第79頁 君と昇った螺旋階段
滝裏の洞窟を抜けて、今度は時計台へ向かう!
「滝って久しぶりに来た気がするなぁ」
「急にどないしたん」
私は【湯けむりの滝】から北部へ向かう道中にぽつりと呟いた。
生前の子供の時に親に連れられて行ったことがあるくらいで10年ぶりぐらいだ。
水の滝なら分かるが、全て温泉の滝ってなんかすごい。
「大きな滝はこの国にはここともうひとつしかありません。高山地帯に行けば小さな滝はいくつもあるんですけどね」
「「へぇーー!」」
滝の原理ってどうなってるのかな。常に凄い量の水出てるよね?
まだまだ前世にやり残したことがありそうだけど、考えるだけ虚しくなるので止めておく。
北部は結構栄えているらしく、それこそ物に乗っていけば大問題になる。
徒歩で行くのは時間がかかるが、仕方ないか…。
【クラ=スプリングス北部】
国道・南東道の終着点で、貿易が盛んなので、比較的豊かな土地。
雰囲気はロンドン風で、夜に光る時計台がロンドンのビッグ・ベンっぽいらしい。
服もハットに黒服の人が多く、外国のイメージ。
昼夜の寒暖差もそこまで無く、様々な種族が入り交じる街。
滝という秘境から都会の北部までは、林を進み、数匹の魔物と遭遇して、ようやく到着できるほどだ。
「長いけど…頑張ろっか!」
・・・・・
まずここに来て思ったのは、この世界の文明が意外と発展していたこと。
機械の街だからかもしれないが、電気エネルギーと言う概念はあるらしく、ロウソクやランタンではなく、電球の灯りがよく目立つ。
しかも、時計台は[時系石]では無く、長針短針のある丸時計なのだ。
街並みも街路樹や石レンガ道路、風見鶏のついた屋根など、かなり発展していて驚いた。
「この北部はこの国でも上位3つに入るほど栄えた年です。他の国にはもっと凄い歳もあるようですが」
「正直、王都より文明は100年ぐらい発達してるよね」
王都には電球は無いし、時計も無い。街路樹も少なく、服装も中世っぽい。
少なくとも80年はこちらの方が進んでいるのではないだろうか。
「時計台ってどんなやつなん?」
「ビッグ・ベンだよビッグ・ベン」
3角屋根のついた…時計塔みたいなやつ!
「あーーー、あれな!あれあれ」
「絶対分かってない奴だろ」
私は結芽子にツッコミをいれる。
その時、夢にも見ないことが起きた。
「あははっ、ユメコって面白いですね」
なんと、カルディナが笑ったのだ。
機械の少女が笑ったのだ。心の無いはずの彼女が。
「え、今笑った?笑ったよね!」
「笑うと言うのはよく分かりませんが、少し楽しかったです」
「楽しいと笑いの感情が増えたってことなんかな?急にめっちゃ増えたな、よかったやん!」
何日、何週間1人でさ迷っていたかは知らないが、この1時間でいくつも感情が増えていっている気がする。初めて会った時より、確実に感情豊かな機械…いや、人間になっているはずだ。
「懐かしみ、嬉しみ、楽しみ、笑い…。人間の感情ってこんなに沢山あったんですね」
カルディナは喜んだ。自分の中に感情が増えていっていることに。
だいたい分かってきた。カルディナは、感情があるけどそれをどう表したらいいのか分からないだけだ。
だったら、私が上手に導いてあげないと。
「おい!そこで何している!」
時計台の前で立ち止まっていた私たちに声をかけたのは、黒い縦長アフロ…みたいな帽子を被った兵隊さんだ。
槍をこちらに向けていることから、私達を不審者扱いしていることがわかる。
「あ、すみません。時計台の中に入りたいんですけど」
「この中に…?何の用だ」
槍を下ろして、警戒を解いた兵隊は頭にハテナを浮かべ、首を傾げる。
それにカルディナは堂々と答えた。
「探しものです。命より大切な」
「命より大切な?それは何だ」
「…ココロです」
「お前にはココロが無いのか?さっきまで笑っていたじゃないか」
「確かに、感情が増えていっていることに嬉しさを感じてます。でも、所詮機械は機械。ココロがあれば完璧な感情を持った人間になれるんです」
「そうか、よく分からんが、この中にはココロはないと思うぞ」
「それでも入れてや!お願いします!」
結芽子が大きな声で頭を下げた。
その様子を見て、通行人たちはざわめき、兵隊さんに視線が行く。
何も知らない人から見れば、兵隊に頭を下げる一般人なので、ただ事ではないな。
まずいと思ったのか、兵隊は顎を触りながら、
「この時計台は、自由解放している訳じゃない。その事をよく考えて行動してくれ」
そう言って向こうの方に歩いていってしまった。
怖そうな人だったけど、優しくてよかった。
「さ、早く入ろっか」
私は2人の背中を押して、引き戸の時計台の扉を引いた。
・・・・・
「なっっが!!なんやねんこれ!」
「ちょっ、カルディナ…待って…死ぬ!」
ちょーーー長い階段が、まだ頭上にいくつも残っている。
螺旋階段になっている時計台の内部。
それは、機械のカルディナなら楽勝だが、運動音痴の私と結芽子には試練のソレでしかなかった。
「早くしてください。博士なんてすぐ登れてましたよ」
「まじか!!モニカ何者なんだ…」
「私がおんぶしてましたからね」
「「そりゃそーでしょうね!!」」
カルディナのモニカコンプレックスにもそろそろ笑えてくるわ!
