第251頁 貪り喰らう主狼
もう少しでフレデリカの過去編終わりですので、それまでお待ちを!
「一体どこまで歩けば着くの……?」
身体と心が弱いアルトリアは既に力尽き、一番力の強いパトリシアがおんぶをし。
フレデリカとフランシスカは既に満身創痍状態だ。
どこまで歩いても着くはずがない。
街は今進んでいる方向と真逆の位置にあるのだから。
「待って、なにか聞こえる……」
エルフの聴力は人間の数倍と言われており、フレデリカは皆に指示を出す。
『ウオオオン!』
「遠吠え……?」
「ただの遠吠えじゃない! あの声は……。引き返そう、この道は無理だ!」
「な、なに、なんなの? パトリシア説明してよ!」
青ざめた顔でこの場から逃げる準備を始めるパトリシア。
フランシスカとフレデリカは訳の分からない状況だ。
「説明は後、今すぐここから離れ──────」
『ぐおおおおおおおん!!!!』
「痛ッ……!?」
パトリシアの声を遮るように、すぐ近くから遠吠えが聞こえてくる。
轟音ともとれるその咆哮に、聴力が裏目に出たのかフレデリカは音爆弾を食らったような状態に陥ってしまった。
「一度だけ聴いたことがある……この特徴の遠吠えは……」
『ぐしゃあああ!!』
「ヤバッ─────」
パトリシアは飛びかかってくる狼の影を見て、咄嗟に背中に抱えたアルトリアを遠くに投げ捨てた。
代わりに彼は。
「「「───────ッ!!??」」」
肉が噛みちぎられる音と、骨が砕けるような音。それと雪原に撒き散らされる真っ赤な血。
ソイツがこちらに振り向いた時、パトリシアは。
「やばいやばいやばいやばいッ!」
もう、原型を留めておらず。
「フランシスカッ!!」
「あ─────」
ぐしゃん。
パトリシアは、ただの。
「いやァァァッ!!!!!」
肉片で。
「フランシスカに……手を出すなァ!!」
大剣を力の限り振り回し、ソイツをフランシスカから追い払う。
『ぐらあああ!!!』
「ぱ、パトリシアが……!」
嘔吐寸前のフランシスカは、かつてパトリシアだったものを指さすと声を振り絞った。
「今は逃げるよフランシスカ!」
大剣で目を回しているうちにソイツから少しでも距離を置かないと!
「アルトリア、ちょっと揺れるけどごめん」
フレデリカはアルトリアを背負うと大剣を握りしめる。
「フランシスカ、早くなるあの魔法を!」
フレデリカは万事休す状態が上手な訳では無い。
それでも彼女にとっての最善は……。
「三人で逃げるよ!」
フランシスカの支援魔法を受け取ったフレデリカは足に力を入れ始める。
「ま、まってよ……」
「何してるの、早くしないとアイツが……!!」
フレデリカと裏腹にフランシスカは足を止めて棒立ち状態だ。
「逃げるって、一体どこに……?」
「いいから距離をとらないと!」
「……。分かった、行ってフレデリカ!」
「な、何を言って────」
「隊長の命令!絶対アルトリアを連れて逃げてッ!!」
それが彼女の、フランシスカを最後の指示だった。
そのコンマ一秒後、飛びかかってくるソイツは大口を開け始める。
「せめて足止めくらいは──────ッッ!!」
フランシスカは自分の全ての魔力を胸に集中させて爆発させる。
自爆魔法・ドンダミ。
「フランシスカァァァ!!!」
彼女との思い出が一挙に思い出される。楽しかったこと、悲しかったこと。全て。
それを振り払ってフレデリカは最後の力を振り絞って駆け出した!
アルトリアはまだ眠っている。
彼女にこんな光景、見せられるわけが無い。
パトリシアだった肉片、顔のないフランシスカ。
フレデリカも精神的に成長している訳では無い。
泣きたい、叫びたい。
それでも。
────隊長の命令! 絶対アルトリアを連れて逃げてッ!!
彼女の指示は最後まで完遂してみせるッ!
フレデリカは遠くに見える林目指して一目散に駆け出した。
次いつ飛びかかってくるか分からない。
次大剣で防御できるかは分からない。
「視界の遮られる林の中に逃げれば────ッ!」
齢10何歳のフレデリカは、二つの命を犠牲に、ひとつの命を最後まで救う義務を背負うのであった。




