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第271頁 移動式鍛冶屋、結芽子!

「アルトリアちゃんアルトリアちゃん」


「どうしたのユメコ?」


 竜を休憩させて、しばらく休み時間とした一行は茶を飲んだり間食を食べたりしていた。


 結芽子はアルトリアの肩を叩く。


「その剣ボロボロやけど、なんか思い入れでもあるん?」


 内容はアルトリアが腰に提げていた刃こぼれした直剣についてだった。


「子供の時から一緒だったからなぁ、危ない時も悲しい時も一緒に居てくれたんだ」


「そういえばフレデリカちゃんのも[元]は子供の頃から持ってたやつやっけ?」


「はい! 小さな頃から一緒で、改造や強化を繰り返しては来ましたが、使われている金属や持ち手の部分の皮は当時のままなんです!」


 フレデリカの持つ巨大な大剣は、ルドリエ時代から愛用してきた物で、クラ=スプリングスに居る腕利きの鍛冶師に何度も調整と整備、強化をしてきたものの、彼女の意向で原型はなるべく崩さないようにしてきたのだとか。


 一方アルトリアの武器は一切の調整がされていないのに加え、貧しい街で取引されていた粗悪品も粗悪品の代物。


 武器は戦うだけでなく、守るためにも使える。


 魔物がいるこの世界で、よっぽどの聖人じゃない限りは持っている武器の強化を怠らない。


 それがパン屋や農民であってもだ。


 強い武器があればそれだけで抑止力になる。


 武器ってそういうものなのだ。


「でも……確かにヒビも入ってるし、ボロボロだね。どうする? アルトリア、新しいものに取り替えてもらう?」


「うーん……」


 フレデリカ本人も、物に情が湧きやすい人物なので取り替えるのを勧めるのには悩んだ。


 船の中なら良くはないが、今の持ってるものよりは質のいい剣があるはずだ。


「うち趣味で鍛冶やってるんやけど、ちょっと見てみよか」


「ええ!? 知りませんでした!」


「って言っても、家の包丁を修理に出さんでもいいようにって始めた軽い趣味や。付け焼き刃かもしれんことはお願いな」


 結芽子は事前に収納しておいた鍛冶セットを取り出すと、それらしい服にも着替えてみる。


 なるほど、結芽子の能力なら鍛冶屋の課題である移動がしにくい問題も解決できる。


「かまどとかハンマーって質量高いから、あの大船と合わせてほんまギリギリやったねん。実は家の玄関に要らんもんほかしてきたんや」


「へぇー」


 フレデリカがかまどに近づいて中を少し覗くとあることに気がつく。


「あれ、赤い……」


「そや、食糧を収納したら腐らんように、火やお湯も冷めへんのや」


「私はだいたい冷たくなるのに……熟練度って凄いですね!」


「フレデリカちゃんと能力ダダかぶりやから、うち必死にトレーニングしたんやで。これでアイデンティティ奪還や!」


 熟練度アップによってとてつもない成長を見せる結芽子の能力は、今や使い方次第では王都内で最強と言ってもいいほどになっていた。


 結芽子はフレデリカに熟練度をあげるために行ったトレーニングやら何やらを伝えながら、アルトリアのボロボロの剣を修理していく。


 かまどに入れて熱した剣を鉄のハンマーで不純物を飛ばすイメージで振り下ろすと、少しずつヒビが治っていった。


 やはりこの世界は原理とか物理以前に、想像力が大切なんだ。


 能力や魔法だけでなく、こういった鍛冶屋や農業もイメージの力で大きく左右されるらしい。


「こんなもんやな、コレが終わったらちゃんとした鍛冶屋に持っていき。そしたらうちの何倍も凄い修理してくれるはずやから」


 そう言うと、アルトリアに剣を返した。


「ありがとう! 見違えるくらいにぴかぴかしてて、凄く気持ちも晴れたよ」


「あはは、喜んでもらって良かったわ。飴ちゃんいる?」


 

・・・・・



「海、すごく綺麗ですね」


「うん、波の音も光の反射も全部綺麗」


 私と六花は皆とは少し離れたところで二人きりの時間を楽しんでいた。


 休憩時間はまだあるし、久しぶりの二人きりの時間だ。


 フレデリカのメンヘラ気質のアレからも開放されたことだし、六花との時間もそうだしフレデリカとの時間も作っていかないとね。


「今度は静紅さんと一緒に行けて嬉しいです」


「今度? ああ、アーベント・デンメルングの時か。あの時は緊急だったからなぁ、今回は一緒だから安心だね」


「近くにいる限り、静紅さんには危険が行かないようにしますよ!」


 腕をまくって腕コブを見せる六花。


「六花が危ない目に会う方が嫌だよー」


 私と六花は堤防に座り、海を見下ろす感じで眺めていた。


「…………あ、あの」


「?」


「手、繋いでもいいですか……」


「ん、ほら」


「……、し、失礼します……」


「もっと肩寄せなって」


「……!! …………」


 私と六花の二人の間は更に縮まっていくのであった。



・・・・・



「ハロー! おにぃさんたち、大人で子供を囲んで楽しい?」


「お兄さんじゃない、俺は……」


「……質問に答えてくれない人多いなァ、おにぃさんたちもコロされたい?」


 昼の雑木林の中で少し腰掛けていたフォルエメに、茶髪の義腕の男性がリーダーとして数人の大人が囲んでいた。


「楽しかねぇよ。あのな嬢ちゃん、今日は楽しくおままごとしに来たわけじゃない」


「??」


「俺の子分が二日帰って来ないまま、死体で見つかった。臓器が抉られ、血が必要以上に飛び散っていたが……痕跡を辿れば嬢ちゃんに辿り着いたってわけなんだが」


「ああ、そういえばそんなこともあったねェ」


「どうして殺った?」


「? ただ血ィ見たかっただけだよ。あなたにもあるでしょ? 何かが無性に欲しくなったりしたくなっちゃう。私はただ、誰かの死んでいる所や死んだ臓器を見るのがサイッコウに嬉しいんだァ……」


 身を震わせながらそう語る狂気の少女に、男性は少し後ずさる。


 しかし、ここまで来たのならやるしかない。


「殺されたやつは子分の中でもなかなかに強い方だった。だが、あいつの武器には血痕のひとつも付いちゃいない。嬢ちゃんが無傷で仕留めたとしか思えないんだ」


「ナニナニ、犯人探しいィ?」


「嬢ちゃん、俺に協力してくれないか」


「……メリットが見つからないねェ、私が群れること嫌いだからデメリット、んで、メリットが無し」


「嬢ちゃんの言う血が沢山見れるし、苦しんでる人の様子もいつでも見れる。どうだ、嬢ちゃんの狂った欲求不満も満たせる場所だ」


「…………。キマリ! 私ってねェ、血ィが見れたら何でもいいんだよ」


 右腕が義腕だということにフォルエメは全く興味を示さず、男性の横を通り過ぎていった。


「ぼ、ボス、成功した……んですかね?」


「油断はするな、裏切るとは思えんが欲求解消の[対象]にされるかもしれん」


 シンジョウ・カザキは右手のひらを握りつぶすようにすると。


「そうなったら……俺たちは終わりだ」

 

「護衛用に雇うはずが、あの狂気っぽさから見えも自分の首絞めちゃったんじゃないすか?」


「黙れマスラ」


「へーい」


 巨悪は少しずつ、力を蓄え始めていた。


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