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第255頁 連絡掲示板の新着履歴

「ここがたくさん[お世話]になった魔物買取店です!」


 フレデリカの里帰りでルドリエに来た私たち。


 フレデリカの実家を全壊させ、次にやってきたのは魔物買取店なる建物だった。


 この街にはもう誰もいないのだろうか。


 ここにいた人は?


 餓死したとしても、死体は残っているはずだ。


 死体なんてどこにも見当たらない。

 

「ここはルドリエの連絡橋……王都でいう地方所の役割をになっている場所です。いや、でした」


「ひ、ひいい……お、おいシズ!リカがさっきから目で笑ってないのだ!」


 顔は笑ってるのに、目が、目が笑ってない!と泣きついてくるルリを引き離し、六花に渡す。


「リッカもなんとか言ってやるのだ! あいつ、なんかやばいのだ!」


「仕方ないでしょう。あれほど壮絶な過去を過ごしたこの場所で、理性を保っていられる人などいないんですから」


 と、言葉とは裏腹に私の手をにぎりしめる幼い六花。かわいい。


「……あ、ありましたよ! これが連絡掲示板です」


「連絡掲示板は知ってるよ、掲示板に紙で伝えたいことを貼るんだよね」


 この街に紙と字を書けるほどの勉学がある人が何人いるか、だが……。


「懐かしい……」


 フレデリカは連絡掲示板にそっと手を伸ばし、撫でるように今でも貼られた紙を眺めた。


 その多くは遭難者の捜索依頼や、逃げ出した子供を捕まえてくれといったものだった。


「……? 最近誰かここを訪れたのでしょうか」


「どうしたの?」


「い、いえ。ここに貼られたものは大体が2年前から更新されていません。でもこれだけ……この紙だけ3日前に更新されているんです」


 比較的最近じゃないか。


 私たちと同じようにここに訪れた人がいるのだろうか。


 フレデリカは雪原地方の言葉でかかれた文字を読んでいく。


「『また会えるなら、あの場所で。昔のことはあまり覚えてないけれど、もしもう一度、あなたと会えるなら。あの場所で待ってます』」


 誰宛で誰からのメッセージなんだ?


 もう一度あの場所で?


 私たちの中ではてなとはてなが絡み合う。


「投稿者は───────っ!!」


 途端、彼女は口を両手で押さえて目を見開いた。


「と、投稿者は……、投稿者は……」


 その真っ赤な瞳から大粒の涙が溢れ出してきて、止まらない。


 嗚咽と涙を拭うための手のひら。


「アルトリア・アドベルド……」


 この手紙は、主狼に追われていた時、川で溺れたはずの[アルトリア]からのものだった。



・・・・・



 街から少し離れたところに[雪柳]と呼ばれる、大きな柳が生えたところがある。


 そこのふもとがフレデリカの所属していた魔物討伐隊の基地だったらしい。


「ここだけは……ルドリエで落ち着くところです」


 彼女はゆっくりと木下に近づくと、膝をついて祈りを捧げるポーズをとった。


 数秒の沈黙の後、六花が私に言う。


「アルトリアさん、居ませんね」


「アルトリアのことです、また疲れて寝ているんですよ」


 そういう彼女の笑顔は、先程の無理やり作った笑みなんかじゃなく、旧友に出会える喜びによる笑みだ。


 そんなことをしていると、後ろの方からか細い声が飛んでくる。


「フレデリカ……?」


「!!」


 はっ、としたフレデリカは急いで振り向く。


 そこには茶色の毛をした、九割人一割犬種のコボルト族が尻尾を振り回しながら立っていた。


「アル……トリア……?」


「うん、そうだよ、アルトリアだよ!」


 死んだと思っていた、命を懸けて守った旧友が今、目の前で元気よく手を握ってくれている。


「大きくなったねアルトリア」


「そっちこそ……色々……た、たわわになってるね」


 たわわて。


 確かに彼女の発育は恐ろしいが。


「前までヤングウルフの全長と変わらないくらいだったのに」


「ええっ!? リカお前、そんなにちっこかったのに……なんで今は我より大きいのだ!?」


 ガーン、とホワイの体勢でフレデリカに歩み寄るルリ!やめろお前、もっと自分が虚しくなる!


 ヤングウルフの全長はだいたい120cm。2年前で小学生四年生くらいの身長だから……。


 ん? いまの身長って確か180……あれ、あれ?


 どちゃくそ大きくなってんじゃねぇか。


「主な人外種は成人が近づくと生殖活動の準備として発育と発達速度が格段に上がるみたいです」


「詳しいね、頭良いのって尊敬するなぁ」


「あ、いえ、知識を蓄えるしかすることがないような人間なので……」


 アルトリアの褒めと六花の謙遜を何度か繰り返すと、アルトリアはあっ、と声を上げた。


「忘れてた……墓地に供え物を供えにきたんだった」


「墓地? こんな近くに墓地あったんだ。知らなかったよ」


 アルトリアが歩いていく後ろを、私たちが着いていく。


 数十秒ほど歩いたところだろうか、そこには何十個もの墓石が並べられた広場があった。


「私が作った墓地。街のみんなをここに埋めて、せめてもの供養として……ね」


「みんなを……ここに?」


 どおりで街にも道にも死体がなかった訳だ。


「私たちに酷くしてきたあの男の人も……全員ね」


「あの人も……!? 死因は……」


「…………。言わない、秘密。っと、そんなとこより、せっかく久しぶりに会えたんだから楽しい話、しよ!」


 犬の耳に、皮で作られた防寒服、腰に提げたボロボロな直剣、寒さの影響か、肌が所々白く変色してしまっている。


「ああ、とりあえず自己紹介を──────」


 アルトリアはくるりと踵を返すとこちらにニコッと微笑んだ後。


「アルトリア・アドベルド、しがないコボルトです」


 アルトリア・アドベルドと名乗ったアルトリア。


 そんな彼女からは、昔のような心と体が弱い様子は感じられない。


「よろしくね、アルトリア!」


 私は彼女の手を握ると、続くように自分も名乗った。


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