第244頁 決意とともに
クックード料理大会三日目。
特に特筆することなく盆地で生活を営んだ私達は、そろそろ大会が始まってから三日が経ち、会場へと戻される時間になっていた、
「フレデリカさん、食材は全て持ちましたね」
「はい! 大丈夫ですよー」
あれからフレデリカは何も変化した様子は無く、むしろ元気というか、空元気というか。
たまに心ここに在らずな表情を浮かべている。
「ルリ、転送まであとどれくらい?」
「あと3分程度だな。まだ少し時間はある」
「了解、じゃあ……ちょっとルリは席を外してくれない? 3人だけで話したいことがあるの」
「なっ、!? 我だけ仲間はずれなのだ!? うぅ……分かったのだ、大切なことなら聞かないようにするのだ」
そう言うとルリは少し離れたところへ移動していった。
計画外の私の行動に、六花とフレデリカはキョトンとしている。
「私は六花が好き。それはもう変わらないの」
「な、なんですか急に」
「……でも、フレデリカも好き、かもしれないの」
私は正直に想いを打ち明けた。
体では分かっていたのだ。六花一筋だと分かってはいたのだ。
それでも彼女が助けてきてくれた時。
不意に見せる彼女の笑顔。
あの元気な感じ。
少しずつ私の中で彼女に向ける想いが────。
「静紅さんのバカ……その様子じゃ長い間悩んでいたんでしょう? ボクは別にいいと思いますよ。ボク的には独り占めしたいですが、静紅がそう言うなら」
六花は私の頬をぺしっと優しく叩く。
「わ、私は……フレデリカは……」
「ううん、大丈夫だよフレデリカ。私と六花が変わりすぎてるんだよ、普通はこんなことにならないもん」
「い、いえ! ……お師匠様はそれでいいんですか? リッカさんだけを想うって散々言っておきながら、今更……」
フレデリカはスカートの裾を握りしめながら、顔を下げる。
私は彼女の頭にそっと手を伸ばし、わしゃわしゃと動かす。
「この3人の中であなたが一番年下なの、年下は年上から提案された案に遠慮する必要は無いんだよ。あ、でも嫌だったら断ってね」
「嫌だなんて、そんな……!! 嬉しいです、嬉しいですが……」
悲しい表情と笑顔をぎこちなく繰り返す彼女。
「私が邪魔したからこんな結果になったんじゃ……って思うとその、素直に喜ぶことは……」
ああ、たしかにそうだ。
私でもその辺は気にするし、フレデリカなんてもっと気にするだろう。
普段はあっけらかんとした性格でも、こういうときの人への気遣いは人一倍だ。
「……はっきり言うよ、いいよね六花」
「はい。それでもボクが一番ですけどね!」
私はその六花の言葉にあははっ、と笑うと彼女の方へ向く。
「私はフレデリカも好き。六花も好き。でもこれは浮気になってるの、浮気はしちゃいけないこと。だからこんなどうしようもない私を助けて?」
「助ける……?」
「そ。3人の同意があれば、それは浮気じゃないでしょ? もうフレデリカも、六花も悲しむ顔は見たくないの」
私だってたくさんたくさんたくさん考えた。
この決断を下すのに何度も躊躇った。
それでも、やっぱりみんなに笑っていて欲しいから。みんなに幸せになって欲しいから。
そのために私が何か出来るなら、私は何でもするつもりだ。
「……はい。……はい! 私、フレデリカ……お師匠様を助けます! だから、もうそんなに泣かないでください!!」
「う、うぅ……六花ぁ、、、」
「よしよし、大丈夫ですよ。頑張りましたね、ボクもこれで一安心です」
六花もフレデリカについては心残りがあったらしい。
だったらこれでOKだったのか?
私はいつの間にか流していた涙を拭い、遠くのルリを呼ぶ。
「はいはい、終わっ……って! どうしたのだみんな! 3人とも大号泣してるのだ」
「き、気にしない気にしない! ほら、そろそろ転送だよ!」
転送されたら料理大会の大本命[料理]が始まる。
[食材採集]の段階で生き残った者同士で料理対決をし、審査員による採点で勝敗を決めるらしい。
私たちは手を握り、気合いを入れあった。
────料理大会の大本命、料理対決の会場へ!!
・・・・・
『さあ! 3日ぶりの帰還ですね選手さん達! 三日の間にかなり数が減り、既に3チームにまで減らされています!』
大音量で実況者の声が会場に響く。
それと同時に観客席から、空気が震えるほどの歓声が上がる。
『1チーム目! 戦闘能力抜群の体力集団、ヒガシーノがトップにランクインッ! 強奪等を繰り返し、集めた食材たちで大会に挑みます!』
『2チーム目! 塵も積もれば山となる、カラノスもトップにランクインッ! チーミングで大部隊を組み、数で強敵を圧倒してきた模様です! 同士たちの想いを胸に、今、キッチンへ!』
『3チーム目! 電光石火、起死回生! 初登場にもかかわらず決勝まで登りつめたリトル・アミチエです! 4人全てが強い力を持ち、あのクックード同好会さんの奇襲も凌いだそうな! さあ今、この会場で新しい記録と時代が動こうとしているッ!』
会場から、突風にも似た歓声が湧き上がる。
さあ、優勝賞品を取りに行こう────!!
料理都市料理大会編、遂にクライマックスへ!




