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第53頁 突然の訪問者は福音と共に


鉄板壁(アイアンボード)を割ったリーエルを励まして、とりあえず積立金を作ることにした静紅。

とりあえずバイトの時間まで家で待機することになったので、玄関のドアを開く……

 

「ただいま〜」


 私が家に帰ると、何だかリビングの方が騒がしかった。


「リッカさんより私の方が美味しく焼けてます!」


「な、何を〜!?ボクの方が見た目も味もいいですよ!」


 玄関に居ても、クッキーのような甘い匂いが漂って来る。


「蜜柑ちゃん、どっちが美味しい?」


「んー、分かんねぇ!」


 どうやら家族4人がリビングにいるようだ。恐る恐るドアノブに手を伸ばし、ゆっくりドアを開ける…。


「な、何してるの?いい匂いするけど」


 何となくわかっているが、とりあえず質問した。


「あ、お師匠様おかえりなさーい!♡」


 そう言いながら、フレデリカは私に抱きついてきた。

 彼女の怪力と羨ましいほどのソレが私の体に襲いかかる。いててて、


「は、離せー!あなた力強いから抱きしめられると疲れるんだよ!」


「静紅さんおかえりなさい。

 フレデリカさんから聞いてますよ、武器を探しに行ったとかなんとか」


「うん、バイト先にちょっと遊びに行ってきた」


 着ていた上着をハンガーもどきにかけて、みんなの方へ歩いていく。


 バイト先に[遊びに]行ってきた。という表現はどうかと思ったけど、リーエルとも仲良く紅茶を飲んだのであながち間違いではないはずだ。


「ん、お師匠様、知らない女の匂いがします。誰ですか!誰なんですかぁ!あぁん!?」


「夫婦みたいな言い方するな!どんだけ鼻がいいんだよ!」


 鼻がいいと言うか、フレデリカが近すぎる気もするが。

 そりゃ鼻を服に直接付けたら匂いも分かりますよ…。


 とりあえずフレデリカを引き離し、今度はテーブルの方へ目を向ける。

 そこには椅子に座ってクッキーを食べている蜜柑と結芽子、六花の姿があった。

 ティーカップには赤い紅茶、白い皿には山積みにされたクッキー達がある。


「それどうしたの?」


「この世界に来てからクッキーを食べてないなと思ってボクが再現してみました」


 見事なまでのドヤ顔を私に見せ、クッキーを口に運んでいる六花。フレデリカ用のメイド服を着ていて、なんだか新鮮な感じだ。


「へぇ〜、1枚貰うね」


「はい!どうぞ!」


 私は、茶色い焼き目がついた平べったいクッキーに手を伸ばし、口に運んだ。

 その間にも六花はキラキラとした眼差しを向けてくる。


「お?結構美味しいじゃん!これは売れるよ!」


「そ、そうですか…?静紅さんに喜んでもらって…ボク…嬉しいです」


 モジモジしながら顔を赤くする六花を「可愛いなぁ!」と思いながら、サクサクとクッキーを食べていく。


 王都に来てから毎日のように紅茶を飲んでいる気がするが、この世界の紅茶はあっさりしているので実質カロリーゼロだ。

 うん、多分…そう信じたい。


「これどうやって作ったの?小麦粉ってこの世界にあるんだ」


「はい!小麦粉を市場から買ってきてクッキーを作りました」


 市場は何でも売っている商店街マーケット的な場所で、大通りの一つ横の道にある。

 私は通り道に使ったことが1回ほどあるぐらいなので、1度行ってみたい感じはある。


「いやぁ、市場は凄いよな!何でも揃ってるぜ」


「せやなぁ、ボアっちゅう豚肉みたいなんもあるし、私が育ててたマンドラゴラもあったよな、メギドラって植物は気になったわ」


「メギドラ??」


 結芽子の市場の感想に、私は首を傾げる。

 それにキノコタンクッションを抱きしめているフレデリカが答える。


「メギドラはメギドラですね。それ以上でもそれ以下でもありません。メギドラです」


「お、おう?」


 なんの説明にもなってないんだけど…。


 フレデリカ曰く、言葉で表すことは出来ないらしい。


「へえ〜」とおざなりに会話を進めながら、私は暖炉上に取り付けられた時系石を見た。


 今の色は赤色、現在の時刻は茶休の刻である。しかも、オレンジへ色が少しずつ変わって言ってることから、あと1時間ほどで黄昏の刻へ変化してしまうだろう。

