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第55頁 夜の炎狐


「ねぇリュカ姉、今日はもう暗いし、野宿しようよ…村までまだ遠いよ?」


「そうだね、ここでキャンプをしよう」


「やったー!」


 夕陽は既に沈み、辺りは夜のとばりに包まれた。

 針葉樹の木々に遮られてよく見えないが、今夜は満月だ。

 リュカ姉と呼ばれる女性は、辺りに落ちた薪を集め、


「火属性魔法・火球」


 威力を最小限まで抑えた火球で火をつけた。

 明るいオレンジの灯りが2人の顔を照らす。

 ゆらゆらと揺れる火を見つめていると、どうも心がしんみりする。

 どこか懐かしいような、それでいて激しく胸が熱くなるような。


 松の木が爆ぜる音が辺りに響き、焚き火の煙が星空高く立ち昇る。


 リュカ姉は背中にあるカバンからコップを取り出し、13歳ほどの少女に渡した。

 少女はコップを受け取ると、


「水属性魔法・水線(ウォーターライン)


 そう唱え、コップを冷水で満たした後、口に運んで一気に飲んだ。


 長く歩いて乾いた喉に、冷たい軟水が流れ込む。


「はわあ、美味しい…」


「私にもちょうだい」


 そう言われ、少女はリュカ姉にコップを渡す。

 紅い髪が夜風に吹かれてなびく姿は、容姿端麗と言った所か。

 風の影響で揺れる木々の隙間から差した月光が彼女の薄い肌色を照らす。

 その表情から感じられるのは、姉としての威厳と誇り、使命感だ。


 そんなことも知らず、少女はただ焚き火を見つめる。


「うん、美味しい水だ。ありがとうリーエル」


「うん!リュカ姉!!」


 リーエルと呼ばれた茶髪の少女は、リュカ姉の声に元気良く笑顔で答えた。


 その顔は幼い元気な──



 ・・・・



「…んん…。夢…?何だか懐かしい人に会ったような気が…」


 白いシーツに包まれたベッドで女性は、目覚めた。

 大きなアホ毛にスタイルのいい身体。長い茶髪に翠のネックレスを付けた女性の名前は、[リーエル・アザリア]。

 王都中心部に構える、リーエル魔道具専門店の店主だ。

 昨日は珍しく純金貨1枚が入ったので、高めのお酒を飲んでどうやら眠ってしまったらしい。

 乾いた寝起きの喉を潤すために、コップに魔法で水を入れ、口に運ぶ。



 店主の朝は早い。

 まずは身支度をして、ポストを確認して魔道具の仕入先の状況確認。

 それから店の掃除をある程度して、朝食をとる。

 今日は時間が無いので、パンをそのまま口にくわえた。

 ご飯を食べたら顔を洗って綺麗にする。接客業者たるもの、身のこなしだけはしっかりするのが基本だ。

 軽めの化粧をしてから、靴紐を結んで外に飛び出でる。


「今日は…ボア肉が安い日、あとはキャベシュが安いからそれを買って、あとは…」


 店主と言っても、街の隅にひっそりと建つ店なので贅沢な生活は出来ない。本日の特売品を記憶筆(メモリーペンシル)で覚え、それを確実に購入していく。

 今日の買い出し予算は純銀貨5枚。

 日本円にして、約5000円だ。


 この世界の食品は安く、美味しい。

 無駄な農薬などを使用していないため、費用がかからず、そして美味しいのだ。

 肉屋のおじさんに「いつもの」と頼んで計りで重さを測る。


「お姉さん、100グラムで純金貨1枚ね」


「はい!ありがとうございますっ…あ、」


 おじさんから肉を受け取り、方向転換をしようとした時、何も無いところでつまずいて地面に顔面を直撃してしまった。


 どてんっ!


