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第272頁 悪夢の再来、その予兆

「うっ、はぁ、はぁ……」


「アルトリア、少し休んだ方がいいよ、能力の使いすぎは身を滅ぼすよ」


 港を出発して一時間半、アルトリアは獲物に動きがないか常に確認するため、一時間半ものあいだ能力を使い続けていた。


 魔法を使うには魔分子が必要。


 それと同じように能力の使用には体力が必要だ。


 長時間使い続ければ息は切れるし、全身の疲労感に襲われる。


 フレデリカは能力を無理して使い続ける彼女を心配していた。


「う、うん、ありがとう。じゃあちょっと休ませてもらおうかな……」


 途端、フレデリカにアルトリアの体重がかかり、後ろからハグされた状態になる。


「寝……てる?」


「すぅ、すぅ……」


 寝息をたてるアルトリアに、フレデリカはふふ、と笑うと後ろに手を伸ばして彼女の頭を撫でてやった。


「身体も心も弱くて、魔物と戦うことなんて出来なかったアルトリアが、今はみんなのために無理してでも頑張ってるんだもんね」


 非力でひ弱なアルトリアを思い浮かべながら、誰にも聞こえないようにそっと呟いた。


「かっこいいよ」


 アルトリアの犬耳が、ぴくりと動いたような気がした。



・・・・・



 アルトリアが眠ってから数分、おおよその方向を目掛けて竜を走らせてきた一行は、とある街に到着した。


「グロティアがいれば案内してくれるんだろうが、彼女は仕事があると言って離脱してしまったからな。ロキレシアンに来たことがある隊員は居ても、こんな辺境をわざわざ観光しまい」


 ルカがついだ冷たい水で水分補給をしながら、紗友里は険しそうに言う。


「アルトリアが起きたらまた能力を使ってもらったら?」


「それは……危険な行為、だと思う。アルトリアさんの能力は、港からこのあたりまで索敵可能距離だったことを考えると、なかなか大規模な能力。規模や効果が高いほど、継続は難しい……」


「なのなの、逃がした時用に能力は温存しておくべきなの」


「なるほど、確かにちょっと無理してそうだったもんね。分かった、それじゃあ自力で探すかぁ」


 ロキレシアンは私の国ヴァイシュ・ガーデンよりも二回りほど大きい大国だ。他国と陸続きではあるが、海と面している所が多いので漁業が盛んだったり、広大な土地を活かして農業なんかもやっているそうな。


 とはいえ真面目に産業をしても、災害や盗賊団などの被害を被ることになってしまうため、国民の労働率は3割を下回るのが現状だ。


「どうせやってもだめ、取られてしまうだけだ。そういった、諦めの結果がこれなんでしょうね」


「こんな状況じゃ、税も足りんし衛生管理も出来んのも分かるな」

 

「だからって、平和に暮らしてた半龍族を拉致していい訳じゃあねぇよ。必ず救い出して、元の生活に戻してあげねえと」


 3人が唸りながら言葉を発する中、私はとある疑問を抱いていた。


「ねえルリ、半龍族ってみんなルリやティアみたいに強いわけじゃないんだよね?」


「うーむ、確かに我らよりは弱いが、人間の男性四人分くらいの力は持っているぞ」


「私たちが特別ってだけで、半龍族は九割型人間と少ししか変わらないんだよー」


「そうだよねー、でもいくら女性だからって、抵抗しようと思えば出来るんじゃない? 普通の人間より強いんでしょ? それに数も沢山いるだろうし」


 拉致られて牢屋に入れられていたとしても、人間の作った檻なんて半龍族の彼らにとってはどうってことないはず。


 力で押し込められそうになっても、単純な筋力差で勝てるはずなのに。


「考えられるのは二択、ひとつは半龍族でも及ばないほど強力な巨悪が関わっている。もうひとつは、反撃出来ないように細工されている、のどちらかですね」


 二本指をたてて二択の意見を並べたフレデリカに、私は。


「そういうフレデリカはどう思う?」


「どちらも、という回答がアリならそれが最も正解に近い意見でしょうね。巨悪がいるからこそ、反撃出来ない状態にあるのかもしれません」


 半龍族の集団でも勝てないと判断してしまうほどの巨悪……?


