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総集編 セパレート・ファンファーレその2


 紗友理と凪咲の全力、それと遠くからのマドンによる援護射撃により鎖の巨人を討ち倒した一行。


 肩で呼吸を行う紗友理は、そのままグリモワールにも剣を向けようとするが、彼の防壁魔法で防がれてしまう。


「まさか中級精霊が倒されてしまうとは……把握しました、あなたたちはきっと我々の脅威となる。その顔と名前、覚えましたヨ!!」


 彼はそう捨て台詞を残し、この村から魔法のようなもので姿を消した。


「あ、待て!!」


 追おうとする凪咲を制止し、紗友理は深く息を吐いた。


「今回は追わなくても良い、こちらも疲弊しているんだ。返り討ちにあったらどうする」


「それは……そうだけど」


「そういえばあの男、[六賢]と名乗っていたな。何か知らないか?」


 紗友理の問いに、村の人間が答えた。


「六賢とは王直属の六人の精鋭たちのことでございます。ストーリア王はその分野に秀でた人間を集め、従えています」


「なるほど、六人の賢者で六賢か……謎は深まるばかりだが、一つはっきりしたな。奴らは[紛れもなく村人を殺そうとしてた]ってことだ。私達が村に残っていなかったら……」


 王都王政課の六賢が一人、クタナ・グリモワールとのいざこざは今後も燃焼範囲を拡大して行く。


 翌日、紗友理は竜車の整備を行うマドンに問うた。


「ともあれ、これで君の用事とやらは終わっただろうマドン。一番近くの街まで連れて行ってくれないか」


「ああ、元々その約束だったしな。ここから一番近いのはグロールって街だ、比較的大きな街で、情報収集にはもってこいだぞ」


「わーい! そこなら情報収集も沢山出来そうだね!」


 オーバーなリアクションをする凪咲を笑いながら、マドンは地図を台の上に置くと北の方角を指し示すのであった。



・・・・・


「はあ、はあ……ッ!!」


 顔を隠すようにボロボロのフードを被る少女は一人、街の路地を駆ける。


 その手にはブレスレットのようなものが握られており、後方からは数人の男たちが少女を追うように走っていた。


「助けて、誰か……誰か!」



・・・・・



 大きな街、グロールへやってきた二人はマドンの説明を受けながら街を歩いている。


「ここは竜車乗りが集まる街でな、俺が所属する竜車旅団もこの街に本部が置いてあるんだ」


「さすがに人が多いな、これなら聞き込みだけでもかなりの情報が得られそうだ」


「そういえばよぉ、何の情報を集めるんだ? 探し人? アイテム?」


「特には決めていなかったが、今決めた」


「えー! なんの情報なの?」


「王都王政課の六賢についてだ、優生主義を持つ政治家なんて許せるか。何とかして変えないと」


 クタナ・グリモワールだけか、六賢全てかどうかは分からない。それも視野にいれて情報収集を進める予定だが、優生主義を持つ政治家は国としてあまり好ましくない。


 誰かのために死んでいい人間なんて居ないし、命に価値の優劣なんて無い。少なくとも紗友理はそう思っている。


「で、でもさ、変えるってどうやって? 相手は国のお偉いさんなんでしょ?」


「それもおいおい考えていくつもりだ。まずは別れて情報を集めよう。……どうしたマドン、浮かない顔して」


「いや、何もねえよ、ほら始めるぞ」


 足早に人混みの中を進むマドンを、紗友理と凪咲は立ち尽くして見る。


 彼の背中はどこか、迷っているかのような、そんな気がした。



・・・・・



 三手に分かれて街の散策を行う紗友理たち。


「情報収集とはいうが、何から始めれば良いんだ? ……おっと」


 頭の後ろを掻きながら歩く紗友理の背中に、背の低い少女がぶつかった。


 紗友理にぶつかったことで少女は尻餅をつき「いってて……」と静かに声を上げる。


「すまない、大丈夫かい?」


 彼女は少女に対して手を伸ばすが、少女がその手を取ることはなく、ぺこりと頭を下げるとそそくさと走り去ってしまった。


「路地裏……あんな子供が?」


 走り去る方向が方向なだけあって心配になった紗友理は少女を追う。


 路地裏の角を曲がる時、先ほどの少女のものらしい小さな悲鳴が聞こえた。


