第65-1頁 大型世界調整室
工業と温泉の街、クラ=スプリングスへ出発した静紅達。
竜車に揺られる中、静紅は強い眠気に包まれて……
2時間前に王都を出発した私達。
今では朝の清々しい空気はどこかへ消え、春の陽気が草原に広がっている。
太陽は地平線を抜け出し、魔物もちらほら見れるようになってきた。
魔物と言っても、大体は竜車の速さについてこれないので特に害はないらしい。
「暇…ですね」
「そうだな」
隣に座っているフレデリカと蜜柑が言葉を交わした気がした。
本当に話したかもしれないが、私も暇すぎて聞いてなかった。
常にあるのは竜の足音と竜車の車輪が石を蹴飛ばす音のみ。
景色も特に変わらず、青い空、白い雲、緑の草原という3色しか窓の外を覗いても見えない。
「ここで魔物とか出てきませんかね」
「六花、そう言うのはフラグに…」
ぴぃいい!
六花のフラグが発動したのか、外に笛のような高い音が響く。
「ナーシャ、さっきの鳴き声って何?」
「鳴き声からして、鳥類だと思う。この辺りの鳥類なら、サイワシかな」
「サイワシかぁ…」
聞いた事の無い名前が出てきて少し戸惑いながらも、「ありがと」とだけ伝えて車内に戻る。
「ね、サイワシって何?」
「えーっと、サイワシと言うのは大きな棘が生えたワシですね」
ワシってこの世界にいるんだ?
そんな疑問を差し置いて、笛のような鳴き声はどんどん増えていく。
ぴぃ!ぴぃー!ぴぃぃぃ!
「多くない!?大丈夫?」
何も無いのも精神的にきついが、魔物に遭遇するのは体力的にしんどい。
「えーっと、4体いますね。どうしますか?討伐しますか?」
眼を黄色に輝かせながら六花が言った。
4体か…、それならまだ行けそう。
「よし、それじゃ私が出るよ」
「まじか!だ、大丈夫なのか?」
「危ないって、中おった方がええんちゃう?」
「大丈夫大丈夫!出るのはこの子達だよ!」
そう言って、竜車から飛びたしていったのは魔法人形達だ。
ぴぃいい!
それが無言の人形が、彼らを切り刻む前に放った最後の一言だった。
・・・・・
サイワシは特に売れるということも無く、そのまま地面に墜落させた後、放置することにした。
この草原には食物連鎖が起きている。ということは、生態系が出来ていて、あのサイワシは誰かに食べられて、その食べた誰かも誰かに食べられる…と続いていくのだろう。
「あーあ、汚れちゃったよ」
綺麗な布で人形の盾と槍についたサイワシの血を拭き取り、カバンの中にそっと入れた。
ふわあ、なんか眠いわ。
そう、この時私は知らなかったが、サイワシの血には睡眠作用がある。
これは、サイワシを食べた肉食魔物を怨念というか、「タダで終わらせないぞ!」という思いから、世代を重ねて血に睡眠作用が含まれるようになったらしい。
「あ…あれ…なん、か凄い眠…い」
その一言を言う前に、私は竜車の中で寝てしまうことになる。
そりゃそうだ。魔物を眠らせてしまうほどの睡眠薬を触ったようなもんだしな。
ここは身に任せてゆっくり寝よっと。
「静紅ちゃん、静紅ちゃん?あれ、寝てる」
結芽子が体を揺さぶっても、私は起きなかった。
少し休憩してから、また起きたらいっか…。なんて考えながら、暗い眠りに落ちていった──
・・・・・
温かい…いや、暖かいのか?
さっきの気温よりももっと暖かい気がする。
なんと言うか、暑くもなく寒くもなくって感じ。
私はそっと目を開ける。
どこ…ここ。
瞼を上にやると、目に飛び込んできたのは色鮮やかな花園と雲ひとつない晴天だった。
そこから少し歩いていくと、空の下に建てられた小さな休憩スペースのようなところに、白いテーブルと赤茶の紅茶がある。
なんだろここ。夢にしてはリアルすぎる…
そっと辺りを見渡すと、ひとつの声に呼ばれた。
「何してるの」
「……!?」
「何してるのって言ってるの」
私はその声の主を探そうと、振り返った。
そこには、桃色髪のロングヘアの女性が立っていた。
「あ…あなたは…!」
そう、この女性は1度あったことがある。トラックに轢かれて死んだあの日、真っ暗な場所で私を異世界へ転移させてくれた人だ。紗友里が探していた…神。
「あ、あなたとは2ヶ月ぶりぐらいね。覚えてるかしら」
「覚えてるも何も…」
「そんなことはどうでもいいわ。ここで何してたの?」
鋭い目付きと口調。優しさという概念は彼女の中にないのだろうか。
「え、えーっと。気がついたらここに居て…」
「そう。誰かが呼んだのね…はぁ、まだ時間はあるみたいだし、ちょっと話しましょう」
そう言って、女性は白い椅子に座る。反対の椅子を指さして、私も座ること命令する。
「…ここはどこ?」
さっきまで竜車の中に居たはずだし、眠くなって寝たのは覚えてる。なのに目覚めたら見知らぬ場所。
私の疑問に、曖昧に女性が答える。
「そうね、世界のコントロールルームとでも言っておくわ」
「コントロールルーム…?世界の…」
いつの間にかタメ口になっていたが、そんなのはお互い気にしない。
「そう、世界の調整よ。生死のタイミング、データの処理、魔物のポップとかね」
「データ…?ポップ?」
「いや、気にしないで。それより、もうすぐクラ=スプリングスに行くみたいね」
「あ、うん。温泉とか久しぶりだから楽しみ」
なんか話しそらされた気がしたけど、まあいいや。
「あそこは工業も発達してるから、すごい場所よ」
「へぇ〜」
「…と、もう時間だわ。記憶は消されるけど、あなたにこれをあげる」
そう言って、女性は手鏡を渡してきた。
「記憶が消されるってどういう…」
「さ、もう少しあなた達で研究させてね。
試験体」
その言葉を最後に、私の視界は真っ暗になり、吐き気と肌寒さが私を襲った。
どういうこと…?試験体って…。
あれ、私何してたっけ。誰かと話してた気か……。
そもそも、誰か居たっけ…。
・・・・・
こんにちは!秋風 紅葉です!
次回から盗賊団基地破壊作戦編ですね!いやぁ楽しみです!未来の私はどんなことを書くのでしょう、それは私にも分かりません(笑)
さて、静紅とペルソナリテの再接触がありましたね。これが今後の物語にどう繋がっていくのでしょうか……。
ブックマーク、感想お待ちしてます!
次回もよろしくお願いします!




