総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その6
フレデリカを引き戻し、一度地上へと退避した一行はインソムニアの動向を観察するしか無かった。
彼女は化け兎の肩から飛び降りると、ふわふわと浮遊しながらゆっくり地上に降りてきた。
「影は夜の方が濃くなります、それに個人的に夜は好きです。特に深夜は」
「ふんっ、満月の日に勝負を挑もうなんてよっぽどの恐れ知らずにゃんね」
猫獣人の王、マカリナの能力は[月光美人]。
月が満月であればあるほど、彼女の力は倍増し、運良く今宵は満月だ。
マカリナは拳を引くと、自身に電撃を纏わせた。
毛並みが白くなり、彼女の異名[月光の白虎]が相応しい容姿に変化する。
「形が変われど個体は同じ、見た目が変われど性質は同じ。影は影でありながら、姿形を変えてしまう、諸行無常というやつです……さあ、そろそろ始めましょうか」
インソムニアは自分の影から人間を丸呑みできるほどの大蛇を生み出し、マカリナの方へ突進させた。
「自分の影を動物にして攻撃させる……なかなか面白い能力にゃね!」
獲物を狩る虎のように蛇の頭を踏みつけるマカリナは、脚を止めることなくインソムニアに殴りかかる、が。
「亀の……甲羅!?」
今度は影を亀の甲羅に変化させて、彼女の攻撃を防いだインソムニア。
「あはははは! やはり、やはり戦いはこうでなくては!! さあどんどん来なさい、不死身の私に死を実感させてください!」
インソムニアは自分の影を全身に纏うと、影で作られた西洋騎士の鎧を装備した。
パジャマ姿とは違いちゃんとした戦闘服を身につけた彼女の目は、狂人のソレだった。
「にゃっはは! なら私も全力でいかせてもらうにゃ!」
彼女が纏う電撃が、ギアチェンジをすることで青く変色する。
インソムニアとマカリナの気圧だけで吹き飛ばされそうになる一行は、ただ爆風に脚を掬われないように耐えることしかできなかった。
「おいシズ! ここにいたら戦いに巻き込まれてしまうぞ! 戦闘はあの猫に任せて、我らは一度逃げるのだ!」
半龍族のルリは、自身の体を大きな龍にすると静紅達を背中に乗せて飛び立った。
「ほらあなた達も、早く乗って!」
静紅はマカリナと同じチームにいた3人の猫獣人をルリの背中に乗せて、戦いの衝撃が届かない遠くの森まで逃げた。
「あ、あのシズク様。我らのマカリナ様があなたに希望を託したということで……悔しいですがコレを」
猫獣人の一人から渡されたのは一つの袋だった。
「これはコショウを磨り潰して粉にしたものです。マカリナ様がいない我らはチームとしての役割を成しません。我々は先に辞退して、会場でマカリナ様の有志を見守ることにします」
「でも……いいの?」
「接点のない名も知らぬチームより、今後も関係が続くであろうシズク様に託した方が良いのです」
「そっか、わかった。あなた達の分まで絶対優勝してみせるよ!」
静紅は猫獣人たちと別れ、別々の方向に歩き始めた。
「インソムニアはマカリナに任せるとして、私たちは本格的に料理の材料を集め始めないといけない」
「料理かあ……」
静紅と六花は日本出身だ、このアドバンテージはありがたい。
これを利用しない手は無いだろう。
「和食……そうだなあ、茶碗蒸しとかどうかな」
「良いかもしれませんね! 調理に手間がかかりますが、食材の入手難度は低いでしょうし」
目指すは海鮮茶碗蒸し。
海鮮といえば海老が欲しい一行は、海を目指して移動するのであった。
連続投稿417日目です!