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第196頁 いつか終わるその時まで

 カリカリ……カリカリと静かな茶室にペンの音が響く。以前羽根ペンを試して見たが、墨だらけになるわ羽根がこそばゆいわで直ぐに止めてしまった。今はニアに貰った万年筆を使用している。

 万年筆と言えば、どうして万年なんだろう。1000年じゃダメなのだろうか。一万年インクが持った証拠はあるのか ?


『成れの果ては警戒しないといけないの ?それに、私とあなたはなんだか似ている気がするの。そんな人を放ってはおけないじゃない ?』


 彼女に言われた言葉が何度も何度も頭の中で繰り返される。

 ルースリィスやキュリオスが彼女達をたくさん傷つけたのにも関わらず、それでも未だ、私たちと仲良くしようとしているのは何故か。


 私とあなたは似ている気がする……か。

 運命共同体なのだから、似ているというより──


「お姉様、一緒に散歩にでも行きませんか ?」


 集中していたせいか、いつの間にかルースリィスに背後をとられていた。後ろから抱きつかれた私は、ペンを紙の上に置いて立ち上がる。


 この問題については後々考えよう。

 転移者達……試験体達と友好的な関係を築くことは可能か。

 データで構築された[あの世界]を生きた[唯一の人間]……シズク。

 高性能人工知能の[彼ら]と笑い、泣き、そして暮らす。時には剣を交え、拳をぶつけ、血を流しても足掻く。

 人工知能と純粋人間の共存……。それこそが私の[最終計画目的オペレーション・リアリティ]なのだから。

 それが完成し、現実世界に異世界の住民を呼ぶことが私の[与えられた使命]なのだから。

 全て上手く行けばいい。そんな考えは傲慢かもしれない。

 でも、今回だけはあなたに託すわ……シズク。


 ふたつの正義がぶつかる時、その先には何があるのか。

 破滅?平和?支配?平等?そんな2文字で表せるものでは無いと私は信じている。


「ちょうど私も散歩に行きたい気分だったわ」


「ふふっ、やった!2人だけでデートです〜」


 無慈悲の成れの果てが、隣で微笑んだ。

 美しい花が咲き誇るここ[最果ての花園]は、いつ散歩しても飽きないのだ。

 めぐりめぐる季節を越え、ようやくここまで来れたのだから。

 ────必ず、成功させてやる。



 ・・・・・



 空は徐々に曇って来て、雨が降っきそうな天気になってきた。

 まるで、私を含めた3人の心、を空が表しているかのように。

 カチャリカチャリとジャンヌの軽鎧の金属音が耳に届き、スズメの緊張する心臓の音までも聞こえてくる。

 本来賑やかだろう街も、人っ子一人おらず、まるでゴーストタウンの雰囲気だ。

 何かのチラシが風に舞い、道の端に着地する。

 髪が乱れ、思わず頭を押さえるジャンヌの表情は、14歳の少女とは思えないほど凛々しく、そして勇み立っていたのである。


「緊張してない ?大丈夫 ?」


 私がそう聞いてみると、ジャンヌはチラッとこちらをみて微笑む。


「はい、大丈夫です。私は聖女の血を継ぐ者……これも運命なんでしょう」


「ジャンヌ……」


 彼女は胸当ての上から手を当てる。いっそう風邪は強くなり、旗槍の旗もパタパタと音を立てながら揺れてきた。

 聖女の血を継ぐということは、ジャンヌのお母さんも聖女だったのだろう。祖母も祖祖母も。代々受け継がれてきた旗槍のように、聖女の運命というのも尽きず尽かさず受け継がれるものなんだ。

 この戦いでジャンヌは命を落とす。

 そんなこと、聖女である彼女なら、既にわかっているのだろう。それでも私は、彼女を死なせないようにしたい。

 たとえそれが運命でも、たとえそれが絶対的中の予言でも、私はそれをねじ曲げる。


 他国の問題でも、見て見ぬふりは出来ないからな。私は全力を尽くすよ。


 こんな戦い、間違っている。間違っていることを気づかせるために、武力を行使する。それに対抗するように向こうも武力を使う。

 終わりのない争いなんてない。

 いつか終わるその時まで、私は血を流してでも───。



 ・・・・・



「クリュエル様、このようなことはやめておいた方が懸命かと」


 貴族邸の暗い部屋で、ソルーナとクリュエルが話している。辺りには兵士はおらず、2人きりのようだ。


「ん……、ですが、先の戦いを前にしてこの禁忌術を使うのが1番なんです。しかし、国の象徴……残忍姫は負けられないのです」


 するとソルーナは、クリュエルの言葉を素直に認めて地に膝を着いた。


「っ……、そのソルーナ。たとえ命に変えてもクリュエル様を護ることを約束します。生と死の狭間で全力の戦闘を行い、意識が消えるその時まで、あなたに忠誠を尽くします……ッ!」


 そこへ、槍を持った一人の兵士が息を切らして王室間に入ってくる。


「し、失礼しますぅっ!」


 部屋に入った途端、胸に強く拳をぶつけて方膝立ちでその場に座る。

 酷く怯えた様子で、そして大声で。


「あ、あの……!えっと、その……」


「さっさと言え!いつもいつもお前はビクビクしよって……堂々とせんか!」


「ひ、ひぃぃ!!」


 おどおどしている兵士に、ソルーナは痺れを切らして怒声を浴びせた。

 暗めの紅の髪に、頬にはアイデンティティのようなそばかす。瞳は緑で、全身重鎧を身につけている。身は平均より小柄で、勇気のかけらもない[兵士の少女]。 


「まぁまぁ、いいじゃないですか。どの道、一番先に死ぬのはこの兵士なんですから」


「わ、私死ぬんですか……!?そ、そうじゃなくてこの屋敷に何者かが忍び込んだようです……。裏口の扉の鍵が破壊されてて、もうすぐ長廊下に到着する頃かと……」


 女兵士はそう告げると、立ち上がって10メートルほど距離をとった。

 どんな人がこの貴族邸に忍び込んだのか分からないが、それはクリュエル達にとって、本格的な戦争の始まりのきっかけになるのだった。


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