第202頁 聖具解放・旗槍!
今回は、めちゃくちゃグダってます!!
「ど、どどど……どうすれば……!シズク様、どうしたらいいんですか!?」
「シズク様!?さ、様……、まぁいいや。とりあえず、あなたはあなたのできる限りのことをして!」
クリュエル戦開始から30秒ほど経過したか。
クリュエルとジャンヌが睨み合っている間、私と女の子兵士は会話をしていた。
シズク様と呼ばれるのは何だか違和感があるが、まあ、堕とした責任と考えるか……。
彼女の能力は使用したアイテムの効果を上昇させる的なやつ。なので、魔法特化というよりアイテムを使いまくる系の戦い方だ。
それ故に、ポーチやら小カバンやらをずっしりと持っているのだろう。
「そ、そうは言っても……私の戦い方は共闘者に迷惑をかけてしまうんです。こんな部屋で煙玉でも炊くと、シズク様にまで被害が……」
「なるほど、それもそうだね……」
こんな密室でさっき使った麻痺煙玉とか使われたら、溜まったもんじゃないや……。
「その中には何が入ってるの?まさか全部煙玉ってことは無いよね?」
「はい、投擲物や魔道具が入ってます……。が、特に使える物はありませんね……」
「そっか……」
私は女の子兵士との会話を止めて、ジャンヌの方へ意識を向ける。
鋭い旗槍の先をクリュエルへ向け、それだけで息を荒らげているジャンヌ。
それにひきかえ平然で、冷酷な顔をしてジャンヌに手のひらを向けるクリュエル。
「ど、どうしてジャンヌ様は……あんなに疲れていらっしゃるのですか?まだ何もしていないのに……」
「何度も何度もクリュエルと戦ってるんだよ、何度も戦って、負けて、それでも新しい策を……頭の中で幾十幾百幾千回も」
「まさか……!そんなに何回も負けてるのなら、勝てるはずが無いです……」
「それでもやり遂げるのがジャンヌなんだよ。あの子の背中には何百人もの想いが詰まってるの。それが、ジャンヌの原動力で、[勇闘志]の源でもある……頑張れジャンヌ!」
ジャンヌの頬を伝う一筋の汗が床に落ちる時、世界が静寂に包まれた。
異様なまでに誇張された雫の落ちる音の後、2人は一気に間合いを詰めて行く!
「はぁッ!お前のような悪者は倒されるべきなんだ!」
「……」
物凄い速さの連続突きがジャンヌの手から繰り出される。その一突き一突きが全身全霊の力がこもっていて、彼女は歯を食いしばった様子だ。
それをするりと避けるクリュエルはやはりただ者ではないらしい。
「支援魔法・筋力上昇!」
そう呪文を唱えると、ジャンヌの周囲に赤い光の粒が集まっていく。
筋力上昇。一定間、対象の筋力を上げる魔法だ。
そしてジャンヌは槍を持って華麗な演舞を始めた。両手でクルクルと槍を回して、地面に突き刺す。
「聖具解放・旗槍!」
「あれが……」「聖具の魔法!」
そのジャンヌの行動に、私たちは口を開けて声を漏らした。
目を凝らしてみると、聖魔分子があの旗槍に凄い勢いで流れ込んでいく。
目が痛くなりそうなほど眩しい光と、旗槍を中心にして発生する強風がその切り札感を醸し出している。
「くっ……!っ、はぁ……、耐え……た!」
旗槍の力は、[自身の生命力と引き換えに強力な一突きを繰り出す]というもの。
聖具の解放により、自身の生命力を吸われたジャンヌは酷い目眩に襲われる。が、強い精神で耐えたようだ。
「素晴らしい力ですね。……ん、実に素晴らしい。さすがにそれを避けることは出来そうにありませんね」
ふぅ、ふぅ……と息を切らしているジャンヌの持つ旗槍を見て、子供のように欲しそうな目をするクリュエルは。
「……それ、とても欲しいです。独占欲と言いますか、私物にしたい欲と言いますか、それがとても掻き立てられます」
聖具の力を使うのは誰でも出来る。
もし、この旗槍がクリュエルの手に渡ってしまうと……。
「そんな無駄口を叩いている余裕が……あるのか?」
「それもそうですね────」
そう言うとクリュエルは自分の右手首を握って、ジャンヌから距離をとった。
すると、彼女の右手が巨大化すると共に黒い杭が突き出される。
その光景は、私が想像していた最悪のシナリオをなぞっていたのだ。
「な、な、な……ななんですかあの右手……!あれはまるで……、そんな……」
見るからに筋肉質の右手。右手という1部分のみが巨大化するその見た目は、人間のものとはかけ離れたものだ。
「ん……、成功して良かったです。どうですか?右手だけホムンクルス化するこの方法は」
「この外道が!とうとう人間も辞めたかッ!人間では無いのなら、容赦は要らない。殺す気で行くぞッ!クリュエル!」
「えぇ、その聖具の効果、力!ぜひ見てみたいものです。さあ、泣きなさい。苦しみなさい。あなたの成し遂げようとすることを、実現してみなさい」
今か今かと威力の放出を待っていた旗槍は、ジャンヌの合図によって稼働を始める。
キュイイイイ!!と機械音のようなものをあげながら、[聖具解放・旗槍]を放つ!
その刹那、2人の間にとてつもない衝撃波が走り、私と女の子兵士は王室間の壁に吹き飛ばされた。
そして、その壁でさえも旗槍の威力には耐えられず破壊され……。
「落ちるよ!!捕まって!」
私は女の子兵士に手を伸ばすと、無意識に上を見た。
そこには、ジャンヌの旗槍に巨大化した右手を貫かれたクリュエルの姿があり─────!!




