総集編 セパレート・ファンファーレその1
「つまらない」
いつからか、それが口癖だった。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
才色兼備、文武両道。
一年生から学校の生徒会長として名を馳せた天才女子高生の[伊豆海 紗友理]は今の現実に嫌気がさしていた。
廊下を歩けば歓声を上げられ、何をするにも尊敬される。
彼女にとって、一つのミスも許されないその環境はひどく息苦しいものだった。
そんな彼女に唯一対等に話しかけてくれる少女が居た。
[一ノ瀬 凪咲]、黒髪のセーラー服が似合う心優しい少女だ。
「紗友理ちゃん、今日ゲーセン行くよ!」
「はいはい、生徒会の仕事が終わったらな」
対等に扱ってくれる凪咲と話していると、本当に気が楽だった。
これから紗友理は凪咲とともに高校生活を謳歌していくのだろう、そう思っていた矢先のことだ。
「どけやあああああッ!!」
「通り魔!? 凪咲!」
突然、向こうから走ってくる通り魔。
避ける暇もなく、通り魔連続殺害事件の被害者として紗友理と凪咲は命を落とした。
・・・・・
死後の世界と思わしき真っ暗な空間で再会を果たした紗友理と凪咲は、その空間にいた少女と会話を交わす。
どうやら天国に行くか、転生するか、ファンタジーな異世界に行くか選択ができるらしい。
ゲームやアニメが好きな凪咲は紗友理の意見を無視して異世界への転移を選んだ。
「緑髪のあなたは地形編集術、そして黒髪のあなたには防壁盾の能力を授けます。それではいってらっしゃい!」
「おい、まだ話は終わってな─────!!」
紗友理は急いで少女の方に手を伸ばすが、時すでに遅し。
気がつけば視界は晴れ、心地よい風が吹く草原に居た。
「あ、ああ……来てしまった、異世界に……」
絶望の顔を浮かべる紗友理とは裏腹に凪咲は全力で目を輝かせて周囲を見渡していた。
「ぷはあ! うん、最高に空気が美味しいね! やっぱり異世界を選んで正解だった!」
「不正解だバカ! どうしてくれるんだ、誰も知らない死後の世界を見るプランが……!」
「ば、バカ!? むぅ……言わせてもらうけどね、紗友里こそバカだよ! 天国なんて暇に決まってる。異世界に来て正解だって!」
異世界に来てしまったことを全力で後悔し、地面に倒れる紗友理を叩き起こして凪咲は笑っていう。
「分かった、じゃあ約束したげる。紗友里が「ああ、異世界に来てよかった」って思わせられるような異世界生活にしよう!」
「……! ば、ばか、そういうのは時と場所を考えてだな」
「はあ、そういうの頑固っていうんだよ? 面倒くさいんだよ?」
「う、うるさい! 異世界の歩き方とか私何も知らないぞ、まず初めは何をすればいい? とりあえず凪咲に全て従う、君が私のナビゲーターになってくれ」
「はいはーい! サブカルは紗友理ちゃんに勝てる唯一の分野だからね! ここは私も張り切ってくよ!」
才色兼備の紗友理と少し頭の悪い凪咲は、新たな世界へ一歩踏みだす。
これは、そんな凸凹コンビが[万優姫]と呼ばれるようになるまでの物語だ。
・・・・・
紗友理と凪咲は人魚の少女イナベラがいる海の村に数日間滞在した後、村には居られなくなったので次の目的地へ徒歩で向かっていた。
人魚のイナベラは一人で生きていく必要がある、そのためには少々気の毒だが彼女を置いていく必要があったのだ。
「う、ううう……紗友理ちゃんのばかー!」
泣き喚きながら凪咲は紗友理の背中をぽかぽかと殴っていた。
「仕方ない、仕方ないんだよ……」
殴られている紗友理もかなり心が痛んでいるらしく、いつものように大声を出して凪咲を制止しようとはしなかった。
イノシシ型の魔物を倒し、その肉を焚き火で焼きながら二人は次の目的地について話していた。
街へ行こうか、山へ行こうかと話していると、道の向こうから一台の竜車が走ってきた。
竜車を見た凪咲はヒッチハイクのように手を伸ばし、親指を立てる。
すると竜車は止まり、運転席にいた髭の生えた男性が声をかけてきた。
「こんな所ふらついて、お前たち何してんだ?」
