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第36-1頁 肌寒い森


 キノコタンの森は意外にも狭く、その中でも悪キノコタン領地と善キノコタン領地とが合併してできたキノコタン領地は結構狭い。


 平面積で見たら大型ショッピングモールぐらいだろうか。


「はぁ、はぁ……雪が邪魔で走りずらい!」


 キノコタン・ナイフを手に持ち、全力疾走しているが、運動神経皆無&運動不足の私と六花にはかなりきつい道のりだと言える。


「え、お師匠様ってもしかして運動できない感じですか?」


「う、うるさい! こっちも好きで運動神経悪くなってるわけじゃないんだよ!」


 そう話している間も、軽い足取りで雪の上を走るフレデリカ。


 身体に二つの大きなボールを持っているのにも関わらず、私より先に行くフレデリカを見て少しイラッとした。


「ふんっ……静紅さんはフレデリカさんと仲が良いようですね」


「おやおやリッカさん、お師匠様を取られて怒ってるんですか? もしかして嫉妬?」


「ああ!? 言っておきますけどボクの方が静紅さんと一緒にいる時間が長いんですからね!」


 ウザさ全開で六花を煽るフレデリカ。そのウザさは言葉で表すことが出来ない程だ。


「こんなときまで喧嘩しないの!」


 そんな私の言葉を無視して、二人の言い合いはヒートアップする。


「リッカさん……恋に性別と時間は関係ないんです」


「それとこれとは別ですよ! だいたいあなたはなんなんですか! 誰なんですか!」


 そう言いながらも物凄いスピードで雪を踏む二人。


 言い合いをしているのにスピードが上がっていく二人をみて私は肩を落とした。


「あれれ? 言ってませんでしたか? 私はフレデリカ。エルフのフレデリカです!」


「そういうことを聞いているんじゃないんです! あなた何様ですかって聞いてるんですよ!」


「フレデリカ様です! えっへん」


「あああ!?!?」


 もうほんと、なんでもありだな。


 小学生の口喧嘩を見てるみたいだよ……。


 そんな言い合いを見ながら進んでいくと、やがて木がない所に出た。


 ここがキノコタン領地だ。


 領地に入った途端、前の二人が急に止まったため、私は止められず六花の背中にダイブしてしまった。


「あ、ごめっ……!?」


「な、なんですか静紅さん……急に押し倒したりして」


「おい何で赤くしてんだよ」


「それよりお師匠様、戦闘態勢を」


 そう言いながら、フレデリカは能力で大剣を出現させて鞘から引き抜いた。


 光が反射するほど磨かれた刃に、一般的な剣のような柄が付いている。


 赤宝石が埋められたその大剣は、ルビーのような紅眼を持つフレデリカにベストマッチの武器と言えるだろう。


 ぎゅぎゅっと音がするほど強く握りしめて、剣先を前方に上げる彼女からは、歴戦の戦士を思わせるオーラが伝わってくる。


 珍しく真面目な表情のフレデリカを見るだけで、何か良くない事が起きていると察せられる。


 途端、前方から何かが飛んでくる気配がした。


「……ッ!」


 彼女の何倍もの重量の大剣が斬ったのは。


「雪……? いえ、ただの雪じゃないですね。これ」


「そうですね、これは……魔分子に近い何かを感じます」


 六花は砕け散った雪の欠片を手で掬い上げると、にぎにぎと観察した。


「ここはお師匠様を取り合っている場合じゃありませんね」


「はい、ここは一時休戦です。ボクの能力が正しければ数メートル先、強い何かが居ます」


 六花の指さすほうには建物があった。


 もちろんキノコタンの家だ。


「あの家に何かあるの?」


「はい、お師匠様。この思考パターン……人間じゃないです」


「人間じゃない? 人間じゃないって……」


 私の言葉の途中、再び死角から雪が飛んできたが、これもフレデリカの大剣で阻止した。


「うわあ!? せ、雪像?」


 今までただの雪が飛んできていると思っていたが、雪で作られた…ドラゴンの雪像が飛んできているのか?


「高度な雪属性魔法……。ということはやはり……」


「はい、この雪の異変の元凶さんですね」


 テンポのいい六花とフレデリカの解説で私はようやく二人の思考についていけている。


 さっきの喧嘩をしていた様子は無く、仲が良さそうで何よりだ。


『雪属性魔法・雪華』


その刹那、小さな神秘的な声で呪文が唱えられたのだった。




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