第112頁 再編の末に
場面は移り変わり現実の世界へ戻ってしまった静紅。
静紅が生き残っているということは、代わりに誰かが亡くなっているということで──
「六花のいない世界なんて生きる価値ないよ」
静紅は自分の手でナイフを刺し、自殺をしたのだが…
「ねーねー、ルースリィスちゃんはどう思う?」
昼の花畑では、今日もいつも通り茶会が開かれている。
今日の出席者はキュリオスとルースリィス。二人は特別仲が良く、事あるごとにコンビで行動する。
仲がいいのは、身長と歳が近い事が関係している。
「どうって?」
フードのウサ耳がぴょこぴょこ動き、その中からはオレンジ髪の少女がもう一人を見ている。
薄水色髪の少女はそれに微笑み混じりで反応し、聞き返す。
「静紅ちゃんのことだよ。精神もつかな?死んじゃうんじゃない?」
「ふふ、キュリオスさんも冗談を言うのですね。死んでも戻るので死にませんよ」
両手指を交差させ、そこに顎を乗せるようにして席に座っているルースリィス。
「あはは、それは確かにそうだね!って、そうじゃなくて、精神的に病むんじゃないかって話だよ」
「あぁ、それについては安心してください。その時用にフレデリカを置いたんじゃないですか」
「それにしても思い切った設定だよねー!六花ちゃんは死んでいて、フレデリカちゃんと結婚してるって」
「ふふ、脚本はお姉様が書いたんですよ。さすがですよね、憧れます」
ルースリィスがペルソナリテをお姉様と慕うのはしっかりと理由がある。それは、ただ単に視線が鋭く、口調が厳しめでいつも罵ってくれるからだ。
キュリオスは紅茶を飲みこんで、お菓子を食べる。
「楽しみだね。頼れる家族はフレデリカちゃんだけ。結婚してるという設定によって徐々に好きになっていくのか、それとも一人を想って最後まで六花ちゃんを追いかけるのか」
「ふふ、そうですね。まぁ、気長に待ちましょうか。焦らなくても大丈夫。いずれ結果は出ますよ」
・・・・・
「なんで、なんでだ?」
私は頭を押さえて考え込む。
朝食は何とか食べたが、それ以降は急な頭痛で部屋で安静にするようにとフレデリカに言われた。
父と母は朝から義姉の結婚式があることをいいことに二泊三日の夫婦旅行をしに行くと、つい先ほど出かけていた。我ながら健康的な親だ。
「私さっき…死んで…」
そのことを思い出すだけで吐き気がしてくる。
「う、おえええぇ」
私は隣に置いていたポリ袋に盛大に吐いた。
笑いたいときに笑う。泣きたいときに泣く。吐きたいときに吐く。それが私の生き様だ!などと言っている余裕もなく、胃から溢れ出てくる胃液に喉を焼かれるのに耐えながら収まるのを待つしかなかった。
「さっき流れてきた放送…、今朝見たはずなのに…しかも朝だし」
死んでなかったにせよ、全く同じ内容の放送、太陽の位置が戻っている。
私は化粧用鏡に映る自分の顔を見て溜め息を漏らした。
「…酷い顔。汗も涙も、目のクマも」
生きた心地がしない。まるで死人だ。いや、実際死んだから…。
「うぅ、やばい、吐く」
再び私は、ポリ袋を自分の口に押し当てる。
そうしていると、フレデリカが部屋の扉をノックした。
「入って」と、それだけ伝えると母親のような優しい表情でフレデリカが部屋に入って来た。
「お師匠様、どうかされましたか?そんな見つめて」
「え、いや、何でもないよ。ただほら、可愛いなって」
我ながら下手な嘘だ。こんなことを言っても、顔が笑ってないじゃないか。こんなんじゃフレデリカに心配かけるだけだ。
「…何かあったんですか?」
「実はね。私ついさっき死んだんだよ」
信じてもらえるわけがない。ただ、1パーセントの確率にかけて私は彼女にこう伝えた。
・・・・・
「そうですか、辛かったですね。悲しかったでしょう?泣きたいときには泣いた方がいいですよ」
「うぐ、、うぅ…うぁ、」
「よしよし、大丈夫ですよ。絶対よくなりますから。なんたって、このフレデリカがついてるんですから!」
気が付くと私は、フレデリカの腕の中にいた。彼女に抱きしめられることによって頭の中の靄がどこかへ消える気がした。
「ありがと、フレデリカ」
「へへ、妻ですので!」
そうか、そういえばフレデリカって私と結婚してるんだったよね。
「…私どうすればいいかな?」
自分でも何を言っているのか分からない。
フレデリカから見れば勝手に死んだと言われて、どうすればいいか、と言われているのだ。
