総集編 セパレート・ファンファーレその6
城塞都市グリムニルへの移動中、ポカは紗友理のために剣を作った。
この世界に来て初めてまともな己の武器を手に入れた紗友理は、その剣に[セパレート]という名前をつけた。
さて、荒野の中心に聳える山の上に都市を構えるあの街こそ、城塞都市グリムニルだ。
グリムニルは人口の半分以上が騎士という職業につき、その騎士の中でもトップクラスに力を持っている[アンブレル騎士団]という組織がこの街の統治を行っているらしい。
「さすが騎士の街なだけあって、武具系の店が多いですね」
また、この街の中心部には円形のコロシアム型のダンジョン[コロシアン]もあり、まさに騎士のための街という印象を受ける。
戦闘で何か使えるものは無いかと出店を見て回る一行の元へ、何やら怪しい男が近づいてきた。
どうやらナンパのようだが、彼に対してベルアは厳しい視線を向けるが、男はその視線に激昂し襲い掛かってくる。
「せっかく丁寧に挨拶してやってんのに! これだからガキは嫌いなんだ!」
「あんた私の事ガキって言ったわね!? もうなんなのよ、みんな私の事子供扱いして!!」
男は剣を抜き放ち、ベルアも不死鳥を召喚する。
今まさに街中で激闘が始まろうとしているところへ、一つの女性の声が飛んできた。
「そこまでッ! 騎士たる者がなんと愚弄な行為を。落ちぶれたものですね」
「か、カリン少尉ッ!? こ、これは……その……」
男の様子を見るに、カリンと呼ばれた女性は男の上司らしい。
「その、なんです? 言ってみなさい」
「も、申し訳ありません! もう二度としません!」
「アンブレル騎士団盟約書第二目第二条。盟約を破った騎士が居た場合、当人よりも上位の者であれば厳罰を下すことが出来る。……地下牢清掃三日、もう二度とこのような愚行はしないこと」
そう言って女騎士は、土下座した男性を引っ張りあげると尻を叩いてこの場から失せろ、と言わんばかりに鋭い視線を向けた。
「私の部下が無礼なことを。申し訳ありません、この私、アンブレル騎士団少尉カリン・アンダルソンの名に免じて許しては貰えませんか」
カリン・アンダルソン。
彼女との出会いによって、またひとつの物語の頁が開かれようとしていた。
・・・・・
「お詫びとしては何ですが、この街の案内をさせて下さい」
腰を曲げて詫びるカリン、彼女の髪が日光で照らされて明るく光る。
「あ、アンダルソン少尉が目の前に……す、すす凄い!! あ、あの、私大ファンで……!」
ニンナは口に手を当てて信じられない、とでも言わんばかりの表情で目を輝かせていた。
「アンダルソンはやめてください。しかし私のファンなんて居るのですね、初耳なので驚きです」
「私、ニンナと言います! えっと、カリン少尉は何用でこんな所に?」
カリンの姿的に私服、というわけでも無さそうだ。任務中だろうか。
「街の警備ですよ。ほら、先程のような輩が何時何処に現れるか分かりませんから」
そんなことをカリンと話していると、街の中心部から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
皆でそちらへ向かってみると、そこは闘技場型ダンジョン[コロシアン]から魔物が脱走し、騒然となっていた。
「コロシアンからま、魔物が脱走……!?」
「ちょうど良い機会じゃない。カリン、あなたの実力を見せてちょうだい」
「む、むむ無理です……私、その、対人戦は得意なのですが魔物はどうも……」
まるで人が変わったかのように腰を抜かして地面に倒れるカリンを放って、ひとまず一行は魔物退治を行なった。
その後、カリンの話を聞くため最寄りの喫茶店に入るのであった。
「それで、魔物が斬れない騎士がどうしてこんなところを管轄してるのよ」
全ての騎士団を統べるアンブレル騎士団の少尉であるカリンがゴブリンに対して恐ろしく縮こまっている様子はなかなかに衝撃的なものだった。
何があってゴブリンごときに恐れをなす騎士がいる。
「あ、あのカリン少尉……貴女が魔物嫌いというのは……」
