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総集編 セパレート・ファンファーレその3


「おい、撤退だ撤退! 撤退しろ!」


 紗友理一行VS賊の戦いは意外にも早く決着がついた。


 賊が数で押してくるのに対して、こちらは少数精鋭だ。


「ふいー、みんな逃げて行ったわね」


「皆、怪我は無いか? それにしてもベルア、君の魔法は素晴らしいね。おかげで助かった、君がいなければおそらく数で負けていた」


 ベルアの魔法は子供ながらに強力で、少なくとも賊に対して十二分に戦えるほどだった。


「悪かったな、お前ら。俺がいたばっかりに……」


「まだそんなこと言ってるの? まったく、しつこい男は嫌われるよ! 私たちみーんな気にしてないし、マドンがどこの所属してたってマドンはマドンだよ!」


 力いっぱいにマドンの背中を叩き、凪咲は伸びをする。


「んーー、そういえば戦ってる最中、盗賊の人に聞いておいたよ。例の祠の場所!」


「じゃあもう日も暮れそうだし、宿屋に泊まって行かない?」


 ベルアの提案に紗友理と凪咲が賛成する中、マドンは頭を抱える。


「ええっ、てことはまた俺の出費かよ! おーい、勘弁してくれよー」


「「あっははは!」」


 青ざめた顔のマドンを馬鹿笑いするベルアと凪咲。


 その仲間たちの表情を見ながら、紗友理は静かに下を向く。


 今まで彼女は生徒会長として、公平性を保つため対人関係は広く浅くを心掛けてきた。


 でも。


 狭く深く、でもたまにはいいのかもしれない。


 紗友理が異世界に来て初めて、自分の理念を変えた瞬間だった。



・・・・・



 敗北を喫し、マドンの所属する旅団の団長は基地に戻り、苛立ちを露にしていた。


 そこへ一人の少女が現れる。


 うさ耳がついた白いフードを来た少女だ。


「負けて悔しいねえ? 大勢で挑んだのに負けて悲しいねえ?」


「あ? んだガキ、どこから入り込んだ」


「いいからいいから、私はあなたの味方だって。あなた、力が欲しくなあい?」


 うさ耳の少女はニヤリと笑みを浮かべると、団長の手を取る。


「力……?」


「私ならあなたに力を与えられる、私はこの世界の神に近しい存在だからねえ」


 そう言って少女はポーチから[薄紫の液体]が入った瓶を取り出し、団長の前に置いた。


「これは……」


「これを飲めば力が手に入る、簡単なことだよ」


 不気味とも言えるその笑みに、団長はただ薬瓶の内容物を見つめることしか出来なかった。



・・・・・


 宿屋で休息を取るマドンを除く三人は、同じ部屋で夜空を眺めながら話していた。


 ベルアは一体何者なのか、本当に古の王家なのか、と。


 ベルアのその言葉に紗友理は「君は血筋で生き方を変えるような人間なのか」と問う。


 そしてベルアの過去やいつもの生活の話を聞いていると、彼女はスラム街出身であることが分かった。


 彼女が生まれてすぐ、王政に両親を連れていかれ、それ以降は近所の老人たちが彼女の面倒を見てきたらしい。


「……そういえばさ、どうして王国は既に子供を産んだ両親を集めてるのかな。まだ子供を産んでいない妊婦さんを集めてるんなら、子供目当てかなって思うんだけど」


「どちらにせよ不自然で陰湿で国民の幸福を奪っていることには変わりない、実際ベルアのような子供は大勢いるんだろう? ……全てはあの男、グリモワールが知っていると思う」


