第43-2頁 単眼の悪魔
「おっとっと、初めまして、お久しぶりです六花さん!」
初めましてと久しぶりを同時に言うのは矛盾している気がするが、今は気にしないでおこう。
ルースリィスは自分の髪をくるくると指で巻くように触りながら自己紹介の言葉を述べた。
「どこかであったことありましたっけ? それより、あなたさっき何してたんですか」
「何って、久しぶりの再会に花を咲かせていただけですよ」
「その割には紗友理は辛そうだけど? あなたは紗友里の何なの?」
私が少女に尋ねると、すぐに答えてくれた。
「ふふ、それは内緒ですね」
無邪気に人差し指を唇に当てて、ウィンクをした少女は「ですが…」と続ける。
「紗友里さんだけに会うつもりでしたが、静紅さんにも会えましたし、気が変わりました。最近ちょうど新作ができたところですし、性能テストも兼ねて戦ってもらいましょう」
「新作? 性能テスト……?」
この子は何を言っているんだ、新作ということは製作物なのか?
「それも内緒です! それでは登場してもらいましょう! えーーい! 」
そう言いながらルースリィスは距離を取り、魔法のような音と共に小杖を振った。
その音がした瞬間、彼女の隣からとても大きな人型魔物が出現した。謎のデータ表記と共に出現したそれの名前は。
「[サイクロプス]。単眼の悪魔……」
「ふふ、さすがは六花さん観察が早いですねえ。そう、これはサイクロプス。私が最近製作を担当した魔物です」
黄金色の筋肉質な巨体は、おとぎばなしで読んだ悪鬼そのもの。
巨大樹を切り倒して作られた太い棍棒は、見るものを恐怖させる。
一番の特徴はその頭に一つしか目を持っていないということ。
単眼の悪魔と呼ばれるソイツに睨まれた私たちは、蛇に睨まれた蛙のように足が動かなくなってしまう。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
気を失ったままのルカとルナを安全な場所に避難させて、不安そうにこちらを見つめるフレデリカ。
弟子の不安を鎮めるのも師匠の役目だ。
私は彼女に「大丈夫」と親指を立てて、思考を頭の中に張り巡らす。
これはRPGでよくある巨大モンスター戦だ。
もしくは、レイドボス的な何か。
相手一匹に対し、こちらは大人数で挑む。
そうでないと勝てないほどの強さを敵は持っているからだ。
そして今回もそれは同じ。
なんとかサイクロプスを負かす作戦は……そうだ! 子供の時に遊んだゲームを参考にすれば!
「みんな聞いて、今から作戦を言うから! 」
私の大声にみんなが耳を傾ける。
「作戦はこうだよーーー」
私の作戦が有効だと踏んだのか、意外とあっさりみんなは受け入れてくれた。
・・・・・
「移動速度上昇の加護を授けました、任せましたよ!」
白魔道士のニンナが杖を持ってそう言うと、忍者コスチュームの女性フランの足元が白く輝き出す。
「ほらほらーこっちっスよー!」
速度特化のフランに移動速度上昇の加護が乗り、目にも止まらぬ速度で森の中を駆け巡る彼女に、サイクロプスは吠える。
「よしよし、良い感じに気が引けてるっスよ!」
『──名ずけて、サイクロプス討伐作戦! 名前の通りサイクロプスを討伐する作戦だよ! 項目一、囮役がサイクロプスの注意を引いている間に、紗友里の能力で高台を作る!』
風のような速さでフランはサイクロプスの周りを駆ける。
あくまで囮なのだが、さすが近衛騎士。
ただ避けるだけでなく、受け流し、カウンター、追撃などの様々な技で無駄な動きが一切ない。
フランへのバフを終了したニンナはすぐに次の項目の準備を始める。
『項目二、応戦しつつ、遠距離攻撃の人は高台の上に集合する』
「聖属性魔法・聖光!」
ニンナは私の苦手な魔法、聖光を唱えた。もちろん光の発生場所はサイクロプスの目の前。
『ぐおおおっ……!』
照明弾を喰らったサイクロプスは、瞳を押さえながら仰け反った。
「怯んだっ! サユリ様は高台の製作へ! 私はお師匠様の元へ行きます」
「あぁ。分かった、ありがとうフレデリカ」
そう言って紗友里とフレデリカは一度別れて、それぞれの役割の方へ動いた。
紗友里は一応遠距離攻撃が出来るので高台へ登り。
フレデリカは近接攻撃の方が強いので地上組だ。
「ルイス、私達も高台へ!」「はい!」
ルイスとファールもこちらの高台へ向かって来た。
「紗友里、お願い!」
「了解!」
紗友里の能力は地形を変化させることが出来る。
地面を無理やり引き伸ばせば簡易的な高台の完成だ。
そこに階段などの細かい編集を加えれば、それはもう立派な高台。
高さはサイクロプスの胸の辺り。
予定としてはベストポジション!!
やがて、紗友里、ニンナ、ルイス、ファールルイス、フランの遠距離攻撃系の人が集合した。
「よし! 作戦通りだ。あとはタイミングを見て項目三だよ!」
・・・・・
「ん、んん……ここはどこ?」
「姉さん。何やら凄いことが起きている……」
木陰に寝転がっていた二人の幼女が目を覚ましたことを、蜜柑は見逃さなかった。
「お、おい結芽子! ルカとルナが起きた!」
「ほんまや! さっきまで身体に穴が……え!? 空いてない。あれ? でもさっき確かに血がいっぱい……」
しかし、いくら結芽子がルカとルナの身体を見ても雪像に奇襲された傷は無くなっていた。
「あの、誰か知らないけどあんまりルカとルナのことを触ったら通報するなの」
「姉さんに変なことしたら、許さない」
「べ、別にいやらしいことするつもりは無い! 二人の力が必要なんや、手ぇ貸して!」
ルカとルナは不思議そうに目を合わせて、結芽子の方を見た。
「別に」「問題ないの」