 なんだか嫌な予感がしてきた。


 オスカー・クリュエルの時見たく、髪がざわつくのだ。


「何があろうと助ける、それが今回の目標ですからね。頑張りましょう」


「うん、頑張ろうね!」


 妙に胸が、ざわつくのだ。


 悪夢の再来、その予兆のように。



・・・・・



「暗……ねェ、明かりは無いの?」


 黒髪ボブの少女は、研究所に入るなりそのほこりっぽさと暗さに文句を言った。


「文句を言うな、ちょっと待ってろ電気つけてくるから」


 義腕の男性はため息をつくと、部屋の奥へ行ってしまった。


 残されたフォルエメは、男性の部下へ話しかける。


「義腕のお兄さんさァ、いい人?」


「あ、ああ。こんなゴミみたいな俺でも仲間に入れてくれて、住む場所と飯をくれるからな」


「ふぅん、強いの?」


「あの義腕を見てなかったのか。ありゃ帝国の持つような大きな銃を腕に取り付けたもんだ。銃腕のカザキの異名を持つボスは、相当の腕の持ち主だよ」


「銃……私キライかなぁ、血ィ出ないしすぐ死んじゃうじゃん」


「だから近接のナイフを使ってるってわけか。まー、銃なんて高価だし、魔法の方が良いなんて意見もある。それを身体に埋め込むほど好きなんだから、ボスの前で銃嫌いなんて言わないでくれよ?」


「うぅー、」


 頬を膨らませるフォルエメに手下は「本当に分かってるのかよ……」とため息を漏らした。


 そうこうしていると、研究所の明かりがつき、ここが何を[研究]しているのか顕になる。


「わぁっ……!!!」


 フォルエメは両手で口を押えながら、瞳を輝かせた。


 何十本もの水槽カプセルの中に浮かんでいる半龍族の女体、酸素マスクをボンベに繋ぐための太い管、極めつけは薄く輝いている龍骨だ。


「ようこそ、君の夢が在る場所へ」


 どこからか声が聞こえると思ったら、ダボダボの白衣を着たメガネの女性が、暗がりから姿を現していた。


「? 知らない人」


「……またお前風呂入ってないだろ。フォルエメ、こいつは[俺たち]の要柱かなめばしら知果子ちかこ。ここの機械や俺のこの腕、あとは活動資金なんかを出してくれる……まあ無くてはならない存在だ」


「まあね、ボクの応援がなきゃ成立しないもんねえこの場所って。あ、君のことはもう聞いてるよ。チカって呼んでねい」


 手をひらひらとさせて、いたずらに笑うクリーム髪の女性チカ。


 白衣にメガネ、そして身体に幾つも取り付けた工具。


 見るからに技術者的な感じだ。


「! チカ姉のことは好き、だからチカ姉って呼んでいい? ねェいいでしょ?」


 何か刺さるものがあったのか、フォルエメはチカに歩み寄ると手首を掴んでぶんぶんと上下に振った。


「ま、まあ……構わないけど。というかこの子、聞いてたより小さくない?」


「お前、歳はいくつだ?」


「オトメのヒミツ。それよりさァ、これこれ、これなに?」


 フォルエメはぴょんと跳びながら水槽の方へ行くと、ガラス面をつんつんとつつきながら言う。


「数日前、ヴァイシュ・ガーデンから採ってきた。半龍族は高く売れるからな、活動資金の足しにする」


「機械の設置と維持費が馬鹿じゃないのは現実だし、さっさと売らないとって話してるところなんだよ」


 カザキにチカコが続いた。


 その後、カザキはまあなんだ、と前に置いて。


「チカコも言った通り、俺たちはお前を歓迎する。これからもよろしく頼むな」


「カンチガイしちゃだめ。私は血ィを見るためにここへ来た。血ィが見れないのは嫌だし、見れない仕事はしない」


 何か言い返そうかと思ったが、フォルエメの光った運動神経とその精神状態は戦力に欠かせないものだ。


 場が少し冷たい雰囲気になる中、フォルエメは気にせず、酸素マスクが付けられた半龍族の全裸の女体を眺めているのであった。


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