 前世の時間だと14時前後だろうか。


 薄赤い時系石を見つめていると……


 ごごごごご…。


「ん?何だこの振動…」


 この振動は六花と私は感じたことがある。

 謎の振動が家のすぐ近くまで来たと思うと、やがて止まった。


「シズクお姉ちゃん!居る〜?」


 聞き覚えのある声を聞いて、「よっこらしょ」と立ち上がり玄関の方まで歩いていき、ドアを開いた。


 そこには、竜車の運転席に乗った金髪の少女が居た。


「ごめんね、上からで。降りるのめんどくさくて」


「いいよいいよ、最近どう?上手くやってる?」


 彼女の名前はナーシャ・サンタローブ。

 以前、私と六花を王都まで竜車で乗せてくれた人物。

 彼女は配達業を生業(なりわい)としていて、この国、ヴァイシュガーデン中を竜車で駆け回っている旅人だ。


「うん!いつもと変わらず上手くやってるよ〜。それでねお姉ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど…」


「ん?出来ることなら何でもするよ」


 彼女には大きな借りがあるため、できる限りの事はしてあげたい。


 ナーシャは少し躊躇ったように口を開いた。


「今から火山地帯の[クラ=スプリングス]って街にリーエルさんから配達を受けたんだけど、国道・南東道に何やら良くない噂があって…」



 火山地帯にある[クラ=スプリングス]という街。

 それは、この国で1番工業が栄えた工業街。

 具体的にどんな街かは知らないが、名前ぐらいは私でも知っている。


 国道・南東道は、キノコタンの森行きの国道・南西道に並ぶ高速道路的役割をしている一本道で、国道・南東道は[クラ=スプリングス]の街行きの道である。


 ナーシャの口からリーエルの名前が出たことに驚きながらも、良くない噂について私は問う。


「噂…?」


「うん、噂。国道沿いに盗賊団の基地が出来たみたいで、同じ竜車を運転した人が襲撃にあってるみたいなんだよ」


「盗賊団…、ってことは、その護衛?」


 正直、雪精達との戦いで、戦闘はもう懲り懲りなんだけど…。


「護衛というか、基地の破壊かな」


「な、なんだってぇ!?」


 護衛なら、盗賊団の基地を突破出来たら成功なのだが、基地の破壊となれば戦いは必須だ。

 しかし、ナーシャの言っていた[リーエルから預かった物]というのは鉄板壁(アイアンボード)のはず。他人事ではないのは明らかだ。


 それに、このまま盗賊団を野放しにしておけば配達網の不調によって、何たらかんたらするかもしれない。


 少し悩んだ後、出した答えは。


「うん、分かった。でも今すぐって訳には行かないんだよね…」


 基地の破壊には協力するが、武器も何も無い現状、今すぐ出発!というわけにも行かない。


「あ、その辺りは大丈夫。あと3日間配達物を募集してるから、それまで時間はあるよ」


「猶予は3日か…。よし、分かった!それじゃ3日後に南東道入口でいい?」


「うん!それじゃよろしくね、お姉ちゃん!」


 10歳の少女にお姉ちゃんと呼ばれることに恥じらいを覚えながらも、ひらひらと手を振って竜車を見送った後、リビングへ戻った。


「よーーしみんな!ちょっと旅行行かない?」


 火山地帯は温泉でも有名だ。盗賊団基地の破壊のお祝いで、自分に温泉旅行にプレゼントしても良いよね!


 長いようで短かった安住の時間は過ぎ去り、私達の物語は新しい(ページ)へ!


 私のわくわくした元気な声が、広いリビングに響き渡った。





こんばんわ! 秋風 紅葉です!


「えーっと、ナーシャ・サンタローブです!」


いやぁ、来ましたね新章!


「ようやく日常系だらだらライフが来てたのに…もう戦闘ですか?」


戦闘じゃなくて銭湯だよ!温泉!


「うっ、寒っ……」


おいこらー!


さて、約3万文字続いた第5章…生活環境安定連盟が終わり、静紅達の旅行記は更なる(ページ)へ!



物語の舞台が変わり、今度は暑い火山地帯!?

工業の街と温泉街で織り成すドタバタ劇や如何に!

____『温泉って、日本っぽくて懐かしいよね』


第6章 工業と温泉の地域、クラ=スプリングス


お楽しみに!!

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