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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その5


 

 突如森の中に現れた見上げるほど巨大な二足歩行の化け兎。


 一度の攻撃は防ぐことが出来たが、二度目三度目となると話は変わってくる。


「今すぐここから逃げましょう、わざわざ危険に向かっていく必要もありません!」


 一行は急いで退避しようとするが、フレデリカだけが足を動かさなかった。


「この大会は[死んでも死なない特殊な空間]で行われています。しかし死ぬ時の恐怖は残ったままです。あんな化け物に殺される恐怖を、他の参加者に味合わせるわけにはいきません!」


 人間に殺されるか、化け物に殺されるかと聞かれれば後者の方が圧倒的に恐ろしいだろう。


「……分かった、私たちでアイツを止めよう。それに倒したら点数が貰えるかもだしね」


 かくして静紅一行とマカリナ一行は一時休戦し、あの巨大な化け兎を討伐せんと武器を握るのであった。



・・・・・


 

 偽りの星空が眩く輝き、流れ星を降らす。


 インソムニアは一度決めたことはどんなことがあっても諦めない性格で、それを完遂するためなら命だって差し出すほどだ。


 彼女は死ねないのであくまで比喩的な表現だが。


「今宵の星空はいつにも増して美しい……あなたもそう思いませんか」


 彼女は巨大な化け兎の肩の上に乗って、地上を傍観していた。


「さあ、行きましょう。[深い深い夢の底へ]」


 インソムニアは星空をその瞳いっぱいに詰め込むと、口元を緩ませた。



・・・・・



「あの化け兎の方から[成れの果て]の反応があります! 先程ボクたちと邂逅したキュリオスさんとはまた別の反応です」


「影を操る力……これまた面倒くさい力だね」


 六花と静紅がどうしたものかと唸る中、フレデリカは高く飛び上がって大剣を振った。


「とにかく動きを封じましょう! 私は右腕の破壊を狙います!」


 巨大な化け兎の腕を駆け上がり、フレデリカは肩まで到達する。


 肩から腕を切り落とそうという計画のはずだったが、そこには思いがけないものがあった。


「あなたは……!」


 そこには頭から山羊の角を生やしたパジャマ姿の女性が座っていた。


 不眠症の成れの果てインソムニアだ。


 ニアはこちらに気が付くと、フレデリカを軽蔑するように睨み付ける。


「誰かと思えば[邪魔者]のフレデリカさんではありませんか。シズクさんとリッカさんの仲を引き裂き、挙句の果てには身体の関係を持った邪魔者……ですよね?」


「初対面のくせに失礼な方ですね」


 自分が邪魔者だなんてこと、フレデリカ自身が一番よく知っている。


 ニアの鋭い言葉が、フレデリカの胸に突き刺さる。


「あなたはシズクさんをあれほど愛しているのに、あの人は振り向いてくれません。ああ哀れ……仕方ありませんね、だってシズクさんはリッカさんを心の底から愛しているのですから」


「……」

 

「あなたに構う暇なんて無いんです」


「言わせておけば……ッ! お師匠様のことを知ったような口で語るなァァァ!!」


 フレデリカは一歩足場を蹴って彼女に斬り掛かるが、[影の亀の甲羅]で防がれた。


「知ったような? いえいえ、知っているのです。シズクさんの身長、体重、スリーサイズ、好きな物から嫌いな物まで全て」


 彼女の一言一言がフレデリカの胸を締め付ける。


 自分以上に好きな人を知っているという悔しさで涙を流してしまいそうだ。


「あの日、あなたがシズクさんと出会わなければ[この感情]に苛まれることも無かった……恋の始まりは運命の出会いとは言いますが、果たして本当にそうでしょうか?」


─────私が出会わなければ、こうしてリッカさんを恨むこともなかったと言うのにッ!


 料理大会の直前、フレデリカが静紅に向けて言った言葉。


 フレデリカだってそれくらい理解しているのだ。


「先程も言いましたが私はシズクさんのありとあらゆる情報を所有しています。私とあなたが手を結べばあなたを理想の女性に仕立てあげてみせましょう」


「そう、ですね……あなたと行けば……」


 虚ろな目をしたフレデリカは、インソムニアの伸ばした手を掴もうと──────。


「フレデリカッ!!」


「……はっ!?」


 背中から翼を生やしたルリに抱えられて上空までやってきた静紅に名前を呼ばれ、フレデリカは正気を取り戻す。


「私の弟子がお世話になったみたいじゃん」


「チッ……もう少しで[影に引き込めた]のに。本当にあなたは私の邪魔ばかりしてきますね」


「フレデリカのことだから私を使って陥れようとしたんでしょ、でも無駄だったみたい」


「……ふむ、いいでしょう。この私を不機嫌にしたご褒美に夢の底へ叩き落としてあげます」


 インソムニアがパチンと指を鳴らすと、化け兎は拳を森に叩き付けた。


 その一撃で森の木々が吹き飛んで何も無い更地が生まれる。


「さあ、悪夢の始まりです」


 インソムニアの歪んだ笑みが、静紅の余裕を蝕んだ。


連続投稿415日目です!

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