第231頁 青と蒼とブルーな彼女
料理都市クックードで開催された料理大会。
その特設会場であるアンダンテは、山、海、平原の三自然が入り交じる大規模会場である。
山で天鱗山の霜降り肉。
平原でコショウ。
次は海鮮茶碗蒸しを作るため、海へ足を運ぶ。
現在の時刻は七時。そろそろルリで空を飛ぶのも目立ってくるな。
「この辺でいいよルリ、山から日が昇る前に降りとかないと見つかっちゃう」
龍の姿をしたルリにそう言うと、彼はぶるるっと喉を震わせて適当な所に着陸した。
龍は人間と非常に仲が悪い。どうして仲が悪いのかは定かではないが、そういう風習というかイメージが深く根付いている。
「っと、今回は我大活躍だな! いざとなれば瞬間魔分子破裂も撃つからな!」
「あなたそれ撃ったら魔力切れで動けなくなるじゃないですか! それに引き換え私はほぼ無限に動けますからね、体力が尽きるまで盾にでも矛にでもなってみせます」
ルリとフレデリカが言い合う中、私はとりあえず海を目指そうと足を進める。
「あの、シズク様。私たちはどうすれば……」
そう言ってきたのはマカリナとチームを組んでいた猫獣人だ。
マカリナの指揮下ではない以上、自分たちで動かないといけないのだが、彼らは自分で行動することを知らないのか……?
「様付けしなくていいよ。そうだなぁ……一緒に行くって言っても優勝できるのは1チームだけだからな……辞退するってのも手だけど」
「そうですね……マカリナ様がいない以上、我らの優勝率は遥かに低下しました。分かりました、それでは我らはここで辞退することにします」
そう言うと猫獣人は事前に貰っていた辞退用の呪文を唱えた。
猫獣人は光の粒へと姿形を変化し、空の方へ登っていってしまった─────。
「よし、とりあえずはコショウもゲットしたし万々歳ですね。……それにしてもどうしてインソムニアがここに……」
不眠症の成れの果て、インソムニア。
私自身、彼女と出会うのは初めてだった。
六花曰く、キュリオスやルースリィスと同じように分類される成れの果てらしい。
ということは、ペルソナリテとも知りあいってことか。
「それにこの小さな剣も……確かに攻撃力も互換性も申し分ないけど、どうしてキュリオスは私にこれを?」
「まあまあ、細かいことは気にしない方がいいのだ! ほら、もう海が見えてきたぞ!」
言われ、前方へ顔を上げる。
そこには青空と白波、ブルーな海が悠々と広がっていた。
「……、そうだね。考え事はまた今度にしよう、今は大会の途中なんだから」
疑問を幾つか残しつつも、私たちは海の見える方へ駆ける。
「ウォーターシェルの時もそうだったけど、やっぱり海はテンション上がるね!」
「そうですね静紅さん! フレデリカさん、海老ってどこに住んでるんですか?」
異世界の知識というか、この大会の知識で言えばフレデリカがダントツで優れている。
ルリもこの大会について知っているようだが、ルリとフレデリカでどっちが頭がいいかと言われれば……まあ、うん。
「ここの海の海老といえば……ブロスターですね。ブロスターは比較的浅瀬でよく生息しているので、海岸を歩いていれば─────」
どぉぉぉぉん!!
という地響きと共に現れたのは……言うまでもない。
ブロスターだ。
・・・・・
砂飛沫と水しぶきがいり混ざる向こうから現れたのは、右手だけ異様に発達した巨大ロブスター……ではなく、ブロスターだ。
「ブロスター。大型の甲殻類で、その発達した右手で獲物を確実に仕留めることから、別名必殺海老とも呼ばれる……らしいです!」
六花が観察をすると、視界にたくさんの情報が流れ込んでくる。
それを瞬時に照合し、こうして情報を教えてくれるのだ。
六花には足を向けて寝られないね。
というより!
「なんじゃそのシャコみたいな設定の海老! まあでも、そんな力が出せる右手の筋肉はさぞかし美味しいんでしょうね!」
私は聖透剣を握りしめると、ブロスターに勢いよく投擲する。
軌道がブレながら進む超小型剣は、能力によって一直線の軌道に変更される。
ピヒュンッ!
ソレは、ブロスターの顔部スレスレで空を斬った。
「ううん、やっぱりコントロールが難しいな。魔法人形の方が使いやすいや……」
生憎魔法人形は入場時に没収されている。
運営曰く魔道具の持ち込みは禁止らしい。
略奪強奪殴り合い可の大会に、今更何を言い出すんだか。
とりあえずはコイツを何とかしないとな!
「よーし、3人とも、準備はいいね!」