若干失望しているような目でカリンを見つめるニンナ。
確かに彼女のファンだったニンナにとってはかなりの衝撃だっただろう。
「言われてみれば対人作戦での功績は山ほどありますが、魔物討伐などの功績は無かったです。何か理由があるのですか?」
カリンはゆっくりと、魔物に対するトラウマを持っていることを話し始めた。
人間の死体はどれだけ見ても何も感じないのだが、魔物の死体だけは気持ちが悪くて無理なのだとか。
なんでも、幼い頃に父が斬りつけた魔物が真っ二つに割れ、目の前で死んだのがかなりのトラウマらしい。
その後、カリンは管轄下での騒動を起こしたという理由、またコロシアンの監視不足ということで罰を受けることになった。
カリンの実の父であるアンブレル騎士団長は、娘に対して言いづらそうに、しかし淡々と告げる。
「街中にダンジョンがある状況は前々から危惧していたのだ。幸い死人は出なかったものの、次もないとは限らない。そこでカリンにはダンジョンの内部へ侵入し、全ての魔物を退治してきてほしい。ダンジョンの核を倒せば、きっと魔物の出現も止まるだろう」
「魔物……」
しかしアンブレル騎士団の規則で、上司の指示は絶対である。
カリンは青ざめた顔で部屋を出ていくと、目に涙を浮かべて紗友理の肩を掴んだ。
「ど、どうしましょう……! 私魔物なんて絶対倒せませんよ……!!」
「落ち着けカリン、私たちもダンジョン攻略には同行する。良い機会だ、トラウマを克服できるように頑張ろう。どうしても無理なら私たちが戦闘を行い、君は案内だけすれば良い」
かくして紗友理、凪咲、ベルア、ニンナ、ポカ、カリンの六人は城塞都市グリムニルにある巨大なダンジョンへ挑むのであった。
・・・・・
ダンジョン用のポーションなどを買い漁る中、紗友理と凪咲は二人きりで夕陽を眺めていた。
この世界に来てから二人きりの時間など、あまり取れていなかった。
王を倒してからの過ごし方などを笑いながら話す中、凪咲は紗友理に愛の告白をする。
紗友理は驚いてちゃんとした返答は出来なかったが、凪咲がずっと笑顔で居られるならとその告白を半分承諾する。
この幸せな時間が死亡フラグにならなければ良いのだが、と思っていると陽は落ち、あっという間に翌日になった。
・・・・・
コロシアンは五層に連なる円柱縦長のダンジョンだ。
その層それぞれにはボスモンスターがおり、それを倒せば次の階層へ移動できる。
第一層はゴブリンが巣食う不気味な場所だった。
紗友理は新たな愛剣ファンファーレを手に、流れるような所作でゴブリンたちを斬り倒していく。
その剣術を見て、騎士のカリンは思わず拍手を送る。
「素晴らしい剣術です、サユリ。どこでそのような剣術を……?」
「私は幼少期から数々の武術を習わされてきた。剣術もその一つだ。流派は伊豆海流、私の先祖が編み出した流派だな」
途中、魔物嫌いのカリンも何度か挑戦しようとするが、どうしても気分が悪くなってしまい、結局紗友理たちに討伐を任せてしまった。
騎士としての不甲斐なさを覚えるカリンだが、それでもトラウマが頭から離れてくれない。
そんなカリンの背を紗友理たちは優しく摩り、ゆっくりでも慣れていけば良い、とダンジョンを進んでいくのであった。
・・・・・
第一層のボスはゴブリンキング。
一行が彼と相対する中、紗友理はとある事実に気がついた。
紗友理は巨大なゴブリンに対して、伊豆海流の大技を放つ。
「伊豆海流剣技・天我龍星剣ッ!!」
相手に接近して勢いよく斬りあげる技なのだが、おおよそ人間のものとは思えない速度で接近し、紗友理は通常の五倍以上の力でゴブリンを斬り上げたのだ。
「何!?」
「あっはは! それこそファンファーレの本当の力さ。今まで倒してきたゴブリンの血を吸収し、その血の量に応じて[持ち主の想像]を実現させる! 君が考えてきた理想の戦い方が、その剣なら叶うんだ!」
猛攻を繰り出すゴブリンキングだが、紗友理やベルアの攻撃により意外とあっけなく討伐される。
息を吐く一行は体制を整え、第二層、第三層へと順調に進んでいく。
本編もぜひ!




