問題が起きていた。


 とても澄んだ湖が特徴のこの村だが、最近湖の守り神が荒れており、水質に影響が出ているらしい。


 守り神の問題を解決すれば、自由に湖で泳ぐことができる。


 その神の名は[輪廻竜テュポーン]。


 その名前を聞いた時、不死鳥フェニックスが大きく反応を見せた。


 紗友理たちはとびきりの休暇を求めて、守り神の祠へ向かう。


「さっさと姿を現しなさい! 言っとくけどあんたなんかちっとも怖くないし、他所者だから祀ってもないからね!」


「竜に大きく出るねベルアちゃん、でもまあみんなに迷惑かけちゃいけないからね。テュポーンさん、もう少し力を抑えてくれませんかあ!」


 凪咲が大声で叫んだ数秒後、祠の奥から咆哮が飛んできた。


 思わず耳を抑えてしまい、怯んだところに声が響いてくる。


『先程の大声は貴様の物か、愚かな人の子よ』


「あ、あのう……最近力が暴発する、なんてことはありませんか?」


『問に答えよ。奇妙な服を着た女子、貴様など簡単に殺せる。言葉を選べ』


「ひ、ひいいい……怖いよ紗友里ちゃあん」


「引っ付くなこのっ! ……とにかく先に姿を現せ、言葉からしてそちらからはこっちが見えているんだろう?」


 紗友理は凪咲を後ろに下げて、姿の見えない守り神とやらに言った。


 すると彼はため息をついた後、ゆっくりとその姿を現してきた。


「これがあなたの姿ね、テュポーン」


 碧の鱗をびっしりと生やした巨体に、蛇のように舌をチョロチョロと見せる顔、四肢は太く大きい。


「トカゲじゃん」


『うむ、やはり殺そうか貴様』


 輪廻竜テュポーンとの邂逅を果たす一行。


 テュポーン曰く、長年の蓄積により力が抑えきれなくなり、外界の水質が悪くなっていたらしい。


 ベルアは不死鳥フェニックスと同じようにテュポーンの蓄積された力を、自身の魔力の中に吸収しようとするが彼は。


『ほう、つまり貴様のような貧弱な人の子に我の高貴なる力を受け渡せと……そう言うのか?』


「だからそう言ってるじゃない、私の[王家の魔力]は誰かの魔力を閉じ込めておけるものなの。あなたの力の出口を魔力の部屋に設定すれば、暴発することは無いの」


 普段他人をあんた呼びする彼女が丁寧な言葉遣いをしているのは珍しい。


『ふん、面白い。しかし我が力は強大故に易々と他人に受け渡すわけにはいかない。どんな小賢しい考えを持っていても、我は力ある者に従うのみ。赤髪の女子よ、貴様の力を見せてみろ』


「ふん、やってやろうじゃない!」


 かくして始まった輪廻竜の試練。


 それは輪廻の名に恥じぬ内容で、彼女の心を少しづつ蝕んでいく──────。



・・・・・



 輪廻竜の試練はベルアにとって少々過酷なものとなった。


 気がつくとそこはベルアの故郷。


 しばらく何も起きないまま時間が流れ、テュポーンは何がしたいのかと考えながらベルアは教会へ行き昼食を食べていた。

 

 親がいないベルアにとって、教会の食事が家庭の味だ。


 ベルアと同じ境遇の子供達と机を囲んで食べていたのが懐かしい。


 母親のように優しいシスターさんの合図で食事を始め、和気藹々とした雰囲気が流れる中、突然教会の扉が破られる。


 面をつけた奇妙な男たちが教会へ入ってくる中、ベルアは隣に不死鳥フェニックスを召喚し、彼の力を引き出す。


 全身から炎を放出し、男たちを睨みつけるベルアは己の旅の決意をするように、静かに言う。


「コロシアンで最前線で戦うサユリを見て思ったの。私は無力だ、フェニが居るのに何も出来てないって……でもそんなこと無かったわ。後でナギサが言ってくれたもの、ベルアちゃんは居てくれるだけでいいって」


 ベルアはぐしゃっと胸を握り締めて続ける。


「居てくれるだけでいいなんて言われたこと無かったから嬉しかったの。普段は恥ずかしくてみんなの前で嬉しがったりはしないけど、心の中ですっごく喜んでた。だから私は戻らなきゃいけない、あんたを倒してね」


 もう[あの頃]の自分じゃない。わけもわからず逃げ惑い、盗賊団に追われるような私じゃない!