 ベルアは王国と戦い、両親を取り戻すことをこの場で誓う。


 両親を取り戻すためなら、どんな辛いことも乗り越えると言い切った彼女の頭を、紗友理と凪咲は優しく撫でるのであった。



・・・・・



 噂をすればなんとやら、王国の中心部にある王都、その更に中心部の王邸の廊下にて。


「フン、貴重な中級精霊を持って行ったのに成果なし。グリモワールの名が泣くな」


 グリモワールを待っていたように、廊下の柱の向こうからとある女性が現れる。


 顔は黒いフードで覆われており見えないが、頭の左右からそりかえった巨大な角が生えていることから、獣人族であることがわかる。


 獣人族の女性の挑発を無視し、グリモワールは静かに足を止めていう。


「あの緑髪の麗人、あなたも見ていましたよね?」


「…………」


「彼女はこの国の根本から何かを改編するつもりデス。我々の[計画]を遂行するためにも、あの者を捕えなければ」


「んなもんアタシは知らねぇ、アタシは狩りで忙しいんだ、テメェも生命が惜しいなら魔法の業務に戻りやがれ」


「……相変わらず無愛想な方デスねぇ。狩猟の賢者アーチェさん……」


 紗友理たちに立ちはだかる脅威もまた、陰謀と共に闇の中の影に身を潜めるのであった。



・・・・・



 翌日、紗友理たちは入手した情報を元に例の祠を訪れた。


 その場にいるだけで神聖な空気が漂ってくるこの祠に対して、ベルアは異常なまでの懐かしさを感じる。


「この奥から暖かい風が漏れてるわね……早速言ってみましょう、みんな気を引き締めて」


 ベルアは王家の証であるブレスレットを祠の入り口に掲げるとごごご、という音を立てながら石の扉が開き、奥への扉が現れた。


「おっ、開いたみたいだな。早く入ろうぜ! 財宝だったら俺の貯金な!」


「あこら! 待ちなさいっ、独り占めなんて許さないんだから!」


 ドタドタと慌ただしい足音を立てながらマドンとベルアは祠の奥へ入っていく。


 気を引き締めて、と言った側からあのような態度で大丈夫だろうかと呆れながら紗友理と凪咲も二人を追うように祠へ入っていった。


 四人が祠に入ってから数分後。


「フゥー、フゥーッ!!」


 荒い息遣いのまま、獣人族の大男……マドンの所属する旅団の団長は大剣を握りしめたまま森を突き進み、ついに祠へ到達した。


 明らかに彼の様子はおかしく、大木を無視してこちらへ直進してきたためか、全身がボロボロになっていた。


──────あなた、力が欲しくなあい?


