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第42-1頁 二刀流式小太刀使いフラン

ひょんなことで再会を果たした静紅と蜜柑。


ルカとルナを医療班の人に治療してもらうため、一度王都近衛騎士団の元に向かうことに。


六花の能力で周りの状況を見ていると、とある奇妙な反応があった。


「とりあえず、その王都近衛騎士団って人達と合流すればいいんだよな?」


「うん、そこに行けば紗友里もいるしルカとルナの治療も出来るはずだよ」


 雪精の脅威もいつの間にか去り、地面に積もったままの雪を踏み潰す音を楽しみながら私は歩いている。土の下に霜柱が張り、それをジャクジャクと鳴らす。


 目標地点は王都近衛騎士団。


 六花の能力で魔物を探して、手当り次第に当たっていけばいつか出会えるだろうという魂胆だ。


「六花、魔物はどこに居そう?」


「うーん、特別強い反応はあるにはあるんですが……」


「「?」」


 私と蜜柑が首を傾げるとすぐに六花が答えてくれた。


「なんか、魔物でも精霊でもないような……?」


「うーん、それってどういう事だ?」


「それがなんなのか観れないの?」


 いつもの六花なら、ある程度の距離があってもその生物の名前や情報が分かるはずなのだが。


「いえ、まだ許容範囲に入ってないので確認は出来ません」


「数は?」


「ひとつです」


 短い受け答えの後、六花の足取りが重く、そして早くなった気がした。


 一歩一歩、強く踏み締めて。次の一歩を出来るだけ速く。


「なんか嫌な予感がするな……」



 ・・・・・



「ふふ、お久しぶりですサユリさん……いえ、伊豆海 紗友里さん。2、3年ぶりですか?」


 キノコタン領地東端、緑髪の軍騎士に水色髪の謎の少女が妖しく話しかける。


 先の戦いによる騎士団の人員不足、医療班も怪我人の治療に手を追われ、支援できる余裕は無い。辺りに捨てられた壊れた武具達がその場の悲惨さを物語る。


 死人はでてないとはいえ、重傷者が多すぎる。


 紗友里と腕利きの騎士はなんとか回避できたものの、人手を増やすために派遣した見習い騎士達は医療班の居る安全地帯に運ばれた。


 今戦闘可能な者は、ニンナを含むわずか二人。紗友里も合わせて三人だ。


「……っ」


「ふふ、無視は酷いですよー。私と紗友里さんの仲じゃないですかぁ」


「お前と私に仲などない! ルースリィス!」


 強く言い放った紗友里の言葉に、ルースリィスは驚いた表情で、


「ふふ、そんな偉そうなこと言っていいんですか。実際あなた達は不利な状況……ちょっとは仲良くしておいた方が身のためだと思いますよ」


「……」


「はぁ、また無視ですか……紗友里さんは変わりませんねぇ。そんな性格だからほら、数年前あなたの友人は……」


「やめろ!! お前が凪咲の名前を口にするな!」


 紗友理は彼女に怒号を飛ばすと、刃よりも鋭い視線で睨みつけた。



 ・・・・・


 

 現在より数刻ほど前のことだった。


「ルカ、ルナ。静紅達が心配だから先に行ってくれないか?」


 振り返り、視線を合わせたのは紗友里の身長の半分にも満たない背の幼女だ。


 自分たちよりも早く行ってしまった静紅達に追いつくには、移動魔法の一つである飛行が有効だと考えた紗友里は、魔力に長けているルカルナに先に行くように命じた。


「はいなの!」


「紗友里様の命令なら……ルナ、頑張る」


 普段通り恋人繋ぎ中の二人は顔を見合わせた後、魔法を使って飛んで行った。


「「風属性魔法・飛行風」」


 糸やワイヤーも無いのに空を飛ぶ光景は、紗友里にとっていつ見ても不思議な事だ。

 

