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総集編 セイレーン・シンフォニーその2



 悪イナベラとの決戦に向け、一人でも味方を増やすため村人の困り事を解決していく一行。


 一つの依頼を解決し、疲れ果てた結芽子はあることに気が付いた。


「これさ、普通に間に合わんよな?」


 当たり前である。


 海の村は意外に広い。


 一件あたり数時間かけて、人形への偏見を解いていくのは明らかに効率が悪過ぎる。


 どうしたものかと悩んでいると、受付嬢がある書類を引っ張り出してきた。


「それでは人魚にしか出来ない仕事なんてどうでしょう?」


「私にしか出来ない……?」


 受付嬢の話によると、村の近海の小島に[ギルマン]という半魚人の魔物が大量発生し、手に負えないから退治して欲しいようだ。


 ギルマンは魚などを採り尽くし、村人たちを困窮させている。


 つまりこの依頼を達成すれば、村人全体に好印象を与えられる。


 これこそ望んでいた大きな依頼だ。


 三人は早速船に乗り、その[近海の小島]へ向かった。



・・・・・



 様々な会話をギルマンと交わしてみたが、結局交渉は決裂。


 一行は島に巣食う大量のギルマンと真っ向勝負をすることになった。


「ちょっと本気を出すよ、下がってて」


 ギルマンは海のギャングとして恐れられる魔物だが、人魚のイナベラの戦力はギルマンたちを優に超える。


 [蹂躙]とも呼べる戦力差でギルマンたちを圧倒し、静紅たちはイナベラの強さに「チートかよ……」と苦笑いで声を漏らすのであった。



・・・・・



 船で村に戻ると、どこから漏れたのか村の中は[ギルマン討伐の噂]でもちきりだった。


 おおよそ受付嬢が皆に話したのだろう。


「おかえりなさい皆さん、これで一件落着ですね!」


 受付嬢は笑顔でイナベラの手を取るが、彼女は「まだ終わっていない」と言って、一行の帰りを待っていた村人たちに視線を向けた。


「村のみんなに私が安全だってことを伝えなきゃ」


「その事なんだが……」


 村の人々は次々にイナベラに対してギルマンを倒してくれたことへの感謝、今まで迫害していたことへの謝罪を述べていく。


「お、俺は……お前が嫌いだった。人を襲う人魚なんて死ねばいいって思ってた。でも、ギルマンを倒したと聞いた時は少し考えたんだ。味方のギルマンを壊滅させるなんて有り得ないもんな」


 あまりに手のひら返しすぎる彼らに、静紅は異議を唱えようとするが、隣にいた結芽子に抑えられる。


 皆から謝られる中、無言だったイナベラはゆっくりとその重い口を開く。


「私は……小さな頃から、この髪や貧相な身体のせいで呪われるって言われてきた」


 どこからともなく風が吹いてきて、彼女の髪を優しく揺らす。


「木の実なんかを使って、染めようともした。こんなものがあるからみんなと違うんだ、こんなもの、いらないって。正直、みんなが私にしたこと許した訳じゃない。けど、みんなが変わろうとしてるなら……」


 日が傾いて、遥か水平線に夕陽が沈む。


「一歩前に進もうとしているのなら。悔しい気持ちも、悲しい思い出も、今は少し忘れるよ」


 日が沈んだことで、燃える心配が無くなったイナベラは過剰な日除け服を脱ぎ捨てると、改めて声を出す。


「敵はもう一人の私。負けるかもしれない、守れないかもしれない。けれど、私を信じて欲しい、ついてきて欲しい。こんな未熟な私だけど、みんなの役に立ってみせる」


 潮の香りがする冷たい風が、私たちの間を吹き通って行った。



・・・・・



 村の人と和解してから数時間後、海岸で今後のイナベラの生活について話していた一行の元に、遂に諸悪の根源が現れた。


「来る、来るよ……!!」


 刹那、海面から勢いよく、力を溜めて完全体となった悪イナベラが飛び出し、すれ違い様に善イナベラの腹にパンチを喰らわせた。


「くはっ……!?」


『長かった……ようやく十分な力が溜まったよ』


 善イナベラは自身の分身に反撃をお見舞いするが、まるで壁でも殴っているかのようにびくともしない。


『全然痛くない、自分でも気がついてるよね? 今までの力の二割も出せてないって。だってそうだもん、私《悪感情》が居ないからね!! 非力なあなたと全力の私、あなたに勝ち目はない!』


