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総集編 201頁〜300頁までの軌跡 その1


 ジャンヌダルク率いる革命軍と残忍姫クリュエルの戦争からしばらく。


 我が家に帰ってきた静紅は、家で待っていた家族に戦争の地[アーベント・デンメルング]

での出来事をゆっくりと時間をかけて語り聞かせた。


 壮絶な戦いだったこと、スズメという弟子ができたこと、そしてジャンヌが犠牲になったこと。


 話を聞き終えた六花は、静紅が無事に帰ってきてくれたことに喜ぶと共にジャンヌの冥福を祈るのであった。


「大丈夫、あなたのことは忘れないよジャンヌ。たとえあなたが消えてしまったとしても、私の中でいつまでも生きている、そうでしょ?」


 昼下がりのダイニング、ジャンヌのことを語り終えた静紅は自分の胸に手を当てて静かに目を閉じるのであった。



・・・・・



 戦いの疲れも取れ、ようやく日常を取り戻してきたある日。


 六花とフレデリカ、そしてルリが大喧嘩をする声で静紅は目を覚ました。


「この人たちがボクの大切にしていたチョコクッキーを食べちゃったんです!」


「なかなかに美味しかったぞ!」


「名前を書いてないのが悪いですね」


 やいややいやと喧嘩を繰り広げる三人に、静紅はとある大会のチラシを見せた。


「雪原地帯にある料理都市クックードで開催される料理大会、それに出てみんなでお菓子を作ればいいんじゃない?」


 チラシの内容はこうだ。


 ──────────────


【第18回クックード料理大会】


 我が国ヴァイシュ・ガーデン有数の料理の街で開催される18回目の料理大会へご招待!

 毎年100を超える参加者の中から、最も料理上手な人を選ぶ本大会。今年は特に各地方の特産品も集めていますから、素材の充実と共に料理の選択肢が広がっております!


