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総集編 セパレート・ファンファーレその7


 コロシアンの第四層のボス部屋には二体のケンタウロスが待ち構えていた。


 紗友理たちは各々の攻撃を繰り出すが、ケンタウロスが放つ弓矢が連携を乱し、皆は徐々に疲弊していく。


 その時、白魔導士ニンナは杖先を地面に突き立てて聖杖センチュリオン・レプリカへ力を込める。


「サユリ様の役に立たないと……っ! センチュリオン、力を貸して下さい!」


 ニンナがそう言うと、杖は部屋全体を照らすほどの眩い光を放ち、仲間たちに数々の支援効果を付与した。


「英雄紀行!」


「わあ、ニンナちゃんかっこいい!」


「筋力増加、防護増加、速度上昇、その他諸々の支援といったところか。助かる!」


「ここでは支援魔法しかできませんが……! 託しますよ、サユリ様!」


 過剰なほどのバフを受けた紗友理はケンタウロスへと駆け出し、伊豆海流の剣技で見事二体のケンタウロスを討伐した。


「は、はは……我ながらファンファーレの力が恐ろしいな。ただの剣は私の力についてこれなかった感じがしたが、こいつは私が『使われている』感じがする」


「……この子達が死に際で見せた表情……怯えてた」


「なあ凪咲、ここに来て何を……」


「分かってる! 分かってるよ、綺麗事だってことは……いつかは慣れなきゃいけないけど、今はまだ……」


 凪咲は手を握りしめ、首を斬られるケンタウロスに静かに黙祷を捧げる。


 今ある現実を見て、それ相応の行動をとるために。


 凪咲もまた、自分の中の決意を変えようとしていた。



・・・・・



 階層は五層、ここまでの練習により、多少だが魔物嫌いのカリンも戦闘に参加できるようになっていた。


 そして流石は騎士団少尉。


 その剣舞は鮮やかかつ力強く、強さとしては[ファンファーレの力を使った紗友理]と同等かそれ以上だ。


 舞うように戦う彼女の戦い方に皆が見惚れる中、ベルアが指をさして言う。


「あれが最後のボス部屋ね、気を引き締めていきましょう。最後のボスってことは恐ろしく強いかもしれないわ」


 一行は万全の準備を行い、その扉を押した。


 そこは暗闇に両脇の灯篭の灯が揺らめく部屋で、そこに鎮座するのは全長およそ七メートルの巨大な鎧。


 鎧の隙間からソレはギロリと瞳を動かして紗友理たちを睨みつける。


 そいつに睨まれた紗友理は本能的に察知し、一番に叫ぶ。


「こいつと長期戦はするべきじゃない、短期決戦で行くぞ!」


「あれは人あれは人あれは人あれは人……よし! 私行けます!」


 自己暗示を掛けているが、緊張で息を切らせているカリンが剣を抜く。


 ニンナにより大量バフ、凪咲の防壁、不死鳥の再生の加護を受けた紗友理とカリンは飛び出し、鎧を駆け上って攻撃を行う。


 ポカの能力とベルアの火の魔法により急所が露天した鎧に向けて、カリンが攻撃を行おうとしたその時だった。


 鎧の中から姿を現したのは、かつてカリンの目の前で両断され、魔物嫌いのトラウマの元凶となった魔物[ミノタウロス]だった。


 もちろん別個体だろうが、ミノタウロスと目があったカリンは蛇に睨まれたカエルのようにピクリとも身体が動かなくなる。


「あ、あ、あ……」


「カリン、避けろッ!!」


 紗友理は恐怖で動けなくなっているカリンに手を伸ばすが、それよりも先にカリンの目の前に突如として[桃色の長髪の女性]が現れた。


 彼女は片手でミノタウロスの大剣を受け止めると、指で弾き飛ばす。


「殺しても良かったのだけれど、それだとロマンに欠けるじゃない? 伊豆海 紗友里、貴女には期待してるのだから、落胆させないで」


 それだけ告げると、女性はまた瞬く間に姿を消してしまった。


『ぐ、ごおおおお!!』


 怒りを顕にしたミノタウロスは咆哮を飛ばすと、大剣を片手で握りしめて駆けてきた。


「─────ああ、落胆はさせないさ。私は紗友里、我の強い勝利に貪欲な血筋の人間、伊豆海 紗友理だァッ!!」


 ファンファーレを解放し、紗友理はミノタウロスの斬り下しに強く備えた。



・・・・・



─────よし、今日はお前に基本的な剣の持ち方を教える。


