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第50頁 リーエル魔道具専門店

コーヒーをこの世界で作った後、暇になった静紅はこの家の収入元の確保の為、アルバイト先を探し始めた。

目に止まった張り紙に書かれた場所は[リーエル魔道具専門店]。

そこの店主は、とある残念ちゃんで……


「ひゃん! ど、どうしよう、また失敗しちゃいました……」


 王都中心部の西の端側にひっそりと建っているこの喫茶店風建造物が[リーエル魔道具専門店]。


 店内は田舎の喫茶店と言っても誰も気づかない構造で、入口から入って右手にテーブルが二つほど設置されており、そこで紅茶を飲むことも出来るらしい。


 なんと言っても店中に置かれた魔道具達が目に入る。


 不思議な形をした鎧や剣。


 大きな棚の上に置かれた細々した物の全てが魔道具なのだとか。


 そしてこの店のオーナー……店主は先程、自分の失敗のせいで商売チャンスを逃したばかりだ。


 店主は床に泣き崩れてしまった。


「うわぁぁん! どうしていつもいつも失敗ばかりなんですか……私はもっと普通に働きたいのに!」


 ダメだこの店主、ドジっ子だ!


 茶色の大きなアホ毛が付いた髪を揺らしながら店主は立ち上がり、私の方を涙目で見た。


「……こ、こんにちは。リーエル魔道具専門店へ……私はこの店の店主、リーエルと言います」


「よ、よろしくお願いします……」


「先程ご覧になった通り、私は仕事が好きなんですけど失敗ばかりで……」


 リーエルはしょぼんとした顔をしながら、魔法で紅茶を指先から出してティーカップに入れた。


「とりあえず立ち話もなんですし、おかけ下さい」


 大きな窓ガラスの横に置かれたテーブルに、私とリーエルは向き合うように座った。


「さて、この店で働くと言ってましたが、どうしてですか?」


 リーエルは両腕を机の上に置いて、私に問う。


 会社の面接でもある、志望動機というやつだ。


「えっと、収入源の確保をする為に中心部へ来てたんです。そこでこの店の張り紙を見つけて来ました」


「なるほど……」


 そういいながらリーエルは空中にペンを走らせる。


 空中に異世界文字で書かれた文は、やがて青く光って消えた。


「次に、魔法の腕前ですが、あなたからは魔力を感じません。魔道具の店で働くなら多少なりとも魔法は使えるようにしてもらわないと……」


「まじすか……」


 いきなり店で働くのは難しいと言われた私は下を向いて落ち込む。


「ああああ、いえいえ、別に断ってるわけじゃなくて……働き手が居ないのも本当ですし。ここで突き放してしまうといつ次働き手さんが来てくれるかは分かりません。なので、あなたが魔法を使えるようになるまで私に稽古を付けさせてもらえませんか?」


 稽古を付けてもらうのは結構だが、本当に大丈夫なのだろうか。先程の様子を見ていると不安しか浮かばない……。


 少し悩んで出した答えは。


「はい、稽古よろしくお願いします」


異世界で生きる以上、多少は魔法は使えるようになりたい。だって小学生からの憧れだよ!?


「良かった! それではあなたの名前を教えてください」


 バッと立ち上がり私の手をとるリーエル。青い瞳を輝かせ、名前を聞いた。


「私の名前は水鶏口 静紅。静紅って呼んでください!」


「シズクさんですね! よろしくお願いします、シズクさん!」


 リーエルは再びペンを取って空中に文字を書いた。


「あの、さっきから気になってたんですけどそれ、なんですか?」


 空中に文字を書くペンなんて私は見たことがない。


 さらに青く光って[消えてしまう]文字など、存在意義があるのだろうか。そんなのあとから読めないし意味がないに決まってる。


「あっ、これは私の作った記憶筆(メモリーペンシル)です。空中にこの筆を使って文字を書くと、持ち主の頭の中にそのまま記憶されます。例えばですね……今の時間とこの出来事をメモするとします」


 そう言って、リーエルは空中にペンを使って文字を書いた。


「今は黄昏の刻。私とシズクさんは面接をしたっと」


 リーエルに書かれた文字はやがて青く光り先程同様消えてしまった。


「はい、これでさっき書いた文は死ぬまで忘れません!」


「すごい、一生忘れないなんて!」


「でもこの筆にも欠点があるんです」


「欠点?」


「そう、この筆で覚える代わりにほかの記憶がひとつ消えちゃいまーす!」


リーエルは両手を挙げて「ぱっぱらぱーん」と言わんばかりに喜んだ。


「ダメじゃねぇか!!」


 どうしてこんなものを作ったのか検討もつかない。やはりこの子はドジっ子と言うか、よく分からない人だ。


 ほんと、大丈夫なのか??