 参加条件 男性女性問わず、満15歳


 優勝賞品 聖具・火山のミトン


 ─────────────


「雪原地帯……ですか」


 チラシを見ながらフレデリカは暗い表情でそう言った。


 彼女は幼少期、思い出すだけでも気分が悪いほど劣悪な環境で育てられてきた。


 その舞台である雪原地帯には、どこかトラウマがあるようだ。


「そうかそうか! リカの故郷があるのだな、実は我の故郷も雪原地帯方面にあるのだ! たまには故郷に帰り、皆に顔を見せるのも大切だぞ!」


 そんな暗い背景のことを知らないルリは、わっはっはと笑ってフレデリカの背中を叩く。


「……そう、ですよね。ルリさんの言う通りです! あれから数年経っているんです、精神面でも成長したんですから、一度帰省してみるのもいいかもしれません」


 こうして[料理大会への出場][フレデリカの里帰り][ルリの里帰り]の三つの目的を持って、雪原地帯へ向かう竜車に一行は乗るのであった。



・・・・・



「雪だあーー!!」


 雪原地帯の少し北、そこには街全体が食品工場のような不思議な風景の街があった。


 料理都市クックードに到着した一行は、各々屋台や出店で昼食を摂ることになり、静紅は珍しく一人で街を散策する。


 工業の街クラ=スプリングスとは違う、白くて温かい湯気が街の至る所から立ち上るここクックードは、空気が冷える土地にあるため食物が腐りにくい。


 生鮮食品でも外に置いておくだけで冷凍庫のように凍るので、長期の保存が可能だ。


 そのため昔から食文化が発達し、今のような街になったのだとか。


 出店で買った昼食を頬張りながら歩いていると、一点を取り囲むように押し寄せた野次馬に遭遇する。


「先にぶつかってきたのはそっちにゃ! 謝れにゃ!」


「何を言う! ぶつかってきたのはそっちなのだ、このチンチクリンが!」


 野次馬の中心には、とある猫耳の少女とルリが口喧嘩をする姿があった。


「ちょっとちょっと、何があったの!?」


 ふたりの間に割り込み、静紅は事態を収めることに専念した。


「あれ、君……くーちゃんにゃ?」


[くーちゃん]と呼ばれて指を刺された静紅は目を丸くして首を横に振る。


 静紅、シズクお姉ちゃん、シズクさんなど色々な呼び方があるがくーちゃんと呼ばれたことなど一度もないからだ。


「いっちゃん……ああ、サユリちゃんから話は聞いてるにゃ! 何でも凄い功績を残してるんにゃって?」


 実際、静紅は王国ヴァイシュ・ガーデンの魔物を討伐したり直近ではアーベント・デンメルングの王を倒したり、功績は残している。


 何でも彼女とサユリは昔からの友人らしく、よく交流する機会があるのだとか。


「……? 何で王様のサユリと交流が……あなた名前は?」


 静紅が彼女に名前を聞くと、彼女は腰に手を当ててこう名乗った。


「王国[アーク・ヴィレッジ]の王、猫獣人のマカリナにゃん! よろしくにゃ、くーちゃん!」


 マカリナの話を聞くと、彼女も静紅と同じように料理大会に出場するためにやってきたらしい。


 そして彼女の言う[くーちゃん]とは、静紅の本名であるシズク・クイナグチのクから取ったのだとか。


 彼女は人との距離を縮めるために、ニックネームを付けるのが好きらしい。


 しかしそのネーミングセンスは置いておくとする。



・・・・・



「マカリナ様に会ったのですね、私も何度か国際会議でお会いしたことがあります」


 その後、商店街でフレデリカと再会した静紅は料理大会の受付を目指して並んで進む。


 フレデリカは以前、王の紗友里のメイドとして暮らしていたので国際会議にもついて行くことがあったらしい。


「前から思ってたけど国際会議とか、王様同士の交流とか思ってたよりこの世界って横のつながりがあるんだね」


「[この世界]……? そうですね、七代ほど前の王の時代は戦争をドンパチやってたみたいですけど、今は手を取り合って平和の実現を目指しているみたいですよ」


「これも紗友里の頑張りあってだね! さあ、みんなももう受付で待ってるかもだし、急いで合流しよっか!」


 静紅は振り返ってフレデリカに手を伸ばすが、彼女はその手を取らなかった。


「……嫌です」


「……へ?」


「合流したくありません、お師匠様と……ずっと二人きりがいいです」


 それは愛に満ちた告白────などでは無かった。


 彼女の瞳にハイライトは無く、笑顔の色はひとつもない。


 彼女の手はとても冷たく、ぎこちない笑顔を作ろうとしてはすぐに寂しそうな表情に戻ってしまう。


 対応に困っていた静紅を見て我に返ったのか、フレデリカは一歩後ずさりして頭を下げた。


「……いえ、やっぱりいいです」


「本当にいいの? 私、暗いままのフレデリカと料理大会に出場してもちっとも楽しくないよ」


