第106頁 蒼水の海姫、覚醒
試合開始前にイナベラの過去を知った静紅。
それぞれ別の廊下を進み、とうとう戦い開始のゴングが鳴る…!
「まあこんな感じかな。でも、人魚になってもサユリとナギサは優しくしてくれたよ」
「難しいことはよくわからないけど、いろんなことがつながった気がするよ」
イナベラは過去にこの国の王、紗友里と会っていて、紗友里は誰かと行動していたらしい。
イチノセナギサ。何度聞いても日本人の名前にしか聞こえないその名前。漢字にしたら[一ノ瀬 凪咲]かな?
何がどうあれ、紗友里がたまに話す一緒に転移した人物に間違いはないだろう。
人魚の薬をイナベラに渡した怪しい人間、あれはルースリィスなのではないだろうか。話し方もそうだが、種族そのものを変えてしまうような薬を生み出せるのは彼女しか…。
「さ、もうすぐ始まるよ。一応手加減はするけどいいよね?」
隣に座っていたイナベラが立ち上がり、私に手を差し伸べる。
彼女の手を取って立ち上がり、私も言葉を返した。
「あはは、そうしてくれると助かるかな」
正直、龍に与えたあの一撃でさえ彼女は本気を出していないように見えた。相手が六花だったからこそ全力で来いと言えたものの、さすがにイナベラ相手に大口をたたくと死ぬからな。
私はイナベラと強く握手を交わし、それぞれの廊下を進んでいった。
・・・・・
『さあ来ました!これまでの大会通り、決勝戦が一番盛り上がってますね!何回も説明したので省きましょう!』
省くのかよ!
「ねぇシズク」
10m離れた場所で私の名前を呼んだイナベラは、私が反応したことを確認して言葉をつづけた。
「私はね、シズクと会えて本当に良かったと思っているよ。こんなこと言うのもあれだけど、」
「ん?」
「…いや、何でもない。さて、始めよっか」
イナベラの体から水魔分子溢れだし、辺りに澄んだ空気が満ちる。
水面から差し込む日差しが舞台上に届き、彼女が神秘的に映し出される。
色白の両手から水の泡が飛び出し、それすらも美しく感じてしまう。
「……」
とうとう武闘大会決勝戦。
私VSイナベラの戦いがついに始まる。
・・・・・
『おぉーっと!イナベラが拳に力を込める!対してシズクは避けるのみ!観客側からすれば何も面白くないぞぉ!』
観客側の意見はどうか知らんが、これはマジでやばい!
ゴングが鳴った途端、イナベラはこちらに走ってきて、私はつかさず避けた。
六花戦で編み出した、[身に着けたものをすべて対象にする]という技で、一時的だが超高速を出せることに気が付いた。それでも、能力の使用は体力がいる。常に、何度も、という使用方法は健康に悪い気がする。
髪留めから服、パンツ、靴のすべてを対象にして出せる速度は約…いや、そんなことよりイナベラの攻撃を避けるだけで余裕がなさすぎる!