 うさ耳フードの少女に貰った薄紫の液体を飲み干してから、団長は人が変わったように目を充血させてマドンを探していた。


 一回りも二回りも巨大化した旅団長タダール。


 彼の目的はただ一つ、マドンへの報復だ。


 祠の封印なんてどうでもいい、あの貧弱だったマドンが自分に勝ったことが不思議で屈辱で堪らない。


「るんるんるーーんっ! 私が[プロデュース]した能力をあなたに付与したんだから、負けるはずないよねぇ」


 ニンジンのペンをくるくる回すうさ耳フードの少女は、スキップをしながら森を進む。


「オレ……は、アイツを殺せれば……」


「おお! 人の言葉はまだ話せるんだね、やっぱり進化してるねえ、[あの人魚]のときは大成功だったしね!」


 少女は団長タダールから数歩離れ、両手をあげて笑う。


「必要なのは純烈たる闘力! どんな善意も権力も司法でさえも、兵器レベルの力の前では無に等しい! さあ……ええーっと、名前忘れちゃった。まあなんでもいいや!」


 化け物と化したタダールは、背中に携えた石大剣を抜くと樹齢数十年を超える木をも、小枝を折る感覚で切り倒し、祠の入り口でマドンたちを待ち構える。


────決戦は近い。



・・・・・



 鑑定の魔法を使いながら祠の洞窟の中を進んでいくと、ベルアの耳にとある声が届く。


「助けて、助けて」という誰かの声だ。


「声だあ? そんな訳ねえだろ、この洞窟は長い間封印されてたんだろ? 食料もないこんな洞窟で生きているやつなんているのかよ」


「……ほら、まだ洞窟は続きがあるわ! 僅かだけど火魔分子の流れがある、声の主はこの奥にいるんだわ」


 方や助けを求める声の主、方やまだ見ぬ財宝があるかもしれないと意気込み、洞窟の奥へ進む。


 洞窟の奥は非常に高温で、長居をすれば体力が削られるほどだ。


 洞窟の最奥に辿り着いたベルアは、古の王家の人間としてまるで何をすべきか理解しているように、壁の石板に触れる。


「姿を見せなさい、もう暑くて大変なのよ」


 ベルアが壁の石板に触れた直後、この洞窟全体が大きく揺れ始める。


「な、なんだあ!?」


 よろけるマドンを紗友理は支え、背中を押して立たせる。


 祭壇に祀られた盃などが地面に落ちて割れてしまい、不穏な空気が辺りに満ちる。


『─────ッ!!!!』


 空気はその狭い最奥を支配し、一行はあまりのその暑さに顔を覆った。


「あああづ!? これ火傷してもおかしくねえぞ!」


「ひとまず盾出すからその後ろに隠れて!」


 紅蓮に燃ゆる洞窟の中、岩すらも蒸発してしまいそうな熱気に圧倒される一同。


 咄嗟に凪咲が出した盾に隠れるが、ただ一人、顕現したソレに立ち向かう少女がいた。


「あんたが助けを呼んだのね、私にはわかる。寂しくて辛そう。大丈夫、私が助けてあげるから」


『──────────ッ!!! ─────ァァ!!!』


 そこに顕現したのは、ベルアの持つ王家の証にも刻まれている[不死鳥]だった。


 無数の炎羽は彼女の服を焦がし、噴き出る汗をすぐに蒸発させる。


 不死鳥は不死ではあるが不老ではない。


 年老いた不死鳥は数十年間蓄えられた自身の炎で己を焼き、その灰の中から小さな小鳥となって転生する鳥だ。


「明らかに苦しそう……もう限界みたいだよ、ベルアちゃん!」


「私は私のすべきことを成すだけ、あなたの火を鎮めてあげる!!」


 ベルアは業火を纏う不死鳥に手を伸ばすと、王家の魔力を解放する。


 原理は不明だが、ベルアの足元に暗がりが生まれ、そこに不死鳥の炎が吸収されていく。


 不死鳥の炎が吸収されていくにつれ、彼女の髪が赤と黄の混色と化す。


『─────、──────────』


 幼体の姿になった不死鳥をベルアは手で包み込むと、胸のあたりに当ててそっと瞳を閉じた。


「い、一体何を……」


「ん? ああ、この子が転生するときに生まれる炎を、私の魔力のなかに吸収しただけよ。そうしたら周りに影響が出る前に私の中に入るから安全でしょ?」


 紗友理には彼女が何を言っているのかわからなかったが、彼女が成したことはなんとなく分かった。


 不死鳥の転生時に発せされる超高温の炎を、ベルアの[王家の魔力]という……簡単に言えば魔法や魔力を出し入れできる倉庫のような場所に収納したのだ。


「マドン、不死鳥について何か知ってる?」


 この世界について一番知識のあるマドンに凪咲は問うた。


「神様に仕えるすごい生き物の一種だな、神託って呼ばれてる。ま、そんな不死鳥を封印できるほどの技術者が、大昔にはいたってことだ」


「神託……ふふ、この姿を前にするとなんだか笑ってしまうな。こんなひよこが神の使いだなんて」


 皆がベルアの手の上にいる小鳥をつつく中、不死鳥はすっかりベルアに懐いてしまったらしくなかなか離れようとしなかった。


 その時。


 洞窟ないが大きく揺れ、天井から大量の瓦礫が落ちてくる。


 急いで一行は祠の洞窟の出口を目指し、そして地上へ脱出した。


 しかしそこには。


「ねえねえねえ、その手に持ってるのってフェニックスだよね? キュリオスちゃんさあ、それ外に出される困るんだよねえ……」


 オレンジの髪、白うさぎのフード、ニンジンのレプリカが特徴のその少女はそう言うと、隣にいた男に指示を出す。


「やっちゃってよ」


「グ、オオオオオ……!!」


 それは一回りも二回りも巨大化し、化け物になった旅団長だった。


「団長……!! テメェ、団長に何をした!」


「知る必要ある? まあ無いよね。だってこの人と戦ってたじゃん、敵じゃないの?」


 マドンは納めていた小型大砲を取り出すと、少女の方へ向けた。


「団長を元に戻せ、さもないと発砲は躊躇しない!」


 ピリついた空気感を、ベルアに守られた不死鳥は静かに感じ取る。


「この子ね、負けたことが悔しかったみたい。だから私が力を貸してあげたんだー」


「君は……お前は何者なんだ?」


 紗友理は[少女の皮を被った][化け物]に恐る恐る問いかける。


「私は好奇心の[成れの果て]キュリオス! フェニックスが外に出たら管理とか色々面倒だからね。ちょっと止めさせてもらうよ」


 成れの果て……? 管理、ということはある程度上位の存在か。六賢とは違うのか?


 ひとまずこの少女キュリオスは、旅団長タダールを何らかの方法で狂乱化させた、と。


「グ、オオオオオ……!!!」


「みんな、まずは旅団長を何とかしよう。準備はいいね!」


総集編isなに……伝えたいことが多すぎて全然進まないんですが!?

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