第121頁 嘘つきの権化
蜜柑と合流した静紅は、もう一人の幼馴染である結芽子の家へ向かう。
結芽子もまた、心に闇を抱えていて……。
「あ、蜜柑ちゃんやっと来てくれたんか~。ささ、入って入って」
蜜柑が西宮家のインターホンを押したら、息を切らした結芽子が出てきた。
彼女の顔を見るのもまた久しぶりである。
茶髪と関西弁が特徴的な女性[西宮 結芽子]は蜜柑の顔を見るや否や家へ連れ込んで扉を閉めた。
「えっと、私は?」
『置き去りじゃん~!』
「笑い事じゃないよ!?二人の会話を聞かないと何も分からないじゃん!」
二人でいるときは自然と声を出してしまうが、今はそんなことどうでもいい。
二人の会話は絶対正解へのヒントになる!それを聞かないなんて許されない失態だ。
私は恐る恐る庭に入っていき、横引きガラスに付けられたカーテンの隙間から家の中を覗いてみた。
声は…ぎりぎり聞こえる。
「そういうことで、蜜柑ちゃんに手伝ってほしんよ」
「結芽子…お前…。そんなこと出来るわけないだろ!今日のお前どうかしてるぞ!」
結芽子の声に、蜜柑は勢いよく立ち上がって手を振りほどいた。その結芽子の表情からはいつもと違う何かを感じる。
「…そうなんかな。でもこれ成功さしたら私は救われるって言われたんや」
救われる…?何から、何をして?
頭の中で様々な疑問と説が飛び交って、次の結芽子の言葉でかき消された。
「やから、私は六花のママを殺さんとあかんねん」
『あ、そういう感じか』
そういう感じって??
『私の時にもあったんだよねー、洗脳っていうか、悪徳宗教みたいなね。これをすればいいよ~って言われて、友達を…ね?』
えぇ、そんな…。いや、でも線と線が繋がった気がしたよ。
つまり、二週目で六花ママが殺されたのは結芽子がしたからってことでしょ。だから、私はそれを阻止すればいいってことだ!
『そんな簡単な物かなぁ、まぁ今はそれについて考えよっか』
そんな話をしている間にも、二人の会話は進んでいく。
「お願い、蜜柑ちゃんの力を貸してほしいねん。蜜柑ちゃんだって、満たされてないんやろ?これをするだけで…これだけで心満たしてくれるって」
「そんな話信じれんのか?絶対?根拠はあるのか?」
「確かに私だって疑ったで!でも私には…」
「これしかないって?そんな物のために人殺すんだなお前は」
目を瞑り、落ち着いた感じで話す蜜柑と、声を荒げれて助けを求める結芽子。人の弱みに漬け込んだ質の悪い手口だが、蜜柑は信じずに結芽子を説得してくれている。
いざとなっては蜜柑も頼りになるなぁ。
家の中に入るなら今だ。確か家の鍵は閉めてなかったはず。
私はドアを開けて西宮家の中に入っていった。
・・・・・
落ち着いた雰囲気の廊下を進み、一際大きな両開き扉が私の前に立ちはだかった。それをゆっくり開けると、蜜柑に抱かれた結芽子の姿が。私が覗いていなかった時に何が起きたのか気になるところだが、三週目に、フレデリカにハグついでに刺されたのでハグには少しトラウマがある。
「お、静紅も入ってきたか。ったくよー、お前入ってくんの遅いんだよ」
「ごめごめ。にしても蜜柑と結芽子がハグしてるって珍しい?のかな」
両手を合わせて軽く謝罪し、にやにやして二人の方を見る。見事なまでに良いアングルだ。百二十点っ!!
