第233頁 立たされた立場
「ねえ、ルリの出身地ってさ」
私は隣でとことこと歩くルリに、ふと出身地について聞いてみることにした。
アーベント・デンメルングの図書館で聞かされたルリの故郷。
半龍族が暮らす[フローダム]という小さな集落から彼は来たらしい。
「うん? シズが我に質問するとは珍しい。いいぞ、答える範囲なら答えてやるのだ」
「フローダムって半龍族の村で、そこにルリのつがいが居たんだよね?」
「ああ、ティアの事だな。そうだぞ、シズに会いに行くと言って我はティアを置いて出てきてしまった……だから帰省するのが楽しみなのだ」
頭の後ろで手を組むルリは、足を上げて草原を進む。
そっか、ルリと出会ったのって[私と居れば危機から逃れることが出来る]って予言を受けたからだったよね。
そうは言っても、本当に彼は危機から逃れて幸せな暮らしを出来ているのだろうか。
置いていかれたティアはルリにどんな感情を抱いているのだろうか────。
「案ずるな、ティアは強い。心も、魔法もな。だから我は進むのだ。後ろからティアが背中を押してくれるから─────進めるのだ」
岩を飛び越え、私よりも少し先に行く彼。その後ろに六花、フレデリカと続いていく。
この4人の中で一番精神が幼いのはルリだ。フレデリカも年齢的には幼いが、心と身体は別である。
かと言って、ルリと同じような行動を取らない訳では無い。
ルリの好奇心と遊び心溢れる行動を、六花とフレデリカは無意識のうちに真似る。
─────私がしっかりしないとね。
そう胸の奥にしまって、私も岩の上に飛び乗った。
「……!? 皆さん、少し下がってください!」
落ち着いた雰囲気の中、六花がそれを引き裂いた。
彼女の能力は対象のステータスだけでなく、熟練度が上がることで敵性存在の大まかな位置も確認できるようになった。
戦闘には向いていないけれど、索敵や情報戦においては申し分ない能力だ。
「まさか……チーミングですか!?」
「リッカ、ちーみんぐ? って一体なんなのだ!?」
「敵同士が手を組んでるってことだよ! ということは……敵襲!?」
私達はひとかたまりになって、周囲を警戒する。
「この近くに必ず居ます。少しずつですが、距離も近くなってます……」
すると。
「やァやァ、こんな海近くの林ん中で何してんだい。ここはウチらのナワバリだよ」
「ああー! ジャイアンママみたいなオカン集団!」
会場へ転送される前に見た、世界のオカン集団だ。本当にそんな名前かどうかは知らないけど。
「フン、生意気な子じゃないか。質問に答えな、ここで何してたんだい」
そうこうしている間に、あっという間に二チーム……8人のオカンに囲まれてしまった。
それぞれ鉄製の調理器具を持っており、オタマやフライ返しが多いが、リーダー的存在のオカンは包丁を持っていた。
「ここがナワバリだったなんて知らなかったの。ただ通り道に使っただけで、ここでなにかしようだなんて微塵も思ってないよ」
その言葉を聞いたオカン達は顔を見合わせた。頷き合って、そして再び。
「まァいいさ。あんた達の武装から見て、なかなかいい食材を持ってそうだねェ……」
二チームのリーダーは顎を癖らしく触った後、続けた。
「ここは取引と行こうじゃないか。あんた達はここの通行料として持ってる食材を全て置いて行く。その代わり、命だけは助けてやる」
全部か……。それは困るな。
せっかく手に入れたレアな食材も、もう次があるとは思えないし、なんと言っても優勝から何十歩も遠ざかってしまう。
「─────断ったら?」
私は頬に冷や汗を流しながら問うた。
「その時はァ、力ずくで奪うまでよ。さァ、選びな。通行料を支払うか、ここで退場になるかッ!」
「シズ」「お師匠様」「静紅さん」
「うん、分かってるよ。────みんな、戦闘態勢!!」
オカンVS私たちの戦いが今、幕を開ける!