 数秒後、地面から巨大な火柱が上がるのを確認して、今度は騎士団の方を見る。


「各自戦闘準備を……」


 「きゃあああ!!」


 振り返って準備の指示を出そうとした時、白いローブを着た女性が悲鳴を上げた。


「ニンナ? どうした、君が悲鳴を上げるなん、て……」


 悲鳴の上がった方を見た紗友里の目に写ったものは。


『しぃぃ……!!』


 黒い爪、八本の足には繊毛がビッシリ生え、その九つの目が騎士団をしっかりと捉えている。


 超大型蜘蛛と見て取れるその魔物は、ニンナの隣にいた見習い騎士は鎧を貫通して腹に斬傷を負わされ、倒れた。


「巨大蜘蛛!?」


「ニンナさん、気をたしかにっス!」


 紗友里が恐怖で足が竦む中、ニンナを励ます少女がいた。


 彼女の名前はフラン。


 日本古来の忍者コスチュームが特徴だ。


「う、うん……ありがとうフラン」


「そんなことより、今は魔物に集中するっス。図鑑にある程度目を通していたアタシでも見たことの無い魔物……分からないことが多いけど、近衛騎士が居れば大丈夫っスよ!」


 その時、医療班の一人が声を上げた。


「とりあえずその方、運びます! 他怪我された方いますか!」


 その声でみんなの意識が我に戻り、お互いの安否を確認し始めた。


『しゅるるらぁ…!』


 女子として、少し不快感のある形の魔物はそうこうしている間にも近づいてくる。


「とりあえず耐性確認だ。六花のような能力を持った人はいないから、属性魔法をぶつけて弱点を探すよ!」


「はいっス!」


 六花の環境観察術のような能力があれば弱点が分かるのだが、今はそれが出来ない。なので片っ端から攻撃をぶつけて弱点を探し、その弱点でトドメを刺す作戦だ。


「聖属性魔法・聖光!」


 ニンナが得意とする聖光を使用したが、巨大蜘蛛には効果が無いようだ。


「聖属性は無しか。なら火属性で……!」


 紗友里は背中に装備した弓を構えて、矢を添えて唱えた。


「火属性魔法・炎矢!」


 紗友里が呪文を唱えると、矢が炎に包まれた。躊躇なく放たれた火矢は巨大蜘蛛に命中! したのだが。


『ぎゅぅぅ……ぎゃぁぁ!!』


 それが怒りのトリガーとなり、巨大蜘蛛はその口から見るからに毒々しい液体を吐き出した。


「うわぁー!」「え、何これ、何これ!」「ぁぁ…ぅ、」


 毒に触れた人は次々に倒れていき、やがて触れてない者だけが残る。


「くそ……まだ動ける人は怪我人の避難! フランとニンナはここに残って応戦!」


 素早い判断力と軍の指揮力で指令し、あとは各々の行動次第だ。


 紗友里とニンナとフランはこの場に残ったのだが、未だに弱点は判明していない。


 先程の火矢はダメージが入ったとは思うが、それが原因で毒を吐いたと考えられない訳では無い。


 出来るだけノーリスクで弱点を探りたいので、安易に火属性の魔法を使うわけには行かない。


 ルカとルナならこのような緊急事態でも本能的に察知できるはずなのだが、彼女らが居ないためそれも無理。


「アタシは火属性系統の攻撃をするのがいいと思うっス。一瞬だけアイツ、火矢が当たった時に怯んだんス」


「しかしフラン、また毒を吐かれたらどうする?」


「だから一撃で仕留めるんスよ。出来るだけ強い一撃の魔法で!」


 そう提案するフランだが、フランは乗り気ではないらしく、


「そんな魔法、ルカさんとルナさんしか使えないですよ……。私は聖属性専門ですしサユリ様は魔法が苦手。どこにそんな魔法を使える人がいるんですか?」


「まだあったっス。毒を吐かせずに討伐できる方法が!」


 なにか思いついた様子でニンナの方を見て、言葉を続けた。


「毒を吐く前に倒しきればいいんスよ! ほら、さっきも毒を吐くまでに少しだけ時間があったはずっス」


「まさかフラン……」


 フランは腰の後ろに納めていた二刀流式小太刀を引き抜き、巨大蜘蛛から紗友里達を守るように立った。


「アタシにいい案があるっス。ちょっとだけ力を貸してくださいっ!」


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