第262頁 ツイン・エレメンタル
「翼がないってほんと不便だよねー。人間って特別何か出来るって訳でもないのに、凄く頑張ってると思うよ」
「それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる、もちろん!」
ティアの言っていた[アレ]を行うため、街を出て少し遠くまでやってきた。
「見たことの無い生物ばかりです……自然の宝庫ですね」
博識の六花でも知らない生物ってことは相当珍しいんだな。それかここにしか居ないガラパゴス的生物かな。
「ティアさん嬉しそう……やっぱりお熱いみたいですね!」
「フレデリカちゃん、あんまりそういうこと言わない方がいいと思うよ! 恥ずかしいかもしれないじゃん」
アルトリアの言葉に、ティアは耳をぴくりと動かして振り返った。
「あはは、大丈夫だよアルトリアさん。うちの街は[今]、若い夫婦って私たちしかいないの。だから茶々を入れられるのは慣れてる」
「居ないんですか? 若い夫婦」
「正確に言えば若い女性、だね。ほら、半龍族って男気溢れる種族だからさ、なんか男性が産まれてくる方が多いんだって。あとは────。ううん、やっぱりいいや」
頬を掻きながらティアはそう言うと、ルリに背中から抱きついてみせた。
何ともないよ、と態度で示そうとしているのだろうか。
「それは大変だね……でも赤ちゃんはコウノトリが運んできてくれるから大丈夫だよ!」
「あ、アルトリア、えっとね。その話は嘘で、本当は若い夫婦がベッドで─────」
「うおおおおい! はいはい、コウノトリが正解ね」
「ほらやっぱり!」
ぷくー、と頬を膨らませるアルトリアはフレデリカを一発パンチした。
「この辺りかなあ、よし、それじゃあ観客席はこっちね。くれぐれも私たちより前に出ないよーに! 死ぬからね」
「ひあっ、し、死ぬって、フレデリカちゃん……大丈夫かな?」
「あ、あはは……言葉の綾だよ。多分」
私達は適当に指された小岩に座ると、半龍族の二人を観ることに。
と、いうことはルリの前に言っていた[魔法の鍛錬]だろうか。
ティアはつま先をとんとんと地面で鳴らしながら。
「案外綾じゃないかもよ……っと!」
ティアは両腕を腰のところで強く引くと、魔力を溜め始める。
「龍化六割、解除!!」
途端、ティアの背中からルリとは違う黒い翼が生えてくる。
「ティアさんの周囲に魔分子が集中しています。さすが半龍族……存在するだけで魔分子を従えています」
「お、さっそく六割か。じゃあ我も!」
ルリはティアよりも簡単に龍化六割を発動させて、腰に手を当てる。
「上まで競走!」
「ああっ! ずるいぞティア!」
数秒後、遥か上空に滞空する二人はいつものように手を繋ぐ。
「はあ、久しぶりだ……なあティア?」
「たった二ヶ月じゃん」
「ティアは寂しくなかった……のか?」
「ううん、寂しかった。すっごく」
「そうか」
「──────っ!!! ん、んんん!!」
真面目な表情でティアの唇を奪ったルリは、顔を赤らめている彼女に向かって言う。
「今回は我の勝ちだな! さあ、気合いも入ったしやるぞ!」
「うん! もちろん衰えてないよね?」
「それはこっちの……セリフだ!」
そっと瞳を閉じて、呪文を詠唱する。
長文の詠唱後、二人は同時に手を空に泳がせる。
そこから幾つもの魔法陣が発生し、その一つ一つが空気中の魔分子を吸収していく。
「わあ……!!!」
アルトリアは思わず手を口に当てていた。
見たことも無いその綺麗な魔法陣に瞳を輝かせて、言葉を失う。
二人は両手を高く振り上げ、魔力を掌に集める。混合し、具現化した魔分子は明暗とともに小さな弾へと収束する。
世界が闇、あるいは光に包まれて、幻想的な風景がいっぱいに拡がっていく。
「もう一段……ギアあげるよッ!!」
「はなから……そのつもりだあああッ!!」
二人を中心に稲妻すらも発生し、白い雲を飲み込んでいく。
「どわっ! やばいやばいやばい、みんな何かに掴まって!」
私はすぐさま能力を使って、みんなの捕まっている物を地面から離れないように固定する。
魔分子を吸収する威力が強すぎて魔分子の激流が起きちゃってる!
「静紅さん!」
「六花!」
六花と手を繋ぎ、全力で踏ん張り続ける。
「「瞬間魔分子破裂!!」」
轟音と砂煙、そして閃光。
その全てがルリの得意魔法の完全な上位互換だった。
一人が二人になるだけじゃない。
魔分子が豊富で濃厚なこの環境だからこそ為せるこの威力なのだろう。
「圧倒的……」
「格上……」
その絶対的な威力に私たちは冷や汗と諦めの笑みをこぼすしか無かった。
「ありゃ間違いなく死んでたわ……」
ああ、才能マンやだやだ。




