第248頁 フレデリカ・オリジン
また朝に投稿するの忘れてました!
「……お前ら、いつも全員生還してるよな。他の隊は必ず一人は犠牲者を出すってのによ」
人間のフランシスカを先頭に、フレデリカの隊は魔物の死骸を引き取ってくれる店へと足を運んでいた。
フレデリカ、パトリシア、それとアルトリアはそれぞれエルフとコボルト族だ。
コボルトと言っても人八割の種族で、犬っぽさと言えば鼻が聞いたり頭から犬の耳が生えている程度で、それ以外は人間と変わらないものだった。
フランシスカ以外は全員深くフードを被ってその場に立つ。
「運がいいだけです。精算が終わればすぐに出ていきますので、早くしてください」
正直言ってこの場には長居したくなかった。
ここはこの街の中でも最も種族蔑視が高い場所だからだ。
四人中三人がその対象であり、隊員がそれを嫌がっているはリーダーであるフランシスカが一番知っている。
「チッ……ガキの癖に生意気言いやがって。ほら、今日の分はこんだけだ」
「え……足りないんですが」
「お前らガキにはこんだけで充分なんだよ! こちとら煙草代が大変なんだよ!」
そう言って受付の男性は煙草を咥えながらしっし、と追い払うようにして子供達を追い出した。
「……いこ、みんな」
フランシスカもまた、深くフードを被るとカウンターに乗せられた僅かな金貨だけを持ってその店を出た。
・・・・・
「いち、に、さん……よん……いや、これだとみんなに回らないのか……」
この中で数字を数えられるのは黒髪コボルトのパトリシアだけ。
パトリシアは手のひらに数枚の銅貨を並べると、四分割するために数を数えていた。
「わ、悪いよパトリシア。私は何もしてないのに……」
控えめな性格のアルトリアが、珍しく自分から意見を言った。
「忘れたのかアルトリア、何があっても金は四分割するって約束しただろ? それに、アルトリアは何もしてないことないよ」
「そうだよアルトリア、私だって大剣を振り回してただけだし!」
落ち込み気味のアルトリアに、パトリシアは他よりも一枚余分に銅貨の束を渡すと、そっと頭を撫でた。
フレデリカも自分の持った大剣を指しながら慰めるように言う。
「よし、とりあえず四分割したぞ。明日はもう少し狩ろう、そうじゃないと大変だ……」
「そうだね、今日の分だけじゃこれからは厳しいかもしれない……」
今日のパンを買うのがやっとどころか、この街には小麦すらない。
ご飯を買おうにも、それを作る売り手側の金がないので全く経済が回らない状況だ。
「ここが廃れるのも時間の問題……大人になったら外へ出たいね」
アルトリアはさっきの暗い顔をやめて少しぎこちない笑顔を浮かべた。
「ああ、その時はみんな一緒だ」
パトリシアは、他の人よりも一枚少ない銅貨の束を眺めると、それを握りしめた。
・・・・・
フレデリカは玄関の切り株に大剣を突き刺すと、自分よりも三倍は大きなドアをこじ開けた。
身体に積もった雪を振り払うと、一息ついて家の中へと進む。
「─────ッ!! ッッッ!!」
「────ッ!? !!! ッ……」
フレデリカは耳を塞ぐと、とことこと壁の隅へと歩いていき、そっと膝をかかえた。
今から数時間は終わらない両親の罵声をかき消すように、フレデリカは小さな声で鼻歌を歌った。
必死に歌っているのに、両親が喧嘩することが悲しくて悲しくて、瞳から少し涙が流れる。
「おいフレデリカッ!! その鼻歌止めろといつも言っているだろうッ!!」
父親はフレデリカの鼻歌が琴線に触れたのか激怒して、彼女の髪を掴んで持ち上げた。
髪に全体重がかかり頭が割れるような痛覚を受けるが、フレデリカは悲鳴をあげることもなかった。
もう慣れているからだ。
「ごめんなさいお父様、もう二度としません」
このやり取りももう、慣れているからだ。