気の利いた返答なんか望まない。ただ、優しく包んでくれればいい。
「お師匠様のしたいことに私はついていきますよ。どんな時でも」
なんだよこの子。どうしてこんなに優しいんだよ。
「なんでそんなに優しいの…?」
「妻ですからねぇ、私が誰かの役に立てるのはこのように慰めたりすることしかできませんから」
「…ほんと、ありがとね」
・・・・・
「リウムさん、凄いうなされてますが静紅さんは大丈夫なんですか?」
[記憶の欠片]を使った途端、静紅とフレデリカの意識は無くなり、その場にパタンと倒れてしまった。
幸い、舞台裏には緊急用のベッドがあり、そこに寝かせている。
フレデリカは特に寝ているだけだが、静紅はどうも汗と唸りが止まらない。
普通は水中では、汗も何も無いのだが、静紅に付与された水中呼吸の加護の影響なのだろう。
「記憶を取り戻すのは結構大変なことなんだよ。それに、二人共が心を折らずに結末まで辿り着くことが出来ないと帰って来れないよ」
「そんな…」
六花は自分の手をキツく握りしめ、何も出来ないことを辛いと感じた。
イナベラの冷たい言葉と裏腹に、リウムは必死に何かを念じている。
「何してるんだ?」
「蜜柑ちゃん、見て分からんのん?どんな儀式も魔法使う方も大変なんや。それを今してくれてるってこと」
「…リウムさん、ボクにも出来ることはありますか?」
静紅は頑張っているのに自分は何もしていない。ただ見ているだけなら自分ができることを探してそれを全力でやるまでだ。
『カガミ…じゃない、リッカさん。あなたには出来な…!?』
「ボクは…悔しいんです。静紅さんは苦しんでいるのに何もしてあげられない自分が嫌なんです!」
リウムに大きく近づき、しっかりと彼女の目を見て話す六花の瞳は、自然と思いがこもっていたのか黄色に輝いていた。
『リッカさん、その目は…』
何かを伝えようとしたが、一瞬イナベラを見ると、話す気が失せたのか首を横に振った。
リウムは前にもこの瞳を見たことがある。8年前、イナベラと話しているところを偶然通りかかって目に入ったが、その少女と全く同じ目をした人と会うとは本人も思ってもみなかったのだろう。
『分かりました。あなたの魔力を記憶の欠片に集めてください。この儀式はかなり危険です。何らかの原因で中断してしまうと二人の意識は取り残されてしまいます。せめて、ハッピーエンドまでは集め続けてください』
「って!そんな危険な儀式なのかよ!そうなら早く言えよな…、おい結芽子。俺達も手伝うぞ!」
そう言って蜜柑は袖を捲り、腕を力ませる。それに結芽子も続き、「よーし!」と意気込んだ。
「私も手伝おっか」
「お願いしますっ!!」
こうして、リウム、六花、蜜柑、結芽子、イナベラの五人が儀式を維持するために自らの魔力を使用する危険で過酷な運動が始まったのだ。
・・・・・
「くっ…はぁ!と、というか俺、魔力持ってたんだな」
バイトから帰ってきた途端、自分には魔力がないと言った静紅を馬鹿にした手前、自分には魔力があるのか測るのが怖かったが、どうやら蜜柑には少量だが魔力があるらしい。
「待って、私もう出来ひんで。干からびてまうわ」
大きく息を切らし、その場に倒れこんだ蜜柑と結芽子は完全にギブアップのようだ。
「リッカ、それ以上頑張ったら後遺症が残るよ。人間はもう休憩した方がいいと思う」
「いいえ!ボクは決して諦めません。それが短所でもあり長所なんです」
「ふぅん。そっか、そんなに大切?シズクのこと」
「言わずもがなです」
「人はいつか死ぬのに?変なの」
イナベラはそう言って正面の巨大な球に目を向けた。
皆さん、こんにちは!秋風 紅葉です!
最近は花粉が辛いですね!しっかり手を洗ってうがいもしましょー!
さて、次回から静紅は立ち直り、どんどん行動を起こしていきます。
幼馴染でずっと想ってきた六花。妻でずっと想ってくれているフレデリカ。
2人の花嫁が静紅の中で喝采を起こして──
よーし!頑張って書きますよ!期待しててください!
学校が5月末まで延期になってしまったので、まだまだストーリーは進行します。
次の章、その次もだいたいビジョンはたってるのでか、スムーズに進めれたらいいなぁと思ってます。
実際、この章の内容は1ヶ月前に考えた物とは全く違う感じになってるので……うん。
楽しみにしてるよー、頑張ってー、という心優しい神様はもちろん。気軽にブックマーク、評価、感想待ってます!