 悪イナベラは善イナベラを海に引き摺り込み、真下の海底へ叩き落とす。


 悪イナベラには勝てない、誰にも止められないこの化け物には。


 気を失う寸前で何度も何度も痛み付けられるその光景は、もはや戦闘と呼べたものではなかった。


 それはまるで、ゾウの圧倒的力の差にねじ伏せられる子アリのようだった。


 骨が折れても、人魚の超再生の影響ですぐ再生されてしまう。


 何度も骨折の痛みを味わう善イナベラは、遂に泣き出しながら攻撃を防ぐことしか出来なくなる。


 その激痛に耐えかね、とうとう善イナベラは気を失ってしまう。


 行動不能のイナベラへ、トドメを刺さんと悪イナベラが大技を準備したその時。


『ッ……!?』


 海の中を一瞬の閃きで駆ける、煌めくクリスタルの剣。


 ソレは一人でに動き、悪イナベラを斬り付けた。


「行くよクリスタ、ここからは私が相手だ!」


 静紅の武器、聖透剣ことクリスタはどうやら精霊等に弱点特効の効果があるらしく、斬り付けられた悪イナベラは苦しみの声を上げた。


『ニンゲン……ここは海、どうしてここに?』


「ばかやろー! 親友が死にかけてるのに助けに来ないバカがどこにいるんだよ!」


「呼吸は[水中呼吸の薬]で何とかしとる! 時間は少ないから早めにやるで静紅ちゃん!」


『ニンゲンに人魚は倒せない! 第一、[偽物]は為す術もなく敗北した!』


「負けるからやる、勝てるからやるの話じゃない! どこに居ようが助けに行く、それが親友ってものでしょうが!」


 海底での悪イナベラとの決戦が、今始まる。



・・・・・



 人魚の怪力で圧倒される一行。


 その激闘の中、静紅は自身の武器クリスタを[武器解放]し、その力を最大限まで引き上げた。


 するとクリスタルの剣は眩く輝きだし、その形を[人の姿]へと変えた。


 シンデレラのような純白なドレスとガラスの靴を身にまとった、黒髪の女子高生程度の少女だった。


「後輩ちゃんの呼び掛けあらば、飛んでくるのが私の使命。曇りなき眼に宿したこの紋章は、敵を斬り裂く傷晶しょうしょうの如し。戦場覆う黒雲を、大海荒れる雷鳴を、草原駆ける疾風を。我が力としてここに立たん!! なーんてねっ、えへへ」


 そこに現れたのは、マーメイド・ラプソディの試練の中で出会った少女[凪咲]だった。


 数年前、龍に殺された凪咲だったが、魂が消滅する直前に成れの果てがこのクリスタに魂を入れていたらしい。


 試練の影響で失われていた記憶を取り戻し、静紅は凪咲との再会に喜ぶも、悪イナベラは凪咲に殴りかかるが、彼女は持っていた剣でそれを簡単に受け流した。


「せい、とう、やっ!」


 紗友理の親友として数々の強敵を前にしてきた凪咲にとって、たった一人の人魚など大した敵ではなかった。


『あり得ない、ニンゲン風情が私と対等に戦ってるなんて……!!』


 言うまでもない、あの[万優姫]と呼ばれた紗友里にも、武術[だけ]なら勝るのだから。


 善イナベラがやられたことでの劣勢を一瞬にして覆し、そのまま優勢まで持ち込んだ凪咲。


 この勢いのまま倒してしまおうと気合いを入れ直す一行だったが、なんと悪イナベラは秘策を残していた。


 悪イナベラが生み出した秘策の魚型爆弾に飲まれ、凪咲は戦闘不能になるほど負傷してしまう。


 剣の具現化である今の彼女なら、時間制限で復活できるらしいが、とにかく今は戦闘不能だ。


 凪咲は静紅たちに想いを託し、託された彼女らはいっそう強く拳を握る。


 が、数段ギアを上げた悪イナベラはあまりに強く、悪イナベラの奥義[セイレーン・シンフォニー]は発動させた。


「あ、まず────────ッ!?」


 眼前、大岩を吹き飛ばすほどの爆発を受け、静紅と結芽子は一発で気絶。


 激流と砂塵、そして一行である三人の身体を残し、悪イナベラは高々と笑いながら地上へ向かうのであった。

セイレーン・シンフォニー編は第290頁〜第319頁です! 良ければ本編もどうぞ!

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