そのモニカも今は居ないんだけど。
「博士との思い出…」
・・・・・
「博士、また走ってたら発作が起きてしまいますよ」
カルディナの微笑み混じりの心配を置いて、どんどんモニカは階段を駆け登っていく。
「やっほーーい!あははっ!カルディナ、楽しいね!」
「博士が楽しいなら、私も楽しいんですね」
楽しいがよく分からないカルディナは、とりあえずモニカに合わせる。
「そうだよカルディナ!私達はいつも同じことをして、同じように楽しみたいからね」
「に、人間とはよく分からない生き物ですね」
「照れてる〜可愛いなー」
「ほら、早く登りますよ。夜景を見るためにここに来たんですから」
突然モニカが言い出した、夜景を見に行こうと言う言葉に断れず、外に連れ出してしまった。
モニカは無邪気にどんどん登っていく。
「発作が起きないといいんですが…」
「うん?何か言った?」
「いえ、何もありませんよ博士」
モニカを不安にさせる訳には行かないカルディナは内緒にして階段の手すりを掴んだ。
「着いたーー!」
カルディナの背中の上で、モニカが叫んだ。
階段の途中でバテてしまい、行動不能になったモニカをカルディナが運んできたのだ。
2人の視界に映ったのは、綺麗な夜景。
一軒一軒の電気が星々のように眩く輝き、高い時計台に届いている。
「綺麗な夜景なんですか?」
「そ。これが綺麗って言うんだよ」
カルディナには綺麗が分からない。人に向かって綺麗ということもあるし、景色に言うこともある。様々な使い方をする言葉はカルディナは苦手だ。
「博士、幸せですか」
「うん!幸せだよ!」
カルディナが最近覚えた感情、幸せ。
それは、人間の感じる最高の感情とモニカが教えてくれた。
モニカは今幸せだ。それだけでカルディナも幸せになる。
「そうですか」
「つれないねぇ。もっと明るくしてもいいんだよ?」
「いえ、機械に明るいなんて概念はありません」
「機械が概念語ったらダメだよ〜」
こんな私でも、誰かを幸せに出来るんだ。そう思ったカルディナだった。
・・・・・
「カルディナ…カルディナ?カルディナ!」
「あ、すみません。考え事をしてました」
機械も考え事ってするんだ…。ストレージ処理みたいな感じかな。
「ほら、着いたよ!」
「やっと着いたわーー!!もー、私動かれへんからな」
「お疲れ様です」
時計台から見下ろす景色は、この世界の物とは思えないほど美しかった。
「これは、綺麗ですか?」
「なんで疑問形…、うん!これは綺麗だよ!」
「宝物…ありそう?」
「博士との記憶は思い出しましたよ」
カルディナは置いてあった椅子に座って、昼の景色を見ている。
「そっか」
カルディナの声に、私はそっと呟いた。
こんばんは!秋風 紅葉です!
昨日1日1話って言いましたが、やっぱり止めます!自分勝手ですみませんっ!
少し (半日) 休んだらまたアイディアが湧いてきましたので、問題なさそうです!
【冴えはず】は、最低一話、最高は気まぐれって感じです!
今日はあと一話できるかな……いや、投稿します!!
今めっちゃいい所なんです!私も早くストーリーを知りたいですー!
さて、だんだん分かってきたモニカとカルディナの過去。
細かいところを言うと、モニカと過した時に学んだ感情は、今のカルディナにはありません。
例えば、回想シーンで[綺麗]を学んだはずなのに、
現在シーンでは静紅に聞いてますよね。
記憶が消えるほど衝撃的な事があったのでしょうか……。
それもこれも、次回、次の次ぐらいにわかると思います!
第7章もそろそろ終盤!
次回もよろしくお願いします!




