第58-2頁 本日は危険日である
草原にやってきた私達。暇つぶしに魔物を狩ることになったのだけれど…
・・・・・
次のターゲットは、結芽子と六花で討伐してもらう事にしよう。
「六花!」
「はい!」
六花の攻撃手段は電磁砲だ。
大量の聖魔分子と自身の体力を消耗する超強力技の電磁砲は、正直言って大変効率が悪く、今回のステップウルフのような雑魚魔物にわざわざ使っていると、あっという間に電磁砲の反動で怪我を負い、大ピンチになるだろう。
効率的に敵と応戦できるように策を講じた結果、電磁砲以外の魔法の習得をする。という結論に至った。
魔法の習得には、大体のイメージが必要だ。
例えば、火属性魔法・火球ならば、酸素で燃えるエネルギーを手のひらから生み出し、前に飛ばす。というイメージが必要になる。
もっとも、魔法が習得できてもそれが使えるかは本人次第だが。
「火属性魔法・火球!!」
六花にとって、最もたくさん身近で体験した魔法がこの、火球だ。
イメージも先程の例のようにシンプルで直ぐに使いこなすことが出来た。
『こう…なんて言うんですかね。空気中に流れる魔分子の中で、火魔分子だけを深呼吸で肺に集めて、それを手のひらに集める感じです』
と、王都西門から現在地までの道のりでフレデリカに伝授してもらったので威力は低いものの、初めてにしては上出来の火球が群れの一体に当たった。
「そうです六花さん!凄いですよ!」
「ありがとうございます!」
六花を褒めるフレデリカに、感謝をした六花は、火球の撃ち込みを続ける。
一体につき2発で倒せるので、まあまあ効率はいいほうだと思う。
「次、結芽子!」
「はいな!」
合図された結芽子は、収納していた火炎瓶を手の中に出現させて、ステップウルフの群れに投げ込んだ。
子供の時にソフトボールをやっていた結芽子は、この中で最も投てき技術があると言っても良いだろう。
投てき距離20メートルを火炎瓶が移動し、やがて地面に激突して瓶が割れた。
瓶が割れると中身の赤い液体が辺りに飛び散り、魔法っぽく発光して、ボッと音がすると思ったら辺り一面火の海と化した。
「え…えげつねぇ…」
「結芽子さん…」
「私の力ちゃうからな!?この瓶がすごいだけやから!!」
瓶の力を見た蜜柑と六花は微妙に引くが、それを結芽子が必死に引き戻す。
火炎瓶が生み出した炎は、轟々と今も燃え盛っている。
どういう原理かは分からないが、とりあえず凄いということは間違いない。
「静紅さん、辺りに火の魔分子が充満しています。それに普通の火魔分子よりも強力な」
「六花分かるの!?」
六花の目が黄色く光っているを見る辺り、能力を使用しているのが分かるが、今までそんな機能があったのだろうか…。
「はい、ちょっと分かるようになりました。多分能力の熟練度が上がって、機能が追加されたんだと思います!」
その時の六花の目には、赤い粒のようなものが見えていたらしい。
その粒を今まで通り能力で調べると、[火の魔分子]と解析された訳だ。
「魔分子が見れるなんて…すごい事ですよリッカさん!」
「あ、そ、そうです?なら静紅さんはボクのお嫁さんですね」
「どうしてそうなるんですかー!?お師匠様は私の物ですよ」
「何を〜?」
「やりますか…?今でも私の方が戦力が高いと思いますよ?なんたって、騎士ですからね!」
私の事で喧嘩するところまでは特に文句は無いのだが、物理的な喧嘩まで発展してしまうのは困る。
「やめなさいっ!」
魔法人形で2人の頭を叩き、喧嘩を強制終了させる。
本当にこの人形は便利だ。
自分の体で叩くよりも体力を使わなくて済むし、力の加減も自分の思った通りになる。一応武器以外はやわらかいし、痛くはないはずだ。
「六花、フレデリカ。あんまり静紅のことを取り合うんじゃねーよ?喧嘩ばかりしてたら本当に大切な時に力が発揮出来ないぞ!」
「「はーーい」」
しゅんと落ち込んでいた六花とフレデリカだが、1つの振動でそれは消えた。
ぐらぐらぐら…!
「あ、まさか今日って…」
フレデリカが顔を青ざめて言った。
「ま、まさか…じゃあなんで門番は止めなかったの?」
「あの門番は頭が可哀想で有名ですよ」
「なんだってぇーー!?」
あの門番あとで文句言ってやる…。というか、私達の中で誰も考えていなかったことにも問題はあるのだが。
この振動は以前感じたことのある揺れだ。
それは地面から現れ、光沢のある外殻が日光に照らされて光る。
気持ちの悪いほど長細い巨体についた足は、ちょこちょこと動いている。
顎も開閉を繰り返し、その生物の印象は気持ち悪いの一言だ。
そう、本日は危険日。
魔物が凶暴になり、巨大魔物と呼ばれるボス的存在が現れる日。
そして、私達の前に立ちはだかったのは…
かつて私と六花を恐怖させたステップ・センチピーサーだ。
きしゃぁぁぁああ!!!!
巨大ムカデの気持ち悪い咆哮が草原に響き、それと同時にぞわっと鳥肌が立った。