 思い返せば最近フレデリカはどこか暗い表情をすることが多かった。


 そしてその理由も、静紅はしっかり理解はしていた。


 静紅と六花は相思相愛で恋人以上の関係値を持っている。


 そこへやってきた余所者は明らかにフレデリカだ。六花と恋敵のような立ち位置にいるが、本当は恋敵にもなれないほど静紅と六花の関係は成熟している。


 しかしフレデリカが静紅のことを好きなのは紛れもない事実であり、その気持ちに嘘は付けなかった。


 余所者で邪魔者の自分だが、静紅を想う気持ちは誰にも負けない自信があるフレデリカは少し心が疲れてしまったようだった。


「私は……フレデリカはこんなにもお師匠様のことを愛しているのに……どうしてこの想いが届かないのですか?」


 難しい質問に、静紅は返す言葉も見つからない。


「私がお師匠様と出会わなければ、お師匠様が悩むことは無かった! リッカさんを羨ましく思ったり、妬ましく思うこともなかったのに……!! 私が居なければ……!」


 そんな彼女に静紅が出来ることは、ただ優しく抱きしめてあげることだけだった。


「大会までまだ時間はある。二人きりの時間、少しだけなら作れるよ」


「……ひとつだけ、お願いがあります─────」


 静紅はフレデリカに半強制的に腕を掴まれ、[休憩用]のホテルに入っていくのであった。



・・・・・



「ごめんごめん、遅れちゃった」


「遅いのだー! 来なかったから適当に大会に登録しておいたぞ!」


「登録はボクがしたんですけどね……」

 

 ホテルから大会の会場まで少し距離があったので、遅れてしまった静紅とフレデリカは、会場に先に着いていた二人と合流した。


「大会は毎年大荒れになりますからね、早く舞台にあがりましょう!」


「……ん? 参加人数ってこんなに多いの……?」


 静紅たち同様、舞台にあがったのは舞台そのものからはみ出そうになるほどの大人数だった。


『参加者の方は舞台へ上がってくださーい! もう居ないですかー!?』


 魔道具で拡声されたアナウンスが会場内に響く。


 ちなみに聖具や魔道具は持ち込み禁止なので、魔法人形は大会のロッカーに置いてきた。


 北海道の雪像祭りのような感じで作られた舞台は、まさに白雪のキッチン。


「こんなにぎゅうぎゅう詰めの状況で料理なんか出来るかー!」


 人混みに揉まれながら静紅がそう叫んでいると、フレデリカが笑顔で問うてきた。


「そう言えばお師匠様、武器は何を使うのですか?」


「ん……? 今武器って言った?」


 静紅が嫌な予感を察知した時にはもう遅かった。


「大会が始まったら恐らく混戦になるでしょう、落下中は離れないようにおねがいしますよ!」


「は? 混戦? 落下?」


─────待て待て待て、私の知ってる料理大会じゃない!!


『はいはーい、ちゃっちゃとルール説明するんでちゃんと聞いててくださいねー』


 アナウンサーが気だるそうに大会のルール説明を始めた。


 箇条書きでまとめるとこうだ。


 ・転送先で3日生き残り、食材を集める。


 ・3日後、帰還してから集めた食材で調理。


 ・調理した料理を審査員に採点してもらう。


 ・転送先は山、海、森の大自然。そこの食物連鎖の頂点は魔物であり、人間ではない。


 ・転送先は戦力が物を言う。略奪、奇襲、占領、なんでもあり。


 ・能力の使用は無制限。


 ・武器の持ち込みは一人一つまで。なお、聖具、魔道具の持ち込みは禁じる。


 ・魔物を倒して稼ぐポイントと審査員からの料理点数で優勝者を決める。


 ・1チーム4人まで、同盟や裏切り行為も可。


 ・転送先で死亡したら、会場に強制帰還。



 やはり静紅の知っている料理大会ではない。

 

「転送後は空の上だ、毎年夕暮れ時に転送されるから、着陸したらすぐに夜の準備を始めないと生きていけないぞ!」


「着陸地点は海の方がいいですね、ボクたちは散策系の能力者が居るので」


「ねえ待って待って待っ──────」


 真面目に作戦準備を始める三人についていけず、ただ涙目で慌てふためく静紅は次の瞬間気を失いかける。


『さあさあ、転送準備完了しました! それではみなさん、また三日後に会いましょう。行ってらっしゃい!』


 静紅たち含めた約百人の足元に、巨大な魔法陣が生成される。


 眩く光るそれに吸い込まれ、気がつくとそこは───────。


「うおあああああああああッッッッ!?!? お、落ちるううううううううううう!!!」


 そこは、空の上だった。



連続投稿412日目!


 久しぶりの総集編更新ですね!


 さあ今回からクックード料理大会編がスタートしました!


 波乱の料理大会編、カットしているところもかなり多いので、良ければ本編もぜひ!

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