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第125頁 フィナーレは祝福のあとで



「おりゃあああぁぁぁ!!!」


 決して広いとは言えないこの部屋に、私の大声が響く。無我夢中で電磁砲の核を探し、それの射線を出来るだけそらす。

 1mmでも私や蜜柑達から遠ざけて、次の攻撃に備えなければいけない。


『後輩ちゃん、大丈夫?』


「今更何言ってるの、たとえ腕がボロボロになってもこの手はどかさないよ!」


 …捉えた!

 電磁砲に限らず、魔法には核というものが存在する。それを突けば消し去ることができるのだが、私はそうしたいわけじゃない。


 核を操作した状態で、その場で右回りに回転する。私の右手で核を捉えているため、私の思い通りに電磁砲を操作できる。


「こんにゃろーーー!」


 遠心力を上乗せし、電磁砲をライアーに返す。

 さすがのライアーも、魔法の核は掴めなかったのか、電磁砲が直撃した。物凄い爆風のあと、余裕の表情だった彼女にも痛みが出てきたようだ。


「くはっ、さすが持ち主さんですね。扱いの繊細さまでは嘘を付けませんでした」


 吐血をしながら、ライアーはそう言った。

 扱いの繊細さまでは嘘を付けない…?それ以外は嘘をついていたという訳なのか。

 まさか…、いや。そうに違いない。


「ライアー。あなたの本当の能力が分かった気がする。それに、あなたがどうして[嘘つきの成れの果て]なんて名乗るのも」


「いいえ、私の能力は物を浮かす能力で…、ほら…。あれ?」


 ライアーは必死に私の考えを否定しようと、能力を使用しようとしたが、ピクリとも物は動かないし、指から微かな光すら生まれない。

 それもそのはず。私は、彼女の能力の謎を知ったから。


「あなたは無能力の人。って私が考えてるからさっきみたいに能力が使えないのだとしたら、私の推測は真実に変わるよ。あなたの付いた嘘とは真逆の、真っ白な真実」


 ゆっくりとライアーに近づきながら、私は言葉を続ける。


「能力の正式名は分からないけど…、仮名は[相手の思った能力]とでもしておこうかな」


「っ…」


「まず、私とあなたが出会った時には、私の能力なんて知らなかった。でも、能力が無ければ私を止めるのはもちろん、圧倒されて終わってしまう。だからあなたは適当な‘‘嘘‘‘を付いた。『私と同じ能力』と。

 そんなことを言われたもんだから、私は思わず自分の能力のことを考えてしまって、私は『この人は私と同じ能力を持っている』と信じ込んでしまった。

 この時点で、能力の発動条件は揃っていた。なので、あなたは私と同じ能力…物を浮かす能力を手にした。そうでしょ?」


「……」


「これだけじゃないよ。電磁砲を使った時も、私が電磁砲を知っていることを良いことに『自分の能力は電磁砲』と嘘を付き、それも私は信じてしまった。これで能力が使えるようになったから、思いっきり電磁砲を撃った」


