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第211頁 朝から喧嘩の嵐です

「ですから!あなた達はどうしてそういつもいつも問題ばかり起こすんですか!頭おかしいんですか、問題を起こさないと死んでしまう呪いにでもかかっているんですか!」


 今朝の目覚ましは、六花の怒鳴り声だった。昨晩あれだけ酔っていたのに、よくもまぁあんなに大声が出せるな。

 枕の上で目を開けた私がリビングへ降りようか迷っていると、今度は六花に言い返すように別の声が飛んできた。


「な、なんです!?頭おかしいって言いました、この人頭おかしいって言いました!お師匠様に言いつけてあげますから、震えて待っているといいですよ!!」


 これは……?フレデリカの声か?となると、この騒ぎは六花とフレデリカの喧嘩だな?

 朝から大声出してたら近所迷惑じゃないか。

 私は注意しようとのっそりとベッドから起き上がる。二段ベッドを降りて、寝室の扉を開いた。

 すると、今度も新しい声。


「お、おいリッカ、それにリカも!一回落ち着いた方がいいのだ。我の予言によると、このあとシズにこっぴどく怒られるのだぁ!!」


「「だいたいあなたが何もしなければこんなことにならなかったんでしょう!?」


「ああ!?だーれが我のせいだ!言っておくが我は何も悪くないぞ!それに、あんなものまた作ればいいじゃないか!」


「「あんなもの?!あんなものって言いましたね!!よし、ここは一度休戦です。先に目の前の彼を叩きのめしましょう!……、ちょっと、さっきからわざと被せてきてませんか!?ああ!また被せましたね!?」」


 整理すると、ルリが何かをやらかした。それを見ていたフレデリカは騒ぎをたてて、それを六花が発見してしまったようだ。

 階段を降りていって、私はリビングへの扉を開けた。

 そこには顔から出るもの全てを流すルリ、六花の髪をつかんで取っ組み合いになっているフレデリカ。そしてフレデリカの胸をバシバシとたたいて反抗する六花の姿が。


「よーーし、整列しとけ?一人ずつ整理していくぞ。まずルリ!涙に鼻水によだれに血に汗に凄いな!何があった、顔から出るもの全部出てるぞ!?コンプリートおめでとうな!?」


「うぅ、うっぐ……ああぁ、シズぅ……だずげで……だずげるのだぁ……」


 飛びついてきたルリをなだめ、今度はフレデリカの方を見る。

 何かを察知したのか、彼女は私と目が合うとすぐに目を逸らしてしまう。


「ちょいちょいちょい!六花のアイデンティティのアホ毛をもごうとしない!離せ離せ!」


 整列しているのにも関わらず、身長差を使って六花のアホ毛を握ったり引っ張ったりするフレデリカ。

 彼女の手を振り払い、その赤い瞳を見つめる。

 微かに浮かぶそばかすに、ほのかに赤らんだ頬。そして────


「お、お師匠様……?そんなに見つめちゃいやんですよ」


「は、はぁ!?別にあなたのことを見てる訳じゃないから!よーし次、六花!」


 私は強引に視線をずらし、六花に指を指した。

 彼女は彼女で、フレデリカの胸をピシピシ、またはバシバシと叩いている。

 叩かれる度に揺れる大きなソレは、この空気感を少し重くする。

 無心で、ただ無心で胸をピシピシと叩き続ける六花。

 ほんと、可愛いなぁぁぁ!!


「ふむ……、このまま叩き続ければワンチャン小さくなるか?よし、もっとやれ」


「はい、静紅さん」


 更に速度を上げた六花の叩きに、フレデリカは少し身を震わせる。


「もしかしてリカ……おっぱいで感───」


「そそそそそ、そんなわけないでしょう!?私が感じるのはお師匠様のパ」


「よしそれ以上言うんじゃねぇ。とーにーかーく!何があったのか説明してくれる?」


 ルリ、フレデリカに続き、私は口を開いた。

 先程の会話はスルーするとして、こんな大喧嘩なかなか無いぞ?


「それはボクから説明させてください。実は、昨日ボクが作ったチョコクッキーをフレデリカさんとルリさんが食べてしまったんです……」


「ち、違います!たしかに私はクッキーを食べましたが、一割ほどしか食べてません!」


「な、なぁ!?我が悪いとは言わせないのだ!我は九割食べたが、止めなかったリカも共犯だぞ!」


「罪のなすりつけあいしてる場合じゃないよ!うーん、そうだなぁ……」


 あぁ、私のプリン食べた事件みたいな感じか。

 3人が3人を睨みつけ、2回目の喧嘩を始めようとしていたので私は間に割り込んで止めた。


 街の貼り紙に気になるチラシが貼ってあったのを思い出し、私は指をくるくると回す。


「雪原地方にあるクックードって街で開催される料理大会に、4人で出てみない?そこで誰が1番美味しいチョコクッキーを作れるか勝負したらいいと思うの!」



 ──────────────


【第18回クックード料理大会】


 我が国ヴァイシュ・ガーデン有数の料理の街で開催される18回目の料理大会へご招待!

 毎年100を超える参加者の中から、最も料理上手な人を選ぶ本大会。今年は特に各地方の特産品も集めていますから、素材の充実と共に料理の選択肢が広がっております!


 参加条件 男性女性問わず、満15歳


 優勝賞品 聖具・火山のミトン


 ─────────────



「雪原地方……ですか、」


 フレデリカが暗い顔でそんなことを言う。

 理由はだいたい察しがついて私と六花は何となく黙るが、ルリは何も知らないので。


「おおっ!雪原地方ということは北西だな!……どうしたリカ、浮かない顔をして」


「い、いえ……ただ、私の故郷のルドリエと近い場所で開催されるので」


「おおー!そうかそうか!実は我の故郷は雪原地方を超えたところにあるのだ。お前も、故郷の皆に顔を出してみるといい」


 そのルリの言葉に、フレデリカの顔は更に暗くなる。

 かつてフレデリカの故郷ルドリエは、貧困に悩まされていた。

 家で虐待を受けていたのもあり、彼女は1人で家出してきたのだ。

 虐待のこともあり、故郷に帰るのは彼女にとって、トラウマを自分で堀りに行くようなものなのだ。


「ちょっとルリ、フレデリカは────」


「い、いえ!ルリさんの言う通りだと思います。あれからもう何年も経ってるんです、精神的にも強くなっているはず……一度帰省してみましょうか」


「じゃあ決まりだな!我の故郷にも立ち寄りたいし、シズも我の母と顔を合わせておくべきだ」


「本当に大丈夫なんですか?フレデリカさん」


「はい!大丈夫です!これは私のトラウマを克服するために必要なことですしね〜」


「そっか、それじゃあ料理大会出場と、ルリとフレデリカの里帰りって感じで4人で行こっか!」


 ゆっくりしたいところではあるが、旅行はまた別だしな!


 かくして、私は再び家を空けることになるのであった。



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