 ベルアはそう胸に強く抱き、不死鳥の力を現在の最大限まで引き出した。


「不死鳥の業火よ、その力をここに示せッ! フェニックスブラストォッ!」


 炎が不死鳥の形になり、甲高い咆哮を出しながら飛んでゆく。


 侵入してきた男たちはたちまち消し炭になり、ベルアは鼻を鳴らして「ざっとこんなもんね」と息を吐き、静かに目を閉じた。



・・・・・



 気がつくとそこは先ほどの輪廻竜の祠の中。


 ゆっくりと目をあけ、ベルアは彼女の何倍もの大きさの輪廻竜テュポーンを堂々と睨みつける。


 『見事。我の刺客をこうもいとも簡単に倒されると己の強さをまた見直す必要がありそうだ。ともあれ我が試練を突破した小さき者よ、我と貴様は今これより対等の立場とする。よいな』


「あんたと対等なんて、私の位が下がっちゃった気がするわね……さ、試練も終わったんだし有り余ったその力を私の中に注ぎ込みなさい!」


『その前にいくつか問に答えよ』


「いいわよ、何?」


『我が与えし輪廻の試練を突破するためには相当の決意が必要だ。貴様、何故に我を欲す?』


「別にあんたのことなんか誰も求めてないわよばーか、自惚れるのも大概にしときなさい。私はあんたの力を沈めるために動くだけ」


『……我も等しく神託が一人、不死鳥に問う。何故愚かな人間に従うか』


 テュポーンの問いに、ベルアの胸ポケットから顔を覗かせて不死鳥は答える。


「ぴゅう」


『……笑止。かの気高き不死鳥がそのような返答をしようとは』


「ぴゅう……」


『しかし我も悠久を生きる輪廻竜、時に変化も必要やもしれん。良かろう、貴様が我を鎮めんとするのならこの力、貴様に譲渡しよう』


「譲渡はしなくていいのよ、私の魔力の中に閉じ込めるだけで」


『我がくれてやると言っている。人間如きが偉そうな口をきくな』


 ベルアの魔力の中にテュポーンの力を注ぐことで魔力の決壊を阻止した一向は当初の目的の水浴びを済ませ、そろそろ次の目的地へ向かおうと旅の準備を行う。


「それじゃあね」


『何処へ行くつもりだ、我も連れて行け』


「は、はあ!? あんたみたいなデカブツ連れてたら変な目で見られるでしょう?」


『その不死鳥も元は巨大な鳥だったであろう、我も等しく小さくなれる』


 守り神が自由に動いて良いのだろうかと疑問になったが、彼曰く特に問題はないらしい。


 テュポーンはその巨体を本当に小さなトカゲ程度にすると、私の頭に乗った。


 話の素振り的に、不死鳥フェニックス輪廻竜テュポーンは同じ[神託]と呼ばれている存在らしい。


 同じ分類ができるなら、仲良くしてもらいたいものだ。


「これからよろしく……えっと、テュポーンだから……」


『輪廻竜のリンでいい、その方が語呂がいいからな』


 肩には不死鳥のフェニ、頭には輪廻竜のリンを乗せたベルアは、この時既に歩み始めていたのかもしれない。


 神託使いと呼ばれ、あんなことやこんなことになる道を。



・・・・・



 紗友理はテュポーンと二人きりで話す時間を作り、神託という存在とその封印について問うた。


 神託とは不死や輪廻、大地など事柄を司る超常的な存在で、かつて起こった大規模な戦争でも運用されたらしい。


 しかし戦争後、不必要となった神託を封印するためベルアの祖先[古の王家]が神託を祠へ封印したのだとか。


 テュポーンは多少人類を恨んでいるらしいが、フェニックスがそうであったように自分も何か考え方が変わるかもしれない、とベルアと共に行動することにしたらしい。


「そんなにベルアが気に入ったのかい?」


『彼女に頼らずして誰に頼る。現状あの小娘は我の宿主、主だ』


「なら君は主を危険な目に合わせないようにずっとついていてあげてくれ」


 テュポーンは主人であるベルアを見守っていくことを誓い、彼にとっては短すぎるベルアの寿命の最後まで、一緒に居ようと口に出さずに志すのであった。



本編もぜひー!

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