「どうしたのシズク。まだまだこんなもんじゃないよ」
「っ…!」
彼女のパンチは魔法や能力なんかじゃない。なのに威力が高すぎる。
顔の横をすれすれで拳が通った瞬間はぞっとしたが、間髪入れずに撃ち込まれていく拳を前に、余計なことを考える時間はない。
「イナベラは…どうしてそんなに力があるの?」
必死によけながら、唯一思いついたことを言葉にする。
「…、今は関係ないよ。どうするのシズク?この状況からして君が勝てる気がしないんだけど」
「くっそぉぉぉ!!」
私は全力でイナベラの方へ飛び出し、靴の右足を対象にした後、勢いよく彼女にぶつける。自然に右足が動き、電撃のような衝撃が走ったがそれすらも忘れてしまうほどの窮地だ。
「ぐあぁ…!ちょっと油断しちゃった」
私にけられた箇所…左腕を触りながら口を細めるイナベラ。
肌が薄いことも関係してるのか、攻撃力はバカ高いが防御力は雀の涙ほどらしい。
なら、攻撃を避けつつ隙を見て攻撃の作戦のままでいいな。
「なるほどなるほど。つまり防御力は低いと」
「攻撃されるまでにこっちがやっつけてしまえばいいからね。でも、流石シズク。ここからはちょっと本気を出させてもらうよ」
先ほどよりもイナベラから感じる何かが強くなり、最も大きな変化は容姿が変わったこと。
銀髪は変わりないが、ハイロングヘアになり、周りには赤い小魚が。右手には蒼のブレスレット、髪にはオレンジの髪飾りが付いている。
「な、なにそれ…」
ゆっくりと目を開き、両手から綺麗な光が放出された。
「静紅さん!イナベラさん、何か様子がおかしいです![セイレーン]と表記されてます!」
後ろの方で六花の声が聞こえてきた。
[セイレーン」
上級精霊の一人で、大海の一部を統べる存在。
そんな存在が私の目の前にいるなんて…
『え、セイレーン!?そんな、だって…』
何か言いたげな実況者だが、言葉が詰まってマイクから手が離れた。
会場の声も不安げなものばかりだ。
「ねぇ、知ってる?どこかの小さな子が騙された人魚になった話」
そんなことを言いながらもイナベラは物理攻撃をやめ、近くにいた金魚をこちらに向けて飛ばしている。
遠距離戦なら負けないよ!
金魚を対象にして辺りに集めていく。
3…9
着々と金魚を集めていき、それを一気にイナベラの方に返そうとしたその時。
ぼんっ!
一匹の金魚が中から破裂し、火薬のような匂いが鼻につく。
「静紅ちゃんやばいんちゃうん!?六花ちゃん!」
「…蜜柑さんたちは?」
「まだ帰ってきてない。爆発物なんか危ないやろ!とにかく、もうすぐここはパニックの人であふれかえるはずや。部隊の方まで案内して」
さすがの結芽子。危険な時は頭の回転が速い。
一匹の金魚の爆発から誘発し、私の周りに集めたのが仇となったのか、全ての爆発をもろに喰らってしまった。
「あぐ…、あぁ、」
めまいがして倒れそうになるがぐっと左足に力を込めて踏みとどまる。
「あなた…どうして…」
「もう一度言うよ。君と会えて本当に良かったよシズク」
満身創痍の私に向けて、イナベラは最後の一撃として赤い金魚を飛ばしてくる。
語尾に付けられた愛は、純粋なものではなく、ヤンデレを思わされるような感じだ。
「静紅さぁぁぁぁああん!!!」
これまでの金魚の十倍の爆発物を込めた金魚が近づいてくる中、誰かが私をかばってくれるのを私は見逃さなかった。
「愛するひとを傷つけるのは許しませんッ!」
金魚を手に持った剣で金魚を切り裂き、爆風で髪が揺れる。
深い黒のフード付きのコートを羽織り、その格好に合う黒の剣と光の剣を両手に持ち、私を守ってくれる六花。
目をさらに黄色に輝かせ、背中からは蒼光の翼が飛び出ている。
あれは…
「六花…?」
皆さんこんにちは!
えー、まず、一日だけタイトルを変えてみました!これで伸びたらそのままにして、伸びなかったら元に戻します!
二つ目、六花がまた異変をきたしました。普通の六花から電磁砲を撃つ六花。それから二つの剣を持つ六花です。
まぁ一時的な感じなんですが、ストーリーに結構関係してくる予定です!
イナベラが謎の人物にもらった紫の液体。伏線回収というか、物語で二回目の登場です。
それを飲んだ人物は…。
なにやら雲行きが怪しくなってきた物語、私もどんな感じで進行していくのかとても楽しみです!
それではみなさん、評価、ブックマーク、感想お待ちしてます!
実は私、この三つをもらったらタイピングスピードが格段に上がります。(嘘)
さよーなら!