「う、あっ……! は、離して!」


 少女の抵抗する声が聞こえてきたのを聞き逃さなかった紗友理は、路地を進む速度をはやめて曲がり角を曲がった。そこに見えてきたのは。


「離せだァ? こんなガキが男の力に抵抗できるとでも思ってんのか!?」


 少女の髪を掴む大柄な男数人と、拘束されて泣きながら抵抗する少女の姿だった。


 紗友理は前に出て咄嗟に声を飛ばす。


「そこまでにしておけ、大の大人が子供を獲るなど恥ずべき行為だ」


「んだお前、俺ァこいつに用があんだ!」


「は、離し、て! 助けて!!」


 男は少女を離そうとせず、未だ髪を掴んでいた。


「その少女を離せ、さもなくば……」


「うるせえ!」


 少女を地面に投げ飛ばし、背中に携えたダガーを抜き放つと、男はこちらに向かってきた!


「こうなりゃお前も売り飛ばしてやる!」



・・・・・



 意気揚々と武器を構える男たちだったが、その戦力はあまりに低く、紗友理は無傷でその男たちを圧倒してしまった。


 紗友理が武術を履修しているのもあるが、それにしても弱すぎた。


「素手の女一人に手も足も出ないとかこいつどれだけ弱いんだ? まあいい、とりあえずは気絶させられた。君、怪我はないかい?」


「う、うん、大丈夫。強いのね、お姉さん」


「力は弱き者を守るためにある……なんて言って、父に扱かれたものだ。それで、君はこんなところで何をしていたんだい?」


「ベルア」


「え?」


「君、じゃなくてベルア! 私はある人から逃げてここまできた、そしたらあの男に捕まったってわけ」


「あ、はは……意外と元気だね。逃げてきたってことは、何か追われる理由でもあるのかい?」


 気が強そうな少女ベルアにそう問うと、彼女は周囲の目を気にしてそっと紗友理にブレスレットのようなものを見せた。


「何か知らないけど、このブレスレットが古の王家の象徴だって言って奪おうとしてくるの。貧乏な私が王家なわけがないし、何よりこのブレスレットはお母さんからもらった大切なものだもの。誰にも渡したりしないわ」


「古の王家の証、か。それだとかなりの価値がつきそうだな。男たちは金が目当てなのか?」


「うーん、それもあると思うけれど、おそらくは……封印を解くため」


「封印?」


 この街のハズレには祠があり、その祠の開門にはベルアのブレスレットが必要らしい。


「それもこれもつい最近知ったことだし、私なんてただの村人だし……でも終われるから逃げなきゃいけないし、もう大変よ!」


「ひとまず移動しよう、昼食はまだかい? 良ければご馳走しよう」


「本当!? ありがとう!」


 路地裏で長々と話すのも危険だと判断した紗友理は、近くの飲食店に入り料理を二つ注文した。


「それで、今更だが君は一人なのかい? お父さんやお母さんは? 街は整備されているとはいえ、さっきの様子だと治安はあまり良くないのだろう?」


「私に血の繋がった家族はいないわ、みんな生きてるのかもわからない。今は近所のおばさんたちに面倒見てもらってるのよ」


「両親がいないというのは……うむ、辛いな」


「何気つかってんのよ、いいわよ別に。両親は私が小さい頃、王国の人間に連れて行かれたの」


 ベルアのその言葉を聞いて、紗友理は目を見開く。


 というのも、六賢が関わっている可能性があるからだ。


「子供を産んだ両親は[穢れのないもの]として王政の人間に連れて行かれる。どこへ連れて行かれるかは分からない。刃向かった人は殺される……だから母さんと父さんは……」


「すまない、食事中に辛いことを聞くものじゃないね。まずは食べよう、私もお腹が空いてしまった」


「ええ、そうね。いただきます」


 ベルアと紗友理は向かい合って、運ばれてきたオムライスを頬張る。


 美味しいものを食べている間、ベルアは年相応の少女の表情を浮かべており、紗友理は口に出さずに「可愛いな……」と一人思うのであった。



・・・・・



「んなガキが古の王家の生き残りだなんてなあ、心当たりはあんのか?」


「ガキじゃない、私はベルア! 心あたりなんて無いわよ、お母さんは何にも言ってなかったし、王様だーって言われたこともないもの。私も今朝知ったところだからわからないわ」