「…蜜柑のあほ」
「何言ってこんなになったんだ!?教えろ蜜柑!」
私は蜜柑を指で指して大声を出した。こんなに誰かにデレた結芽子は私は見たことがないんだけど…。
「うーん、俺は純粋な結芽子が好きだーって言っただけなんだが」
「…絶対それだよ。はぁ、あんたも罪作りな女だね…」
「ほへぇ?」
その蜜柑の返答に腹が立ったのは言うまでもない。
私は彼女の頭をこつんと優しく小突いてそっと息をついた。
『これから忙しくなりそうだよ?』
そうなの?もう誰も死なないし、終わったもんだと思ってたんだけど。
『何言ってるの!結芽子ちゃんにくだらない嘘をついたホラ吹きを探して捕まえるんでしょ!』
そこまでするの!?はぁ、先は長そうだね…。
そんなこんなで、今の状態は極めて平和だ。できればこの週で全部終わらせたい。
まずは結芽子にこの話を吹き込んだ悪い人を探して捕まえないといけないらしい。
「ね、結芽子。誰がそんなこと言ったの?もしそれで人が死んじゃうようなことがあったら捕まえないといけないでしょ」
「…隣町におる私の知り合いや。知り合いって言っても顔合わしただけやけどな」
蜜柑から離れた結芽子は、机にもたれるようにしてそう言った。
『うーん、やっぱり似てる。おんなじ手口でやってるもん』
何が??凪咲の時と何か共通点でもあるの?
『私の時は、結芽子ちゃんと同じ嘘をついた人がいて、その人が全部の黒幕みたいな立ち位置にいたの。現実でも異世界でも会ったことのない人物だったから、接し方が分からなくて何度もやり直したよ…。彼女の名前は…[ライアー(嘘つき)]。黒のハット帽を被った杖持ちの人だよ』
「ライアー…」
私は先輩の言葉を忘れないように思わず繰り返してしまった。それは小声だったが、静かだったこの部屋に響いて…。
「静紅ちゃんその人のこと知ってるん!?」
「え、あ、まぁ…」
「ま、よくわかんねーけどさ、よかっ…」
身に起こる全ての出来事は突然起きる。「あれしよう」と思うのも思いつく五分前なんて何も考えてないことが多い。
そして、ソレも突然やってくる。
「え?蜜柑…結芽子…?」
世界が突然静かになり、目の前の二人の動きがピタリと止まった。
庭にいる小鳥も、さっきまで聞こえていた犬の鳴き声までも今は聞こえていない。
「みんな止まってる…なんだこれ」
『私はピンピンしてるよ~』
「あ、凪咲は止まって無いんだね。よかった、」
私だけだと思っていたが私の中にいる凪咲は止まっていないらしい。とは言え、実質今私だけが動けている状態だ。少なくとも、ここら一帯ではそうだろう。
『懐かしいなぁこの感じ。トラウマってこともあるけど、ターニングポイントでもあるから』
「ターニングポイントってどういう…」
私が声を出して凪咲と話していると、前方3m程の所で黒い霧のようなものが出現し、その中から背の高い…人?が出てきた。
黒いハット帽に真っ黒なコートを身にまとい、ファンタジー性溢れる木製の杖を持った薄銀紫色の三つ編みの人物だ。
「ごきげんよう、私は[ライアー]。俗に言う…まぁ、『嘘つきの成れの果て』です」
私と凪咲の前に現れたソレは、自身を成れの果てと名乗った。
【あとがき!】
えっと、今回は私[リーエル・アザリア]があとがき!をお送りします。
最近登場シーンが無かったので嬉しいですね~、総集編から読んでくださってる方は覚えてますか?というか、本編から読んでくださってる方でさえ覚えてくれているか…。
ほら、魔道具を作っている魔法使いの端くれです!
今回の【冴えはず!】も読んでいただきありがとうございます。
私の登場はだいぶ先になるらしいんですが、今日も魔道具を売って生活していきますー。
リュカ姉さんもそろそろ帰ってくるらしいので、静紅さんが王都に戻ってきたら挨拶にでも行きましょうかね!
よし、ドジらずに最後まで言えました!それではみなさん、次回もお楽しみに!