 紗友理は 伊豆海家の人間たるもの全ての分野において優秀な成績を残すべきである、と先祖代々伝わってきた。


 なんとも傍迷惑な伝承だ。紗友理にだってしたいことはあったし、花遊びやままごともやってみたかった。


 同じ3歳の少女がフォークで食べ物を食べる中、紗友理は箸の使い方を習わされていた。


 とまあ、紗友理家の厳しい一面をつらつらと話してきたわけであるが、何も年がら年中厳しい訳では無い。


 誕生日にはケーキを買ってくれたし、他にも色々なところへ連れて行ってくれた。


 特に父親とはよく話しており、紗友理に剣術を教えたのは彼だった。


 剣術の他にも槍術、弓術、その他は茶道や花道など日本の伝統的な文化を半強制的に習わされて紗友理は育った。


 それが理由、というわけではないが紗友理は神童として周囲から可愛がられている。


 その様々な分野の中で特に秀でているのが剣術・伊豆海流というわけだ。


 そして今、この今際の際にて伊豆海流は一世一代の大勝負に出ることになる───!!



・・・・・



 咆哮を上げるミノタウロスを前に、紗友理はファンファーレにあまり血が蓄積されていないことを確認する。


 皆が背中を押してサポートを行う中、紗友理の隣に並び立つ少女が一人。


「カリン、行けるか!」


「ひとしきり吐いてきたので大丈夫です。私はアンブレル騎士団少尉、カリン・アンダルソンッ! たとえ相手が魔物だろうと、あなたたちだけに任せるわけにはいきません!」

 

「行くぞファンファーレ、私に力を貸してくれ!」

 

 紗友理は腕をナイフで斬り、自らの血をファンファーレに蓄えさせる。


「伊豆海流奥義・天覇空烈剣てんはくうれつけんッッ!!!」


 数え切れない彼女の原点は一点に収束し、凄まじい力を生み出し。


 閃く速さで紗友理は空を移動し、ミノタウロスの首を斬り捨てるのであった。



・・・・・



 傷ついた体に鞭打って、やってきたのはアンブレル騎士団本部。


 紗友理は騎士団長の机をドンと叩き、カリンに対する責任が重すぎること、そして[カリンを一人でダンジョンへ向かわせようとしたこと]を問い詰め、謝罪させた。


 話を聞いていると、実は騎士団長はカリンの実の父親で、魔物嫌いを克服してもらいたかったため一人で向かわせたらしい。


 どちらにせよ、本当にカリンが一人で向かっていれば最初のゴブリンで抵抗できずに殺されていただろう。


 謝礼と言っては何だが、紗友理は騎士団長からとある武器を受け取った。


 その名も[剛弩・アレグロ]。


 ファンファーレに次ぐ相棒として、紗友理は大きな弓を手に入れたのだった。



・・・・・



 コロシアン攻略の宴会を夜通し行ったその後、紗友理とニンナは移動要塞アストロ・シェルタの甲板上で二人きりの会話を行っていた。


「この旅が終わったらサユリ様はどうされますか?」


「どこか田舎でゆっくり暮らそうかと思……ってはいたんだが……」


「何か変化が?」


「この世界には問題が多すぎる、難民や貧困、窃盗から略奪まで。この世界に通用するかは分からないが、私は解決する方法を知っている。私がこの手で……導いてやらないとって思う」


 このままではストーリア王の思惑通りになってしまう。それで無くす命があってたまるか。


「ふふふ、やっぱりそうでしたか。私は最初から思っていたんですよ、サユリ様は玉座に座ると」


「もしこの旅が終わったら、その時は手伝ってくれるか?」


「当たり前です、いつまでも私はサユリ様に仕えます」


 仕えるなんて言わなくていい、そう言おうとしたが、今のニンナの表情があまりにも美しく、天命を知った幼気な少女のようで否定する気にはなれなかった。


「ありがとう」


 紗友理はそっと彼女の頭を撫でると、手を引いて一緒にシェルタの中へ入ろうと誘導した。


 これから八年以上、紗友理はニンナと常に行動を共にするようになる。


 彼女との物語の一頁目は、この夜景から始まったのであった。


 そしてここで初めて紗友理は、この国の王になることを胸に誓うのだった。



もうその7!?


まだ物語的には半分くらいなんですが!?

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