 一度紗友理たちは合流し、ベルアの紹介を行った。


 彼女は自分のことを子供扱いするマドンに頬を膨らませている。


「でもよく逃げられたね! ベルアちゃんが無事で本当によかったよー」


 彼女の青い瞳の奥はどこか寂しそうで、その寂しさを強い口調でかき消しているように思えた。


「で、これが例のブレスレットか」


 金の糸鋼で編まれた『不死鳥』の紋章。


 その内側には緑の飴玉ほどの宝石が入っていて、まるで不死のエネルギーそのものを表しているかのようだ。


「私の先祖は祠の奥に一体何を隠したのかしら」


 祠の場所を知らない一行には、それを確かめる術はない。


 古の王家、それと祠について調べるため、一行は一度ベルアの家に戻ることにした。



・・・・・



 ベルアの家に戻り、探索を行う四人。


 紗友理たちはそこにある家具や食器が、明らかに高級なものであると気がついた。


 ベルアに自覚はなかったが、確かにこの家は金持ちが住むような家だったのだ。


 しかしすでに泥棒が入ったらしく、食器やカーペットは荒らされ、金目のものはあまり残っていない。


 家の探索を終え、街の大通りへ戻った一行はとある人物と邂逅する。


「おうおう、誰かと思えば孤独単騎のマドンじゃねえか」


 ツノの生えた獣人族の男は紗友理たちの進行方向に現れ、この先は行かせないと言わんばかりに道を塞いだ。


「っ……!!」


 マドンは引きつった表情を浮かべると口を強く結んだ。


 悔しさか、はたまた怯えか。理由はともあれ、マドンはこの男が苦手らしい。


「一人旅はどうだ? ああ? 若い女三人連れてどうすんだ、売りにでも行くのか」


 ニヤリと口元を歪める男に対し、紗友理と凪咲は嫌悪を覚える。


「たとえ旅団長のお前でも、その言葉は聞き捨てならねえ。俺がこいつらを売るって? 俺はこいつらの……!! こいつらの……っ……」


 元はと言えばヒッチハイクの関係だが、今はもう違う。


「マドンは私たちの仲間だ。仲間にこれ以上突っかかるのなら、私が黙っていないぞ」


 剣の柄に手を当てて、紗友理は男を睨みつける。


「あ、ああーーー!! 皆、こいつよ、こいつが王家の証を奪おうとしてきたの!」


 ベルアは地団駄を踏みながら男を指差す。


「旅団長が? ……なるほど、お前まさかまた金の匂い嗅ぎつけて止まれなくなってんだろ。いつまでも金のしっぽ追いかけ回すだけのワンコロめ」


 羊のような角を生やした旅団長は、頭にシワを寄せると大声で笑った。


「がっはっは!! なんの因果か、お前は古の王女様じゃねえか。マドン、俺にこいつを売れ、言い値で買うぜ」


「だから俺は、こいつらを金で売るような人間じゃねぇ!! ベルア下がっとけ、いつ襲われるか分かんねえだろ」


「俺[達]に逆らおうってのは、どういう意味か分かってんだろうなあ!?」


 男が何やら合図をすると、道の至る所からゾロゾロと賊が現れた。


 どうやら元々ここは包囲されていたらしい。


 だったら取るべき行動は一つ。


「サユリ……俺、仲間……でいいのか?」


「当たり前だろう、それに君はここまで私たちを連れて来てくれたじゃないか。その恩くらいは返させてもらうよ」


 紗友理は剣を抜き放ち、迫り来る賊に向けて剣を構えた。


 凪咲は防壁を展開し、その裏でベルアは魔法を唱える。


 紗友理の剣と賊の剣が打ち合う音を合図に、戦闘の火蓋が落とされるのであった。



セパレート・ファンファーレ編は第320頁〜第429頁です! 良ければ本編もどうぞ!

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