総集編 セパレート・ファンファーレその5
なんだかんだで紗友理たちの一員に白魔道士ニンナが加わったわけであるが、彼女の専用武器を取りに行くためにまずは鍛冶屋へ向かうことになった。
こうしている間にも六賢は上位精霊を召喚する準備を着々と進めている。
王都に思い入れは特にないので精霊に壊されても問題はないが、それはまあ、大義名分として自分がなすべきことだと紗友理は飲み込んだ。
あとは凪咲だったら絶対阻止するだろう。
「ねえベルアちゃん、もう怒るのやめようよー。怒っててもいいことないよ?」
「嫌よ、キャラはかぶるはあざといはで私はあの魔導士嫌いだから。ねえフェニ、私どうすれば良いのかしら……」
不死鳥フェニックスをつつきながら、ベルアはぷくーと頬を膨らませる。
そんなこんなで歩いていくと、煤がかぶった工房に辿り着いた。
鍛冶屋なら髭を生やしたおっさんがイメージ深いが、出てきたのはこれまた目を丸くさせるような人物だった。
「やあやあ、よく来たね。おや、見ない顔……ニンナの友達かい?」
「友達といいますか、これから旅をする仲間です!」
出てきたのは鍛治のゴーグルをつけた、煤まみれの女性だ。
鍛冶屋の女性はゴーグルを外して、にっと笑う。
「そうかそうか……それで今日の用事は?」
「修理に出していた私の杖を取りに来ました、進捗はどうですか?」
「アッ」
「あ?」
「あ、ああー、あれね、もちろん覚えているよ。でも素材が足りなくて……ね?」
「素材採取ならアストロ・シェルタがあるじゃないですか。彼はどうしたんですか」
「アス君はこの前に行った火山口で左前足が溶解しちゃってね……それを修理する時間なんてボクにあると思うかい?」
全く言っている意味がわからないが、要約すると。
ニンナの杖を修理していると思っていたが、素材が足りずに作業ストップに。
そうならないために鍛冶屋はアストロなんとかというもので素材集めをしているらしいが、それも故障してしまったらしい。
「じゃあなんだ、私たちが素材を取りに行けばいいんだな?」
「そういうことになるね、素材はトレントの森にある聖葉樹の破片……見つけるのは簡単だけど、入手難度は高いからね。注意して行ってらっしゃい!」
魔導士ニンナの杖を修理するため、一行はトレントの森という場所へ向かう。
打倒王の計画を進めるはずが、どんどん遠回りになっていく気がする。
・・・・・
トレントの森へやってきた紗友理、凪咲、ベルア、ニンナの四人は杖修復の素材[聖葉樹の破片]を入手するため森の奥までやってきた。
触手の魔物にパンツを晒されたり、様々なアクシデントが起きつつも四人はようやく奥へ到着する。
大理石よりも硬い木の幹から、なんとか欠片を取り出し、持ち帰ろうとしたその時。
「誰の許可を得てしているのかなあ? スルーサ、ここしばらく許可出してないと思うんだよねー。ねえ、あなた達……だあれ?」
背後から経済の賢者スルーサに話しかけられ、一行は顔を青ざめさせる。
そう、今から敵に回そうとしている[六賢]が一人、経済を担当する賢者だ。
一触即発で戦闘が起きると思いきや、紗友理は威嚇を続けるベルアと凪咲を制止して話し合いを仕掛けた。
紗友理の巧みな話術、そしてベルアの鋭い言葉によりスルーサの心が動かされたのか、彼女は一行に[聖葉樹の破片]を投げつけ、そのまま出て行けと命令するのであった。
・・・・・
「賢者と出会ってかすり傷で済むなんて運良いね」
なんて言って笑うのは煤まみれの鍛治士の女性。
「なんなのよ全く! あいつなんてフェニの炎があれば消し飛ばせるのに!」
「消し飛ばすだけじゃいけないから、話し合いで済ませようとしたんだ。彼女を消し飛ばせば、彼女が担当している[経済]が死ぬ。王の暴走を止めたとして、その後の国営は不可能だろう」
紗友理のその後先考えて行動する点や、物分かりが良い点が気に入ったのか、鍛治士は杖の修理を行いながら紗友理に言う。
「ねえ、ボクを旅に連れて行って。旅先で武器が壊れた時なんかはボクがすぐに修理してあげるよ」
「いや、君は鍛冶師だろう? 私たちはかなりの場所を転々とする予定だ。それこそ大規模な移動要塞が無いと───────」
「あるよ、移動要塞あるよ。アストロ・シェルタって言うんだけどね」
鍛治士ポカは学生時の卒業制作で、複数足の超大型工業移動要塞アストロ・シェルタを制作した。
数年前の当時ですら、そのような制作を行えるのだから彼女の腕前は神業に等しいものと言えるだろう。
「移動要塞があればわざわざ金を払って竜車に乗る必要も無い、足目的で仲間に入れるのもありか……?」
「足目的て。戦いはたいしてできないけど、それ以外のサポートなら全力で行うよ! まあそれはそうとニンナ、杖の修理が終わったよ」
ポカが取り出したのは、明らかに造形が他と違う高級そうな杖だった。
「聖具センチュリオン・レプリカだよ」
「あ、レプリカ……」
「なんだい、聖具製造の技術が失われた今、レプリカでも製造できるのはすごいことなんだからね! 少なくともこの国ではボクだけだろうね」
鼻を高くするポカは気を取り直してニンナにその杖を渡す。
「百年前の英雄が扱っていた聖具のレプリカ……オリジナルが見つかったらぜひボクに見せておくれよ。さて、店じまいだ。ボクは旅の準備を行うのでね、明日の早朝に王都の西門に集合だ」
・・・・・
「……確かに早朝とは言ったが、どちらかというとまだ夜だろ。全員まだ就寝中だ……」
「何言ってるんだい、一時間ほど待ったのに誰も来なかったから、わざわざ宿屋まで迎えに来たんだ」
職人の朝は早いというが、彼女の早朝は職人のソレとはレベルが違う。
「さあお寝坊さんたち、アス君に挨拶したまえ!」
紗友理はポカの立っているベランダから宿屋を出て、城壁の外に案内された。
「聞いてない……というかこんなところに山なんてあったか……?」
空に浮かぶ月も隠れてしまうほどの山だ、この宿に泊まる時に気づかないはずがないのだが。
起きているのは紗友理のみ。ベルアはもちろん、凪咲とニンナも今はぐっすり夢の中である。
「なにを言うかと思えば……ボクは国内随一の技術者だよ? アス君は専門学校の卒業制作の作品さ。こんなに大きいと目立つからね、能ある鷹は爪を隠すもの。つまりボクは天才ということ」
「天才は自分のことを天才と言わないよ……というか、このでかいのはなんなんだ?」
「はあ!? だーかーら、君の言っていた移動要塞だよ! 鍛治機能搭載式・移動要塞、アストロ・シェルタことアス君だよう!!」
ぷくーと頬を膨らませるポカがババーンと見せたのは、幾本もの煙突から煙を排出し、六本足をゆっくりと動かす巨大な要塞、アストロ・シェルタだった。
「ハ⚪︎ルの動く城かよ! いや、私あんまり知らないけど!」
ともあれ、竜車よりも早く、かつ安全で強力な移動方法を手に入れた一行。
ニンナとベルアの模擬戦、洞窟での鉱石探し、ポカの過去の話など様々な出来事がありつつも、一行は[戦力アップと情報網の確保のため]騎士たちが住まう城塞都市グリムニルへ向かうのであった。
本編もぜひ!




