第152頁 興奮を収めるために
この王都を取り囲む大壁。それは、最近築かれたもので、攻撃手段のない都民を魔物から守るためなのだとか。
分厚い大壁を見下ろして高度を徐々に落としていく。ルリがジタバタすることでバランスが崩れることもあったが、なんとか王都内上空まで入ってこれた。
検問とかは…、まぁ紗友里がなんとかしてくれるだろう。
「し、シズぅ…、そんな急いでどこに行くのだぁ?」
顔を赤らめ、思考が上手く働いていない状態のルリが肩の上で口を動かした。
目的地は、知り合いのリーエルが経営するリーエル魔道具専門店。
発情…かは分からないが、興奮状態のフレデリカとルリを治す薬がリーエルなら持っているかもしれないし、無くても彼女ならすぐ作ってくれるはずだ。
「知り合いの店!もうすぐ地面に降りるから。お願いだから通行人には手を出さないでよ?」
「えぇー、店かぁ…。まぁいいのだ、早く連れて行くのだ」
…こいつー!私は汗水たらして運んでいるって言うのに、お子様は肩の上で命令かよ!
私はルリへの怒りをなんとか抑えて地面に着地した。
「はーい!」
色付きガラスが埋め込まれた大きな木のドアをノックすると、建物の中から元気な声が聞こえてきた。
海旅行から帰ってきたとき、牢屋から帰ってきたリュカもこの店を手伝っていた気がする。二人にはルリのことを秘密にしておこう。人間とは違う、別の種族と言っておこう。うん。
慌ただしい足音と何かが割れた音のあと、ドアがゆっくりと開けられた。ドアに取り付けられた鈴の音が涼しげに店内に響く。
「また来たのか桃髪。なんだこいつ、こんな知り合いいたのか?」
「うん、最近出会った子なんだけど、今はちょっと訳アリで…」
私のことを平気で桃髪と呼ぶリュカは、ルリを見て少し驚いた。それに続いて私は彼の説明をする。
「のだぁ」
けだるそうに、酒にでも酔ったように片手を挙げて自己紹介をしたルリは、てくてく歩いて窓側に置かれた接客用のテーブルに席に着いた。
リーエルが「まぁ」と手で口を押さえて驚きの表情を見せて、私に視線を向ける。
彼女は何か匂ったのか鼻を鳴らして息を付く。
「これは…興奮剤お香?なんでこんな物を使ったんですか?新しい実験でもしたんでしょうか」
「え、興奮剤…?魔物を引き寄せるお香じゃないの?」
「違いますよ!この匂いは人間以外の生物全般を興奮させるお香です。国からは使うのは気を付けてと要請がでているほど危険なものなんですよ」
あれ?だったらどうしてお香を売ってくれた人は昆虫種用が欲しかった私達に渡してきたんだ?
「確かに!昆虫用なのにエルフとかが興奮する訳ないもんね!やっぱり変だったんだよ!」
「エルフ…まさか、フレデリカさんもあの方のように?」
顔を青くしてリーエルは、窓際の椅子に座りとろんとした表情を見せるルリを指さした。
リーエルにもフレデリカの本性というか、変態度を知っているので顔を青くしたのだろう。
「あ、あの子はルリって名前ね」
ルリがどれだけの荒れているのか分からないが、万年興奮状態であるフレデリカがこのお香の影響を受けたらどうなってしまうのだろうか…。大丈夫、彼女は草原に置いてきた。人を襲うことはないはずだ。
「それでさ、この症状を治す薬とか方法とか無い?」
「ありますけど…」
その言い方だったら何かタダじゃ行かない感じがするけど…。
・・・・・
「よしっと、これで完成しました。あとは…」
「あいつをここに入れるだけだな」
白いチョークのようなもので地面に魔法陣を書いて立ち上がったリーエルとリュカは、魔物を追いかける化けも…フレデリカを冷たい目で見た。
ルリは「大人しくしていて」と言えば我慢してその場に座ってくれるが、フレデリカは誰の声も届いていないらしい。
「待ってくりゃさいよーーー!」
『くるぅ…!」
草原で走るフレデリカ。が追いかけるのはそれなりの大きさのウルフだ。こう見れば、どっとが魔物なのか分からなくなってくるな。とりあえず魔物にも危害は加えさせる訳には行かない。人外とエルフ (フレデリカ)?誰得なんだよ。
「おいこらフレデリカーー!襲うなら…私を襲えーー!」
本当はこんなこと言いたくない。でも、リュカとリーエルが期待のまなざしで見てくるのだから、恥ずかしいところは見せられないではないか。
どーんとフレデリカを待ち構えて両手を開く。
それに気づいたフレデリカはこちらに猛スピードで駆けてきた。
「お師匠様ー!」
「ひぃ!」
彼女との距離20m。獣のような目で私を見てくるフレデリカに怯んで声を漏らすが、持ちこたえて歯を噛みしめる。
フレデリカが大きな魔法陣の上に入ってきた瞬間。リュカとリーエルが呪文を唱えてくれる手はずになっている。案ずるな、私は彼女に触れることはない。
「行きますよ、リュカ姉さん!」
「はいはい。ちょっくらやるか」
「なんでもいいから早くしてぇーーー!!!!」
マジ怖いから!マジでもうすぐ来るから!魔物より怖い存在がここに来ているんだよ!
「「『純属性魔法・香華破壊』!!」」
天に向けられた二人の手が、勢いよく魔法陣に振り下ろされる。
「おっししょーさまー!私と一緒に楽しいことしまあああああああああああ!」
身体に電撃のようなものが走ったフレデリカは、その場に崩れて静かになった。凄い叫び声だったけど、大丈夫かな…。
「ふぅ、誰も汚すことなく捕らえることが出来…」
「ふ、ふふふ…うふふ!捕まえましたよお師匠様!」
突然、私の脚に何かが抱きつく感触がした。と思ったら、勢いよく魔法陣の中に引き込まれていく。
フレデリカの筋力に私がかなう訳もなく、薄明かりの魔法陣の中で押し倒される。
あ、やばい。これ死んだわ。
「う、うへへ…」
「いーーーやーーーーーー!!!!」
「シズ!リカ!いい加減にするのだーーーー!!」
まぁ、なんだかんだでお香によって興奮した二人はリーエルとリュカの魔法で元に戻ったのでした。
めでたしめでたし。
「全然めでたくないのだ!」
【あとがき!】
久しぶりの投稿ですごめんなさい!三日…二日ぶりかな?
今筋肉痛と葛藤しているので、あんまり面白いことは言えません!(笑)
予定では、次回から第10章に入ります!思ったより長く続きませんでしたねー、
Next冴えはずヒント! [鎖国と紗友里と国民]お楽しみに!




