第235頁 香料強化
「ちょっとルリ、大丈夫なの?」
香料強化・辛口の大爆発に巻き込まれたルリは、気に腰かけてぐったりとしている。
ただのオカンなら多少数に差があっても勝機があると思っていたが、不意打ちとは言え、ただの一人だけでルリをここまで翻弄できるとは。
「な……はは、問題ないのだ。こんな傷、我の治癒力なら直ぐに……」
「ボロボロじゃねぇかよ!」
思わずツッコミをいれる私。
さっきまではルリの戦闘で、部外者は手を出さない方がいいと思ってたけど、そうも言ってられないな。
「みんな、乱戦で行くよ! それぞれ周りみて、カバーし合おう!」
「ガハハッ! そうはさせないよ!」
オカンの一人が背中に担いだ大きなゴムベラを構えると、一喝。
「香料強化・濃口!」
また腰に巻いたベルトから瓶を取り出すと、握り割る。
でもさっきのカレーみたいな匂いのするスパイスじゃない。
様子を見ていると、オカンがどんどん筋肉質になっていく気がした。
「というか……気のせいじゃないよね!?」
「静紅さん、あの方の戦力がみるみる上昇しています! さっきの二倍……いえ、三倍!? どんどん上昇しています!」
「スパイスは料理界の強化剤さ。その効果を極限までに引き伸ばし、自在に操ることが出来る能力……その名こそ[香料強化]! この同好会は同じ能力のみを結集させた同好会なのさッ!」
同好会のリーダーが誇らしげにそう言う。
なるほど、振り撒く香料の種類によって異なる効果を得られ、それを使ってバフをかける系の能力というわけか。
「うおおおおおッ!!!」
ゴムベラを行き良いよく地面に突き刺した強化型オカンは、そのまま、まるでフライパン無いの料理をかき混ぜるように地面を揺るがす。
「やば────────ッ!?」
瞬く間に、私の身体は宙に投げ出されていた。
痛くは……ない。爆風で飛ばされたのか?
「みんなああああ!!!!」
私は大声で叫んだ。が、返事は無い。
六花とフレデリカなら、それぞれ観察と心情透視で全員の位置がわかるだろうが……。
「ぅわっふ! いってて……」
尻もちの衝撃に耐えながら、立ち上がると、そこには二人のオカンが。
「なるほどね……」
強化型オカンの衝撃で私達をバラバラに。そこから一人につき二人で倒す……と。
「香料強化・甘口!」
「香料強化・山椒!」
「そっちがその気なら、やるだけだよね!」
ねえ聖透剣、私に力を貸して────!!
私はフレデリカに教えられたように強く剣に念を送る。
魔法人形もそうだったが、この世界の物は使い主の強い思いと意志、そして物自身の同意によって真価を発揮する。
魔法人形なら人化として、アテナとヘスティアという二人の姉弟が飛び出してくる。
さっき手に入れたばっかりで心が通じあってないかもしれない……けど、今は。今だけは!
ピコンっ。
途端、剣が眩く光りだして、辺りを真っ白に包み込む。
「これは……」
高純度のクリスタルをそのまま剣に加工したような、そんな見た目の剣が私の手の中にあった。
大きさもさっきみたいなキーホルダーなんかじゃなく、ちゃんとした直剣だ。
「ありがとう! あとでちゃんとした名前をつけてあげるからね!」
私は剣を対象として、空中で自由自在に試し操作してみる。
うん、使い心地もいいな。
「二十一歳、水鶏口 静紅! 今から全力で抵抗するよ!」
私はオカンたちに剣先を向けて、戦いのスイッチを入れた。




