第1290頁 人間なんて大っ嫌いだ
「レイギルモア、今すぐここを出て逃げるよ……!」
「え……? う、うん。分かった」
私が凄い剣幕で洞窟に入ってきたものだから、レイギルモアは一瞬飛び跳ねるように驚いてからすぐに立ち上がった。
彼女の手首を掴んで駆け出そうとしたその時。
洞窟の入口が魔法によって攻撃され、轟音とともに崩落する。
「危ない……ッ!」
落石に気が付かない私の手を引いて、レイギルモアは頭上に盾として岩の壁を生成した。
「生き埋めにするつもりだった。あそこで咄嗟の判断をできるのは流石上位精霊ね」
「あ、あなたたちは何者ですか……名乗りもしない方の言うことは聞きません……!」
近くにあった木の棒を槍のように構えて、洞窟の入口を取り囲む大勢の騎士たちを睨む。
「フンッ……! 俺たちは人類の味方ってやつだ。人類連合聖具開発課実行部隊」
そう言って、鹿角の男は金の刺繍で描かれた紋章を見せてきた。
この紋章、聖具工場で見つけたものと一緒だ。
じゃあ本当に彼らが聖具を作っている組織ってこと?
「身分は明かした。その精霊を私に引き渡して」
エルフ耳の女性は威圧するように杖先をこちらに向けてそう言った。
私は相手から見えないように、身体の後ろに手を回して錬金術を準備する。
─────錬金術・創造・土弾……。
「抵抗したら……うぐッ!」
「抵抗したらこうなる。変なことは考えないで。大人しく精霊を渡して」
肩に雷属性魔法を受け、痺れと共に激痛が走る。
「エルメス……! お前たち、彼女に手を出して五体満足で帰れると思うな……ッ!」
力の籠ったレイギルモアの言葉の後、洞窟の入口を塞ぐように、地面から柱が何本も突き出して壁を作る。
柱に更に植物のツタが絡まり、その強度を上げる。
「人間は嫌いだ、人間なんて大っ嫌いだ……!」
「レイギルモア落ち着いて、私は大丈……」
私の言葉を遮るように、彼女は洞窟の奥へ土塊を放って洞窟の壁を破壊した。
「行くよ」
「う、うん……!」
脆い壁を突破し、レイギルモアに手を引かれて私は洞窟を抜けた。
洞窟の壁を突き破るほど強力な土塊を、チャージ時間無しで放った彼女。
彼女に秘められた力に驚きつつも、私は後方へ流れていく景色と彼女の凛々しい顔を交互に見る。
「逃がすなァ!」
しかし連中も簡単には諦めず、土の壁を突破した彼らは遠方の私たちに向かって大量の魔法を撃ち込んでくる。
「ひっ、ひいいいいぁ! くるくる、来るよー!!」
「私は走る、エルメスは何をするか分かってるよね」
そう言って彼女は私を軽々と抱え、進行方向に尻、後方に頭が向くようにした。
飛来する魔法を退けろ、というわけだ。
火土水風様々な魔法の弾が迫る中、私は意を決してそちらに手を向ける。
「錬金術・反転・進行……ッ!!」
細かい制約はあるが、中級魔法程度なら私の錬金術で跳ね返せる!
魔法を反射しながら走りをレイギルモアに任せ、私たちは何とか窮地を脱するのであった。
人間は大嫌いだけどエルメスは……なレイギルモア姉さん。