 悔しそうにこちらを見つめる彼女と目線を合わせ、また言葉を続ける。


「そうじゃないと、何年間も使ってきた能力に、初めて触ったおもちゃみたいな感想は言えないもんね。どう?名探偵シズクの推理は」


「…参りました。全くその通りです」


 黒ハットの下はよく見えないが、声が震えているので泣いているのだろうか。

 しかし、我ながら凄い推理…。自分でも怖いわ。


「嘘を付かないと能力を使えない。それも、この能力を知っている人には全く効果を発揮しないあなたの能力。これが、嘘つきの成れの果て…か。

 本当はちっぽけな能力なのに強そうに振る舞う。一番大きな嘘をついているのは、自分が一番凄いと思っている、ライアー。あなた自身なんじゃないの?」


「…うぐっ、うぁ、」


「よしよし、こんな時まで自分に嘘付かなくてもいいのに。自分に正直に生きよ?ね?」


 私は、ライアーの背中をゆっくりと擦る。私が誰かにやってもらって一番うれしいことだ。

 自分にまで嘘を付かないといけない彼女を見ていると、なんだか助けたくなってくる。


 そっとライアーにハグして、私はとても驚いた。


「温かい…」


 それは、人の温かさが全て詰まったような、そんな気がした。



 ・・・・・



 目を離した一瞬の隙にライアーはどこかに行ってしまった。

 それはあまりにも一瞬の出来事で、何が何だが分からないほどだ。光の欠片になって消えていく…なんてシチュエーションは無く、本当に呆気なく消えてしまったのだから。

 まだ手のひらに残るぬくもりを感じ、なんとも言えない感情に包まれていると、頭の中で誰かが私を祝福してくれた。


『おめでと、後輩ちゃん!これでようやく儀式が終わりだよ、本当にお疲れ様!』


 私は自然と目を閉じた。今思い返すと、なぜ閉じたのだろう。眠たかったから?もう一度凪咲の姿を見たかったから?それすらもどうでも良いほど嬉しかったのかもしれない。


「ありがとう凪咲。本当に」


 瞼の向こうで、セーラー服姿の女の子が、柱にもたれて腕を組んでいる様子が美しく、幻想的なまでに描かれる。

 儀式が終わるということは、彼女と会話することができなくなるということ。


『まぁ、儀式が終わったってことはさ。私の役目も終わったってことなんだよね~、あと三分程度で元の異世界に戻れるはずだから、私はそれよりも早く魂が消えちゃうの。魂が消えたら、話も出来なくなる…からね』


 苦笑いというか、自分の無力さに思わず笑ってしまったような表情で、凪咲は自分の頬を照れくさそうに掻く。

 はっきり凪咲の姿が見えることに喜ぶべきなのだろうが、それが異世界への帰還のタイムリミットが迫ってきていることの暗示と感じてしまって素直に喜べない。


『まぁさ!別にいいんじゃない?この儀式を受ける前は声も聞いたことのない他人なんだし。きっと異世界に戻ったらいつか忘れちゃうよ。私の本体もさ、儀式が終わったら再編のこともこの世界で感じたこと、足掻いたこと、必死になったことの全てを忘れちゃったみたいだから』


「そんな…!私、まだ凪咲と話したいことがたくさんあって…!」


 私の言葉に笑うように、凪咲は微笑んでこう言った。


『あはは、ほんと後輩ちゃんは面白いね。静紅だっけ、名前。何だかさ、生まれて初めてのお姉ちゃんが出来た感じがして嬉しかったんだ。変だよね、実際に会ったことのない大人の人をお姉ちゃんだなんて』


「ううん、全然変じゃないよ。それが凪咲なんだとしたら、私はそれを受け入れるから」


『…ここまでは先輩としての言葉です!ここからは…私の、高校生の凪咲としての言葉ね』


 彼女の紫の瞳から水滴が溢れ出し…、それにつられて私も視界の方に涙が溜まっていくのを感じた。


『…お姉ちゃんって呼んでいい?ほんの一瞬だけだから。消える前に早く言わないと』


「あはは、そんなの全然いいよ。いいに決まってるじゃん」


 凪咲は胸を押さえながら深呼吸し、精一杯の笑顔と溢れんばかりの涙と共に口を開いた。


『たとえ異世界に帰っちゃったとしても、絶対…絶対忘れないで。お願い、私を忘れないでッ!!あなたに会えて、本当に良かったッ!!』


「…うん、絶対忘れないよ!一ノ瀬 凪咲。あなたと話したこと、笑ったこと、全部全部ぜーんぶ忘れないから!絶対…絶対忘れないからぁ!!っというか、お姉ちゃんって言葉入ってないし!」


 号泣していたのでしっかりと言えていたか分からないが、たった一つ確かなことがある。


 最後の私のツッコミに…。


「凪咲…?ねぇ、凪咲…、返事してよ、なぎさぁ!!」


 私のツッコミに、いつものようにふざけて返してくれる凪咲の声と姿がそのあと、どこを探しても見つからなかったこと。時の流れが止まった世界に、本当に私だけが取り残されたと心から確信してしまったこと。

 そのことだけを考え、激しい嗚咽と目から溢れる涙が抑えられない。


『私を忘れないでッ!!』という部分が何度も何度も耳にこだまし、消えることはなかった。


 時間の流れが止まったこの世界に別れを告げる暇もなく、私は異世界へと戻っていったのだった。



 ・・・・・



「あ、あれ…ここは?」


「静紅さん!よかった、よかった…、って、どうしたんですか?」


 目を開けると、そこは海の底にある舞台裏のベッドの上だった。

 激しい胸の痛み、謎の嗚咽、それに[何かを失った虚無感]が私に降りかかってきた。


 枯れるほど寝ながら泣いていた私の涙は、起きた後も止まなかったという。

 なんで泣いているのか、何を失ったのか、何を得たのか。

 それすらも分からず、ただ目から溢れる涙を拭き続けた。


 目を閉じた時に、一度だけ見えたあの、黒髪のショートヘアにセーラー服を着た女の子。あれは一体誰なのだろう…。



今日のあとがきはお休みです!次回もお楽しみに!

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