 魔法を使える期待と少しの不安を心に浮かべながらも、私とリーエルは店の奥へ入って行った。



 ・・・・・



「魔分子の流れを感じてください。風がなくても肌を撫でる魔分子達の感覚を掴むんです」


 リーエルは大きく手を開いて上に向ける。それを真似て私も同じポーズを取っている。


「こ、こう……?」


「目を閉じて、精神を落ち着かせてください。そうすれば魔法が使えない人でも魔分子の流れを掴み、魔法が使えるようになるはずです」


 私は、目を閉じて深呼吸をした。ゆったりとした、花畑にいることをイメージする。


「そうそう……そのままそのまま……。ふぅ」


「ひゃわぁぁ! !なっ……なぁ!? 急に何するの!」


 その時は何をされたのかよく分からなかったが、今思えばとても恥ずかしいことをされていたんだと思う。


 精神統一を図る私を見たリーエルは、そっと近づき、耳に息を吹きかけたらしい。


 耳がとてつもなく弱い……というか、こそばゆい私は顔を赤くしてリーエルをぽかぽか殴る。


「あっ、またやっちゃいましたか?」


「やっちゃったとは?」


「私,人の耳に息を吹きかけてしまう癖があって……その、シズクさんが可愛かったので」


 もじもじするな。可愛いってなんだよ。息を吹きかける癖とかあるんだ。


 たくさんのツッコミを心の中で入れて、一つため息を付いた。


「分かりましたから、静かにしてて!」


 リーエルにそう叱って、私はもう一度精神統一を始めた。


 そよ風を感じてただ一人、草原に立っている自分の姿を思い浮かべる。


 それはそうと、リーエルは一人置いていかれた感じがしてまじまじと私を見ていた。


(それにしてもほんと可愛い顔してる…ふぅ)


 無意識にリーエルは私の方へ進んでいき、息を吹きかけてしまった。


「ひゃぁわぁあ!!」


 私の恥ずかしい声と言うか、叫び声が店中に響いた。



 ・・・・・



 誰かに殴られたリーエルの頭にはたんこぶが一つ。


 その前には瞳を閉じる私が居る。


「お、おぉ? おぉ!」


「そう、そうです。魔分子を感じてください」


 室内にはもちろん風は発生しない。のだが、今の私には風とは違う肌を撫でる感覚がある。


 これが魔分子。


 精霊の死骸が極小さな粒になって空気中に漂っている物だ。


 この魔分子を使って魔法使いは魔法を使用する。


「そのまま息を吸って魔分子を体内に取り込んで下さい」


 リーエルの言葉に無言で頷き、私は大きく息を吸う。


 肺にエネルギーが溜まっていくのを感じて、そのまま固定する。


「これで魔法の準備が完了です」


 リーエルの勘だと、この部屋には水魔分子が他の属性より多い。


 井戸が近くにあるためなのだとか。


「水属性の魔法を使ってみてください!」


 水属性の魔法……何があるんだ?


 私がこの世界に来て、覚えている水属性魔法と言えば……先程のリーエルの紅茶を出す魔法か。


 しかしすぐに紅茶が出るはずがない。


 私は渋々と水を出すことに決定する。



「水属性魔法・水線(ウォーターライン)!」



 どうしてこの魔法を知っているかと言うと、好きなゲームにあった魔法だからだ。


 望み薄だが、何もわからない私にはこれしか無かった。


 水線を唱えた瞬間、肩に何か濡れた感触が生まれた。


「冷たっ……! んん? か、肩から水出てるんだけど!? ちょ、ちょっと!」


「あー、水を出す場所もイメージで決めないと」


「そういうことは先に言っておいてよ!」


 濡れた服を脱いで、インナー姿になった私は店先へ出た。



 肩から漏れる水は、普通の水の何倍も冷たく感じた。



 ・・・・・



「それじゃ、いろいろあったけど今日からここで働かせてください」


「はい! また明日待ってます」


 リーエルに一通りの挨拶を済ませ、私は店を出た。

 ちなみに濡れた服はリーエルの魔法で乾かしてもらったので心配ない。


 黄昏の刻の空、私は一人で王都の街を歩いた。


 夜になっても明かりは消えず、キノコタンの森のように星は見えなかったが、日本の雰囲気に似た感じがしたのでちょっと嬉しかった。


「早く帰って晩御飯食べよっと」


 家に帰ると家族は明るく迎えてくれるだろう。


 そう考えると、自然と足取りは軽くなり、ほとんど走るのと同じ速さで王都の人混みを進んだ。




こんにちは!秋風 紅葉です!


「リーエル=アザリアです!」


さてさて、リーエルさん。あなたの癖はすごいですね


「??」


静紅の耳に息を吹きかけてしまう癖だよ!


「あ、あぁ…私も治そうとはしてるんですけどね。なかなか治らないんですよ」


あと、リーエルさんのリーエル魔道具専門店って儲かってるんですか?


「……内緒です!」




さてさて、Twitterのフォローワーもちょっとだけ増え、総合PVも5000を突破。総合ユニークユーザーも1500を超えて嬉しいです!

ありがとうございます!!


「も、もしよろしければブックマークをお願いします!」


リーエルさんが言ったら失敗しそうで怖いけど大丈夫かな……。


次回!


内容はまだ決まってません。泣



リーエルさんの歳は実は……


「ひやぁー! い、言わないで下さい!」


次回もお楽しみに!

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