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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その4


「ほっ、よい、てい! まだまだ行くよー!」


 この大会の良いところは、大会中に命を落としたとしても会場に戻されるだけで実際に死なないところだ。


 殺人はやはりこの世界でも重罪で、あの盗賊団でさえ殺生はせず強奪のみを行うことが多いらしい。


 静紅自身も対人戦闘はあまり多くないが、彼女の能力は剣を振り回しているだけで簡単に人を殺せる危険な能力でもある。


 いつも手加減をしながら戦っていた分、全力を出しても咎められないというのは何とも心地の良いものだった。


 もちろん、人を殺すということ自体に喜びを感じる訳では無い。


 あくまで全力を出せるということに喜びを感じているだけだ。


「な、なんだよこいつら……!」


「漁夫の利したらダメというルールはありませんからね、さすがに同情はしますが!」


 フレデリカは彼女の倍以上の重量もある大剣で、怯える男を斬り捨てると息をついた。


「……それより先程から森の生き物たちが騒がしいですね。お師匠様、少しこちらに来てください」


 漁夫の利を成功させて、敵チームを全滅させた一行は集まってフレデリカの言葉を聞いた。


 彼女の能力は人間以外の生き物の心を読むことも出来る。


 曰く「大きな兎、森壊す、こわい、逃げる」と生き物たちが逃げ惑っているらしい。


 そこへ。


「にゃにゃ!? まさかこんなところで再会するとは思わなかったにゃ!」


 猫獣人の王、マカリナがやってきた。


 マカリナ含めた猫獣人チームは静紅たちと同じく森の生き物たちの異変を感じ取ったらしい。


「ああ!? ソイツの手に持ってるもの、あれコショウじゃないのか!?」


 猫獣人の一人が大切そうに握りしめていたものこそ、静紅たちが必死に探していたコショウだった。


「敵に取られたくないにゃら、誰よりも早く取ればいいだけの事にゃ。にゃっはは! 欲しければ取り替えしてみるんだにゃ!」

 

 アホそうな雰囲気を醸し出すマカリナだが、彼女は一国の王であり異名は[月光の白虎]。


 その力は計り知れないだろう。


 静紅たちが四人で戦っても勝てるかどうか……。


「あ、こらルリ!」


 負けん気の強いルリは単身でマカリナの方へ走っていく。


 静紅が急いで彼に手を伸ばしても、その手はもう届かない。


「そこまでです! 今は戦いはやめましょう。状況を見てください、森の生き物たちが怯えている原因、それを突き止めないと──────」


 臨戦態勢のルリとマカリナを静止するフレデリカだったが、その声は巨大な足音によってかき消される。


「な、なにこの足音……まさか!」


 静紅はハッと空を見上げた。


 そしてそこには。


『ぐおおおおおおおおん!!』


 身長で言えば東京タワーくらいあるだろうか。


 影で構成され、両耳を垂らした二足歩行の─────。


「巨大な……」「兎……」


「ば、化け兎なのだああああああ!!」


 狼狽える一行を待つことなく、巨大な化け兎は口が裂けるほど大きく口を開けて体内からエネルギーを集結させる。


「ねえこれヤバくない!? ゴジラ方式で光線とか撃ってくるんじゃないの!?」


「くっ……ここはボクが! 成功する保証はありません、今のうちに逃げてください!」


 六花は両手で指鉄砲の形を作り、標準を巨大な兎の頭部に向ける。


 どうやら電磁砲を放って相殺するようだ。


 しかし異世界に来てまだ間もない頃、六花は電磁砲を撃ったことでその反動により傷ついたことがあった。


 あれから特訓した訳でもない、時間が経ったとはいえ成功する保証もない。


「静紅さん、たまにはボクにもあなたを守らせてください─────」


 六花は振り返ることなくそう言う。


 その言葉のすぐあと、静紅は六花との思い出を回想する─────。



・・・・・



 幼い頃から身体が弱く、体育の成績もあまり良くなかった六花は[大切な人を守るため]に剣道部に入った。


 誰よりも早く練習場へ向かい、誰よりも長く鍛錬する日々。


 元々運動神経が悪いこともあってか、それだけ鍛錬してもなかなか成績は伸びなかった。


「六花さんって変だよね」


「……変、ですか?」


 六花の人生で一番運が悪かった出来事と言えば、クラス……いや学校で最も性格の悪いいじめっ子に目をつけられたことだろう。


 彼女と六花は小学の頃から同じだったが、その頃から自分のことを「ボク」と呼ぶ六花を彼女は軽蔑していた。


「伸びない成果のために頑張って[自分は頑張ってます]アピールとか気持ち悪い、正直言って消えて欲しいくらい」


「……」


 そう言われた六花だが彼女の心の剣は折れることは無かった。


 当時の静紅は学校での[自分の居場所]を見つけておらず、自分が嫌われないためにいじめっ子と友人関係を持っていた。



 ある日の休み時間の事だった。


─────六花、大丈夫かな。


 数日前、六花は片脚の捻挫により病院へ運ばれた。


 しばらくの入院を言い渡された六花は学校を休み、大人しく入院することになっていた。


 そんなことを考えていると、いじめっ子は静紅に言った。


「私六花さん苦手だわ。大して上手くないくせに剣を振って頑張ってますアピール……ほんと、馬鹿みたい」


 嘲笑うように吐き捨てた彼女の言葉に、静紅は立ち上がって激昂した。


「あなたは六花のことを知らないだけ! あの子だって色々悩んでることがあるし、ただ剣を振り回しているわけじゃない。少なくとも人の悪口しか言えない[馬鹿]よりマシ!」


