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第178頁 不幸中のサイワイ

「ねぇスズメ、私の正体を知ってどう思った?」


 私は、荒れた教会の庭を、ルリを担ぎながら歩く。足の方はスズメに持ってもらっているので、何気なく聞いてみることにしたのだ。

 襲撃を受ける前、壁ドンをされたときに言われた「まるで別の世界から来たみたい」という言葉。完全に彼女には日本人であることを伝えたが、本人は言いふらしたりすることは無いと約束してくれた。

 私の問いに少し悩んだ後、口を開く。


「…そうね、別の世界があるってことに驚いたわ。それこそ絵本の話じゃない?自分の生きている遠くの世界ではみんなが平和に暮らしていて、たくさんの夢が抱けるんだもの」


 それから、スズメはすぐに言葉を続けた。


「そんな世界から来た人間なら、必ず平和に出来るって信じてるわ。だから、死ぬんじゃないわよ」


 こちらにグータッチをするように促すスズメに微笑み、私は彼女の拳にこつんと優しく自分のをぶつける。


「死亡フラグにならなきゃいいけど。まぁでも、私は死ぬつもりは無いよ!スズメこそ、無茶しすぎは良くないからね?」


「分かってるわ。でもこの先必ず、無茶をしなければいけない場面が訪れる…そんときぐらいは止めてくれないでよね」


 そんなことを言うスズメを背に、私は爆風で薄汚れた教会の扉をゆっくりと引いたのであった。


「…え、何か反応してよ、ねぇ!!ちょっと、シズク!」



 ・・・・・



「ただいまー。良かった、中は無事だったみたいだよ」


 ルリを運んで教会の扉をくぐると、中は先程の襲撃を受ける前と何ら変わりのない状態だった。

 教会に住んでいる人達の姿は見えないが、声は聞こえるので、奥に身を潜めているのだろう。

 ひとまずルリを部屋に寝かせなければ。2人がかりで持っているので重量感は少ないが、動きづらい。


 私とスズメは、ルリを私の部屋に寝かせた後、教会の最奥部屋に向かった。


「凄い、こんな仕掛けがあったなんて」


 最奥部屋への入口は、普通に見ても分からない[隠し入口]となっていた。

 壁に立てかけられた松明をレバーのように下に引き、足元にある小さなボタンを踏めば開閉するらしい。

 スズメは無言で慣れた手つきで仕掛けを発動させて、中に入っていった。

 すると、中から出てきたのはスズメよりもはるかに歳下の幼稚園児ほどの小さい子達。

 名前は知らないが、教会にいる男女の子供だったり孤児だったりする子達だ。


「すずめ、だいじょーぶ?」「けがしてない?」「ここ、ちがでてるよ」


「こんな傷どうってことないわよ。それより、あんた達が無事で居てくれて良かったわ。他のみんなも奥に隠れてるの?」


 男女問わず、3人の幼児の頬にキスをする彼女の姿は、私よりももっと大人で子供の扱いにとても慣れていた。まるで何人もの母親のように。

 大丈夫、と言っているのに薬草を口に押し込んでくる幼児たちを抱いて、スズメは部屋の奥に進み出す。

 いやぁ、可愛いね。おっと、私はロリコンでは無いぞ、可愛いと思う子がロリータなだけなんだ。

 奥に進まず、入口の方でにやにやしていると、後ろから聞いたことのある声で名前を呼ばれた。


「静紅、無事だったんだね。よかった」


「あぁ、紗友里!大丈夫だった?銃声聞こえたりしたけど…って、怪我してるじゃん!」


 深緑の軍服に、つば付きのキャップ。そこから出る長い緑の髪の持ち主紗友里は、頬から血を流しながらこちらに話しかけてきた。

 その後ろにルナも立っている。


「ジャンヌは頭部に酷い打撲を受けてしまった。しばらく目を覚ますことは……」


「そっか、紗友里とルナが無事で何よりだよ。ジャンヌも命に別状は無いんでしょ?2人のおかげで不幸中の幸いの結果に終わったと思うよ」


 暗い顔をする紗友里の肩に手を置き、私は安心したように言った。すると紗友里は、目を丸くして。


「……すまない、君に慰められるとは思っていなかったよ。うむ、私を含めた三人とも命に別状は無い程度の怪我で済んだ。ジャンヌが目を覚ましてくれれば、の話だけど」


「…それについては大丈夫。ルナが少し観たけど、目を覚ますはず。でも、精神に少し異常が出るかもしれない、出来れば王都の医療機関に送った方がいいけど時間がない」


 気になる単語が聞こえたので、私は「そういえば」と続けた。


「そういえば、王都への救援要請ってどうなってるの?やっぱりまだ時間かかりそう?」


 あれから数日経ったが、音沙汰なしの[救援要請]。私達がこの教会に来た頃、ルナの能力を使って王都に留守番をしてるルカにテレパシー的な物を送って『助けに来てほしい』と送ったはずだ。

 私の言葉にルナは少しためらって。


「……たしかに、少し遅いかもしれない。サユリ様、もう一度連絡をとったほうがいい?」


「うむ、ルカなら二日で来てくれるはずなんだけどな。でもルナ、連絡はまだ大丈夫。魔力が安定していない状況であんまり無茶するんじゃない」


 そうか、連絡が終わった後にめまいがしたのは魔力不足が原因か。となると、さっきの戦いでルナは少し無茶をして魔力を使いすぎたのだろう。

 そんな状況で連絡をとるのは私も反対だな。せめて体内魔力が安定してからの方がいい。


「遅いってことは何かあったのかな、フレデリカと結芽子も来るはずだから、他人事じゃないんだよなぁ」


「まぁ、今は休息をとったほうがいいさ。必ず来てくれる、ルカなら必ず。ね?」


 未だ頬から流れる血を、手ぬぐいで拭き取った紗友里は、私に微笑み返して最奥部屋の奥に進んで行った。


(大丈夫だよね、みんな……)


 自慢じゃないけれど、嫌な予感は結構当たるんだよなぁ。






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