「お、お姉さん!?大丈夫!?」


「だ、大丈夫…です。コケるのは慣れてますから」


「あ、そ、そう…」


 コケる寸前に[自身硬化魔法]を使用するのは、もう慣れた物だ。

 道に落としてしまったボアをカバンの中にしまい、おじさんに手を振って次の店へ移動。


 王都中心部にある市場は、とりあえずなんでも揃っている。食品から家具まで、本当に何でもだ。

 逆に無いものを探す方が難しいだろう。


「リーエルちゃん、これ持ってって!」


 パン屋のおばさんに声をかけられ、渡されたのは油で揚げたパンの耳だった。

 この世界で、食パンは国民的食べ物で、耳の廃棄量も凄まじい。

 なので、ちょこっと手を加えて油で揚げたパンの耳に砂糖をまぶして美味しく食べようという訳だ。

 もちろん廃棄物にする予定だったのでタダ。なんだかんだでこのパンの耳が、リーエルの生命線でもある。


 パンや肉、野菜や牛乳をカバンに詰め込んで、朝の買い出しは終了だ。


 開店時間は和流の刻…午前9時から。それまでに店に帰って開店準備をしなくてはならない。



 ・・・・・



「ねぇリュカ姉さん…、本当に大丈夫なんですか?さすがのあなたでもあの数は…!」


 時は流れ、少女が17歳の誕生日の時。

 いつものように宿屋が見つからず、辺りは真っ暗だ。

 とりあえず身を休める為に入った洞窟に、魔物の集落があったのだ。


 魔物の集落とは、たくさんの種類の魔物が一つの場所に集まり生活している場所。


 その数…約30匹。


 強いリュカ姉でも、さすがに1人では勝てるはずがあるまい。


 少女は今、有名な魔道具を開発するために独学をしている。

 リュカ姉の助けにはならずとも、それなりの戦力はあるはずだ。あるはずなのだが…、


「大丈夫、リーエルは今から走って逃げなさい。ここから4kmも走れば村に着くだろうから」


「嫌、嫌ですよリュカ姉さん!私はまだあなたに教えてもらうことがたくさん残って…」


 リュカ姉の腕を掴んで強く握るリーエル。

 そんな彼女の頭に、リュカ姉は手を伸ばす。


「よしよし…。いつの間にかこんなに大きくなって…成長したな、リーエル」


「うぁ…いや、行かないでリュカ姉さん」


「気づいたら私に敬語なんか使っちゃってさ。ほら、顔を上げて…」


 リュカ姉に言われた通り、リーエルは顔を上げる。

 そこには、狐の面を側頭部に付けたリュカ姉の姿があった。

 その仮面には思い出がある。


「リュカ姉さん…それは…!」


「うん、リーエルが魔法をかけてくれた狐の面だよ」


 確か2つ前の街で、リュカ姉が無茶をする戦いをしているので、リーエルは[物理衝撃吸収]と[魔法向上]、[魔法衝撃吸収]の3つの魔法をかけた魔法の面だ。


「でも私の魔法じゃ守りきれないですよ…」


「別に死にに行く訳じゃない。この集落を壊しておかないと他の誰かが傷付くだろう?」


「だからって今じゃなくても…ほら、村に行って沢山人を集めて…!」


「…リーエル。君と冒険が出来て楽しかったよ」


 リュカ姉はそれだけリーエルに伝え、洞窟の奥へ行ってしまった。


「爆属性魔法・爆発(エクスプロージョン)!」


「リュカ姉ー!!いや、嫌だよ…!」


 リーエルは、齢17歳にして、大切な人を無くしたのだった。


 リーエルの叫び声をかき消すように爆風と爆音が洞窟から溢れ出し、洞窟の奥は一瞬にして火の海と化した。


 少女は走った。

 冷たい、冷たい雪の積もった針葉樹の森をただひたすら、足がちぎれようとも、手が…指が真っ赤に膨れようとも、

 ただひたすらに、孤独で静かな森を駆けた。



 ・・・・・



「リュカ姉さん…あれから確か生きてたって報告が来て、会ってないですね」


 朝の買い出しを終え、店の掃除も終わった。

 店先には数人の列が出来ており、本日も快調である。


「よし、今日も頑張りますよっ!」


 腕をまくり、頬をぺちんと叩いて気合を入れる。

 咳払いをして、緊張を解く。


「大変お待たせしました!リーエル魔道具専門店、只今から開店ですっ!!」


 その後、空から鳥のフンがリーエルの頭に落ちて、子供のように泣き喚いたのは内緒である…!

こんにちは!秋風 紅葉です!本日2話目の投稿なんですが、あと1話行けるかな…?


「何言ってるんですか!もっと頑張ってください!ほら、お師匠様はあんなに頑張って精神統一をしてますよ?」


フレデリカ、あのね。あれは暖炉の前で昼寝してるだけだよ。


「そんなはずありません!あれは精神統一ですよ!」


『すぅ……ぴぃ、』


イビキかいてるよ?


「ふふ、寝ているお師匠様も素敵ですぅ」


さっき自分で精神統一って言ってなかった!?!?



次回もお楽しみにぃ!!


評価ポイントが65、総合PVが6200に到達しました!

ありがとうございます!


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