第34-2頁 能力不調の冴えない社畜
「神……? でも神様だったら私前に会ったことあるけど、桃色の髪の毛をしてたよ?」
神様という存在と出会うのは転移時以降2回目だが、初めて会ったのはもっと偉そうな桃髪の女性だったはずだ。
それに紗友里も神について気になってたみたいだし。
その言葉に再び納得したキュリオスは、うんうんと強く頷き。
「それはペルソナちゃんの方だね。キュリオスちゃんとペルソナちゃんは同じ成れの果てでも別人だよ!」
「ぺ、ペルソナ……分かった」
また聞きなれない人物名が出てきて困惑する私だが、こんなことで頭がついていかなくなるわけではない。
しかも、紗友里への情報を得ることができた。
私を異世界に案内した神様の名前はペルソナ……ペルソナだ。
そんなことを考えている私を置いて、キュリオスは手を打って会話を本題に入れた。
「えっと、シズクちゃんの能力って今不安定だよね?」
キュリオスは人差し指をこちらに向けて差し、会話のバトンをこちらに渡してきた。
「うん、不安定といえば不安定かも。原因がわかんないし、極力使わないようにしてるよ」
キノコタンの森の一件から、何故か理由もわからないままま不安定な状態の[物体操作術]。
使いこなせたなら便利のだが、正直まだまだ慣れない。
というか、上手く力の加減が出来ていないので使わなかった、というより封印していたの方が正しい。
「実はシズクちゃんの能力はちょっと複雑な構造になってるんだよ」
「……というと?」
「そうだねえ。例えばキュリオスちゃんがプロデュースした能力[心情透視]。持ってる子は、シズクちゃんの近くだとフレデリカちゃんだね。で、心情透視は、直接対象の感情や想像に接続するって言う二回の動作で行われてる。分かる?」
何を言っているのか分からない私は、難しい顔をして黙り込む。
「もっと噛み砕いて言うと、さっき二回って言った動作、[対象の設定]と[心情を読み取る]が合わさって初めて[心情透視]って能力が出来上がるわけ」
「あ、ああ……三割はわかったよ!」
「でもね、シズクちゃんの[物体操作術]はいくつもの動作で構成されてるんだ。大まかに言うと……」
[対象の設定]
[対象との距離の測定]
[物体の確認]
[自身の思考を読み取る]
[読み取った思考を元に対象を操作出来る最大距離の測定]
[自身を中心として周囲の建造物の有無の測定]
[物体が操作された場合をシュミレーション]
[思考と物体の移動を結びつける]
いくつもの動作を重ねていってようやく物体がシズクちゃんが想像するだけで動かせることが出来るんだ! でも今の状態はコンピューターのバグみたいなものが起きていて、距離が上手く測れなかったり、対象の設定が出来なかったりしてるんだよ」
ま、待て待て待てわからんわ。
確かに能力を使おうとしても発動が出来なかったことがあったけど、それが能力その物自体のバクだとは誰も思わなんだ。
てかバグってなんだよ、ゲームかよ。
パンクしそうな頭を押さえていると、キュリオスが衝撃的な言葉を発した。
「あんまり強く考えなくて大丈夫だよー」
「なんで」と私が口を挟むよりも0.1秒程先にキュリオスが話した。
「ここでの記憶は全部消えるからねー」
「じゃあなんでこんなことを話して……」
ここからだ、キュリオスの表情と声色が変貌したのは。
「実は今、他の3人に内緒であなたとお話してるんだけど、今後のことも考えて能力は使えた方がいいでしょ? だから私が能力のバグを修正してあげるってわけ」
「それはありがとう、って言いたいところだけどまだまだ聞きたい事があるの」
ここで色々聞いておかないと今度いつ神様に会えるか分からない。
「聞いてもどうせ忘れちゃうよ? 記憶消えちゃうんだよ?」
「……」
キュリオスの言う通りだ。どうせ記憶が消えるのに質問ばかりしても時間の無駄でしかない。
「でしょ? やっぱり人間は簡単に願望を作ってはそれが無理だと分かったら諦めちゃうよね」
「な、なにを……!」
「何って、別に私は静紅ちゃんに危害を加えるつもりは無いよ[今回は]ね。それじゃあ、さっさと始めよっか!」
その言葉を言ったキュリオスの表情はまるでおぞましい何かのような……。
「人間じゃないよ、あなた」
「だからさっきから言ってるでしょ? 私は成れの果てだって。ほら、目を閉じて力を抜いてね。あ、失敗しちゃったら死んじゃうかもしれないけど許し」
人間とは思えないほどの力で私を片手で拘束し、私の額に生命の温もりを感じられないような冷たい手のひらを当ててこう唱えた。
『権限:キュリオス。対象の能力を編集……』
あぁ、やばい。急に強い眠気が……。
謎の自称神の少女キュリオスに能力の修正を始められた途端、強い眠気が私を襲い、そのまま瞬きをする間に眠りに落ちてしまった。
・・・・・
どっどっどっ、という竜の足音と振動で私は深い眠りから起き上がった。
「ああ、良く寝た……。どれぐらいの時間寝てた?」
私は小さくあくびをしながら、すぐ目の前のフレデリカに問いかけた。
「えー、ほんの2時間ほどでしょうかねぇ。それにしてもお師匠様……変な夢見てませんでしたか? あ、いえ淫夢とかそう言う変な夢じゃなくてですね」
「おい淫夢みたいな単語聞こえたぞ!?」
「はい、淫夢と言いました。……って、それは関係ありません! お師匠様、神様と会ってませんでしたか? しかも意識がハッキリとしていて、会話もしてましたよね?」
「え……? うーん、なんの夢か覚えてないけど、誰かと会ってた気はする」
突然フレデリカから夢の内容を教えられて困惑する中、確実にキノコタンの森に近づいていく私達。
「やっぱり! 私の能力って他人の夢の中までちょっとなら分かるんですよ」
フレデリカとの会話に夢中で視界の右下にゲーム画面のように表示された文字に、私は気づいたのは数分後の事だった。
『能力が権限者によって修正されました』
「……日本、語……?」