「……なんですって?」


 幼稚園に入る頃から友達だった静紅と六花の間には、確かな信頼関係が生まれていた。


 六花を貶された静紅は言葉の撤回を求める。


「この学校はお父さんのお金で成り立ってるような物なのよ、私がお父さんに言いつければあんたなんて……ッ!」


「殴られようが嗤われようが何だって許してやる、でも友達を馬鹿にすることだけは許さない……ッ!」


 やがて彼女も立ち上がり、教室の中で静紅と彼女は睨み合う。


 時は放課後、彼女ら以外生徒はいない。


「そう言うところが生意気なんだよッ!!」


「くっ……!」


 突然拳を振り上げた彼女に、静紅は咄嗟に顔を腕で覆った。


 ゆっくり目を開けると、教室の床にはポツポツと赤い液体が落ちていた。


「あああ……斬った、斬った……!」

 

 彼女が狂ったように笑い始めたところで、静紅はようやく状況を理解した。


 腕を斬られた。


 それも出血するほど深く。


「小型ナイフ……!? なんでそんなの学校に……!」


 彼女の手にはサバイバルで使うような折りたたみ式の小型ナイフが握られていた。


「もう二度と生意気な口が聞けないように切り刻んでやる!」


「ああああ!!!」


 静紅は迫ってくるいじめっ子を何とか突き飛ばし、尻もちをつかせた。


 倒れた彼女に馬乗りになって、静紅は拳を握る。


「私は……[大切な人]を貶す奴が世界で一番大嫌いだッ!!」


「……お、覚えてなさいよ……停学なんかじゃ済まされないから」


 静紅が大声で言い放つと、いじめっ子は自分だけじゃどうにもならないと悟ったのか捨てゼリフを言って教室の外へ逃げていった。


「早く……行かなきゃ」


 いじめっ子と遊ぶことで六花を避けてしまっていたこと、大変な時に一緒に居てあげられないこと……静紅は六花に伝えたいことが沢山あった。


 静紅は水道で流血だけ止めると、六花が入院している近所の病院まで走っていった。


 

 重く閉ざされた病室の扉が、スパァンと勢いよく開く。


 静紅が病室の様子を見ると、そこには寂しそうにベッドの上で窓の外を眺める六花の姿があった。


 足にはギブスが巻かれている。


 静紅は六花に勢いよく抱きついて、彼女の胸に顔を埋めた。


「ごめんねごめんね……ごめんね……!」


 静紅がこんなに取り乱すことも珍しい、六花は母親のように微笑むと彼女の髪を優しく撫でる。


「どうしたんですか、そんなに慌てて」


「私、六花に酷いことを……あなたがいじめられて苦しんでたのに、私はそれを無視して助けなかった……」


 六花のスカートをシワが着くほど強く握りしめ、静紅は必死に謝った。


「大丈夫ですよ、来てくれてありがとうございます……なんだか二人で話すのも久しぶりでふね」


「そう、だね。でもこれからはずっと六花と一緒に居るよ、あなたと一緒が一番幸せって気付いたから」


「幼い頃、静紅さんはボクに言いましたよね。生き方に男の子も女の子も無いって」


 泣きつく静紅の顔を上げさせて、六花は続けた。


「つまりそれって……女の子のボクが女の子を好きになっても良いってことですよね?」


「……?」


 今までただの友人として……互いに両想いではあったが、まだ関係的には友人として接してきた静紅は、頭の上にハテナを浮かべる。


「それってどういう……」


 窓から差し込む夕陽が、六花の顔をほのかに照らす。


「静紅さん」


 六花は静紅の首に手を回して、ハグをした。


 先程の静紅とは違って、優しくそっと包み込むような、そんなハグだ。


 静紅の首筋にキスをして、耳に囁くように。


「ボクは、女の子のあなたが好きです」


 そう言った。



・・・・・



「六花ァ!!」


 巨大な化け兎から放たれた光線が、六花に迫る。


「ダメですお師匠様! 失敗した場合、あなたまで退場になってしまいます!」


 力の強いフレデリカに手首を掴まれ、静紅はその場から動けない。


 迫り来る光線と電磁砲を相殺させようと六花が準備をしていると。


「……全く、仕方にゃい。一人で何でも抱え込もうとするのはダメにゃ、助けが必要なら頼ればいい──────」


 そう言うとマカリナは右手を大きく引き、バリバリと何かが弾ける音とともに電撃を纏わせた。


 右手には月のように白い獣の毛が生え、瞳孔は獣らしく細くなる。


「────そのための王様にゃ」


 ソレは猫などといった可愛らしいものでは無かった。


 耳を立て、喉を鳴らし、身体中に電撃を纏わせるその姿はまさに[月光の白虎]、虎であった。


 彼女は高く飛び上がり、化け兎の放った光線を右手で斬り裂いた。


「あの光線を……一撃で!?」


「これが……異世界の王……」


 静紅が今まで出会ってきた王といえば、紗友里とクリュエルだ。


 二人とも戦闘向きな能力を持っていなかったので、その強さを知ることは出来なかった。


 しかし今度のマカリナは王の中でも上位に入るほどの武力を持つ王。


 静紅はこの一瞬で悟った。


 彼女に戦いで勝つことは不可能だと。


 それと同時に。


 彼女ならあの化け兎に勝てるとも。


 


連続投稿415日目です!

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