「お前ら、では無い。私の名は紗友里だ。それでこっちは凪咲。この国に来たばかりで右も左も分からない状況なんだ、ここから大きな街までどれくらいかかるのか聞いてもいいかい?」
「ここから大きな街まで? あはは、名前といい言葉といい、サユリとナギサは面白い奴らだな! あいにくだが、こっから一番近い街まででも数日はかかる。俺の用事を優先していいなら、近くの街まで乗せてやってもいいぞ」
「わあ、ありがとうおじさん! やったね紗友理ちゃん、早速ヒッチハイク成功だよ!」
「おじさんじゃねえ、俺の名前はマドン。この国で郵送業をしている者だ」
胸を張って自己紹介を行なったマドン。
紗友理たちはマドンの竜車に乗って、ひとまずここから一番近い山間部の村へ向かうことになった。
・・・・・
竜車に乗って旅をしながら、二人はこの異世界についての情報を得る。
どうやら現在いるこの国は巨大な島国で、オーストラリア大陸のような形をしているらしい。
この国の名前はヴァイシュ・ガーデン。
数々の地形、気候が入り乱れる特色豊かな島国だ。
しかし現在の国王ストーリアによる支配にも似た統治に、国民は混乱しているらしい。
「ま、戦乱の世だからな。島国だから侵略は無いつっても輸入やらが大変らしいぜ。貧富の差も広がって、国中大混乱さ」
「戦乱、戦争をしているのか……」
「おうよ、ひっでえ有様だったらしいぜ。この国まで戦火が来なきゃいいんだが」
そんなことを話していると、話に出ていた一番近くの村までやってきた。
その村は地形の関係から日当たりが悪く、食物が育ちにくいため食糧難に陥っていた。
マドンはこの村に大量の食料を届けに来たのだ。
「具体的なことは聞いてないが、この箱の中にあるものを使えば食糧難が解決できるらしい」
村の皆々が集まる真ん中で、マドンはその木箱を開封する。
そこにはなんと─────。
『グギギ、オレ、壊ス。ミンナ、ミンナ……!!』
その中には全身が鎧で繋がれた巨人が入っており、その様相は見る者を恐怖させ、紗友理は突如現れた巨人に目を丸くした。
「どうして!? 箱の中身は食料じゃなかったの!?」
「食糧難が解決できる手段、としか聞いてねえよ!」
言い合う凪咲とマドンの肩を掴み、紗友理は焦りながらも冷静に答える。
「ただ一つ分かるのは、[王国側は村を救おうとした訳では無い]ということだ。おおよそ[食べる村人が死ねば相対的に食糧難も消える]ってところだろう」
マドンが竜車を出して村人の避難を行う中、紗友理と凪咲は鎖の巨人と睨み合っていた。
その時、村を囲む森の奥から一人の人影がやってきた。
おかっぱ頭の痩せ細った男性だ。
「ご名答デス、身体だけでなく頭まで冴えているとは。お初にお目にかかります、私の名前はグリモワール。まあもう二度と会うことはないと思いますが……」
グリモワールと名乗る男に、凪咲は一歩前に出て。
「ご名答って……国はみんなを守るものなんじゃないの!?」
「優生主義デスよ。辺境に暮らす田舎者なんて居てもいなくても変わらない。そんな者達のために食糧を使うくらいであれば[食べる必要を無くせばいい]、死人に口なしとはまさにこの事ォ! アッハハ!!」
「貴様……そんなこと、そんなこと許されないに決まっているだろう!? 村に魔物を放って殺させるなど、許されな──────」
剣を抜き放ち、グリモワールに明確な殺意を向ける紗友理の言葉に被せるように、グリモワールは高く笑いながら。
「一体誰が許さないのデス? 神? 司法? 私は[王都王政課六賢]が一人ィ! 人々が崇める神も、世界を司る司法も! すべて私そのものなのデス! さあ行きなさいアギト、村は後回し、まずはこの二人を始末するのデス!!」
グリモワールの指示に応えるように、鎖の巨人アギトは紗友理と凪咲に襲いかかる。
「凪咲構えろ、盾がやられたら私もやられる! 私がやられたらお前もやられる! お互いにカバーしていこう、来るぞ!!」
軽く補足をしますが、主人公シズク達のいる国の王様も主人公と同じく日本出身の異世界転移者です。
その名前は紗友里といいます。
この物語は紗友里が異世界に転移してから、王様になるまでの[八年前]の物語です!
セパレート・ファンファーレ編は第320頁〜第429頁です! 良ければ本編もどうぞ!




