総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その7
「それにしてもどうしてインソムニアがこの大会に……? それとこの小さな剣、確かに使い勝手は良いけどどうしてキュリオスは私に渡したのかな」
龍下したルリに乗って、海の方まで飛んできた一行。
静紅は考え込むような仕草をして、ぽつりと呟いた。
「成れの果てはその力と共に思考回路までもが未知数な存在です。私達がまだ知らないナニカのため、糸を張ったのでしょう」
「難しいことは分からんが、まずは料理大会に集中するのだ。成れの果てに関しては大会が終わってからでも遅くないのだ」
フレデリカとルリに背中を叩かれ、静紅は背筋を伸ばす。
「そうだね、まずは海鮮茶碗蒸しの食材……エビから集めよう!」
この海岸に生息するエビは2トントラックよりも大きく気性も荒い。
一行は苦戦しつつもエビを討伐し、その身を集めていく。
気性の荒いエビは長寿であればあるほど身が引き締まり、栄養も豊富になるのだとか。
「やりましたね静紅さん、海鮮茶碗蒸しの最重要食材ゲットです!」
既に卵や豆苗は手に入れている。
先程のエビとの戦闘でついでに魚も手に入れたし、魚のダシも同時にゲットだ。
・・・・・
ある程度の食材を手に入れた一行は、ひとまず身を隠しやすい樹林に入ることにした。
海から一番近い樹林を進む中、突然フレデリカが足を止めた。
「……待ってください、敵が近くにいます。こんなに接近するまで能力で感知できないなんて」
彼女の声に四人は戦闘体制をとる。
六花も能力を解放し、周囲を警戒する。
彼女の能力に感知されたのは、八人の敵だった。
「は、はは……ここに来てチーミングですか」
「ちーみんぐ? ってなんなのだ!」
「敵同士協力して私たちを攻撃しようとしてるってことだよ!」
奥の茂みが揺れて、八人の筋骨隆々な女性たちが姿を現した。
「やァやァ、こんな海近くの林ん中で何してんだい。ここはウチらのナワバリだよ」
どうやら彼女達も身を潜めるため、この樹林の中にナワバリを敷いていたらしい。
「大会の会場で見た。明らかに強そうなオカン達……恐らく優勝候補の人達だよ」
彼女らの装備品は珍しく、名前も聞いたことのないような珍しい金属で作られたナベやらオタマやら料理包丁だった。
「たまたまここを通りかかっただけで、別に何かしようって訳じゃないの。今すぐここから出ていくから……」
「フゥム、ここは一つ取引といこうじゃァないか。あんたたちは持ち物の全てをここに置いていく。そしたら命までは取らないさね」
オカンのリーダーらしき人物があまりにも傲慢な取引を提示したため、静紅は頭にシワを寄せた。
「断ったら?」
「その時はァ、力づくで奪うまで。さァ選びな! 持ち物を全て渡すか、この大会から退場するかさ!!」」
「静紅さん」「お師匠様」「シズ!」
「ああみんな、意見は一致したみたいだね」
静紅は手のひらから聖透剣を浮かせると、オカンのリーダーに敵意を向けた。
「あなた達を倒してこのナワバリを突破する!!」
・・・・・
「その威勢は認めてやるさ、だがねェ。ウチらも本気で勝ちに行かせてもらうよ!」
筋骨隆々の八人のオカンのうち一人が、持っていたゴムベラを地に突き刺した。
「わ、わわッ!?」
オカンはまるで[鍋の具材をかき混ぜるように]地面を唸らせると、静紅たちをあっという間に分断させた。
空中へ投げ出された静紅は、皆の無事を祈りながら目の前の二人のオカンを警戒する。
「ああ、なるほどね。私たちを分断して、自分達は二人で叩くって作戦か」
「卑怯だなんて言わないでおくれ? この大会は強奪共闘不意打ち、何でもありな自由な大会なのさ」
「言わないよ。むしろ感謝したいくらい────」
そう言って静紅は能力を解放する。
土が盛り上がり、木が軋む。
やがて地面にヒビが入り、そこから巨大な岩が飛び出してきた。
「────私の能力は仲間も巻き込むから」
最後にキュリオスから贈られた[聖透剣]を握り締める。
ネックレスのアクセサリー程度の大きさしか無かったクリスタルの剣が、騎士の持つ一般的な直剣のサイズまで大きくなった。
「フン、玩具が大きくなろうと玩具は玩具さね。童顔だからって容赦はしないッ!」
静紅は大きくなった聖透剣を操作して、中距離の攻撃を繰り出すがオカンも中々の手練らしく軽く受け流されてしまう。
「さっさと終わらせて他の加勢に向かう! あんたはさっさと退場しろッ!」
オカンは静紅に向かって二人同時に特攻を仕掛けてきた。
静紅は自ら身につけた服を能力の操作対象にして、緊急回避を行う。
「……さ、せるかああああああああッ!!」
静紅は目を見開いて思い切り右腕を振り上げた。
彼女の腕とリンクして、その刹那。
地面から非常に鋭利な頂点を持つ、土の柱が飛び出した。
「危なっ……くくく、可愛い顔してとんでもないことするねェ」
オカンの顔スレスレに鋭利な土柱が突き出す。
あと数センチ左に寄っていれば倒せたというのに。
「もう戦いは終わりかい?」
「まさか。……力を貸して、聖透剣!!」
武器に秘められた力を解放する技術、[武器解放]。
武器の数だけ武器解放があり、その種類はまさに千差万別だ。
武器解放にはそれだけ沢山の[武器との絆]が必要になるが、何故かこの聖透剣は武器の方から静紅に歩みを寄せてきた。
まるで武器が意志を持っているように。
「武器解放・一割!!」
そう唱えた瞬間、剣から高音の駆動音が響いてきた。
聖透剣は眩く輝き、冷気と共にクリスタルの破片が周囲に飛散し、辺り一面雪景色となる。
「景色が変わったからなんだい! ウチらの力には到底及ばないさ!」
「大口を叩けるのも今のうちだよ!」
周囲に広がったクリスタルの破片が、静紅の背中を押して移動速度を上昇させる。
オカンの懐に潜り込み、渾身の一撃を繰り出す静紅。
しかし。
「この程度の速度、見切れないわけないねェ!」
「この化け物……ッ!」
最高速度でさえ余裕の表情で受け止めたオカンに、どうしたものかと頭を悩ませる静紅だったが。
「おーしーしょーさまーーー!!!!」
「……ああ!? ぶわっはッ!?」
突如、空から降ってきたフレデリカに静紅は押しつぶされる。
「痛いです……」
「下敷きになった私の方が痛いんだが!?」
「チッ……邪魔者か……邪魔さえ入らなければこんな虫、簡単に捻り潰すのに!」
オカンの言葉を聞いたフレデリカは、その尖った耳をぴくんと揺らした。
「この……[虫]? もしかしてそれはお師匠様のことですか?」
「だったらなんだい」
「お師匠様は私の英雄です! それを虫呼ばわりなんて、あなた相当なクズですね! クズクズクズ、くーず!!」
静紅が大好きで依存済のフレデリカは、彼女を貶したオカンに親指を逆さにしてブーイングを飛ばすのであった。
連続投稿418日目!